「組物の意匠」とは?システムキッチンや工具セットを一括で権利化する制度

自社でセット商品や統一感のある製品群を開発・販売する際に、製品群全体を一つの意匠として保護できる「組物の意匠(くみもののいしょう)」という制度があります。これは、本来であれば個別に出願すべき複数の物品を、1つの意匠権としてまとめて登録できる仕組みです。
ここでは、システムキッチンや工具セットなどの具体的な製品例を交えながら「組物の意匠」制度について分かりやすく解説します。
「組物の意匠」とは?
まず、意匠権を取得する際の基本原則と、その例外として設けられている「組物の意匠制度」の概要について解説します。
「一意匠一出願」の原則
人が創作したデザインを保護する意匠法には、「一意匠一出願の原則」があります。
これは、1つの出願書類につき1つの意匠(1つの物品等)しか記載してはならないという手続上の原則です。例えば、「テーブル1台」と「椅子1脚」は別々の物品であるため、原則として2件の出願が必要となります。
「組物の意匠」の例外
「一意匠一出願の原則」に対する例外として定められているのが「組物の意匠」です。これは、意匠法第8条に次のように定められています。
「同時に使用される二以上の物品、建築物又は画像であって経済産業省令で定めるもの(以下「組物」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、組物全体として統一があるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる」
ここで「組物(くみもの)」とは、同時に使用される2つ以上の物品・建築物・画像で、経済産業省令の意匠法施行規則で規定されている特定区分に該当する組み合わせを指します。具体的には、「一組の電気・電子機器セット」「一組の家具セット」「一組の飲食用容器セット」などが挙げられます。
また、「一意匠として…意匠登録を受けることができる」とは、複数の構成物品からなるセット全体を「1件の意匠」とみなし、1つの意匠権として一括して権利登録できることを意味します。
「組物の意匠」の要件
組物の意匠として登録を受けるためには、主に以下の3つの要件を満たす必要があります。
省令で定める組物の意匠に該当すること
同時に使用される二以上の物品、建築物、画像(以下「物品等」という)であること
組物全体として統一があること
以下、順に解説します。
省令で定める組物の意匠に該当すること
組物の意匠として出願するには、意匠法施行規則の別表に掲げられている組物の区分(43種類)のいずれかに該当する必要があります(意匠法第8条、同法施行規則第8条)。
これは、組物の意匠を一意匠とする扱いはあくまで例外的であることから、権利範囲の明確化と審査の混乱防止、ひいては第三者の予測可能性を確保するべく、設けられた要件です。
まずは、意匠法施行規則の別表に記載された「一組の〇〇」という指定名称に合致しているかをチェックしましょう。もしこの別表に記載のない組み合わせで出願した場合は、拒絶理由に該当してしまいます。
同時に使用される二以上の物品等であること
組物の意匠は、「社会通念上同時に使用される二以上の物品等によって構成」されている必要があります。組物の意匠で出願を検討する際は、構成物品同士が同一の目的のために慣習上セットで使用される関係にあるかどうかを確認しましょう。
もっとも、必ずしも現実に同一の時刻に全ての構成物品が使用されるものであることまでは求められません。
意匠審査基準によると、「各構成物品等が、出願された組物の意匠の用途及び機能や使用の目的等に則してなされる一連の使用の範囲内で用いられるもの」である場合や「社会通念上一体的に流通がなされるもの」である場合は、この要件を満たすものと判断されます。
組物全体として統一があること
これらの要件に加えて、「組物全体として統一があること」(意匠法第8条)が必要です。すなわち、構成する各物品等の形状、模様、色彩、またはそれらの結合に共通の意匠的特徴(統一感)があることが要件となります。
共通する造形処理、カラーリング、素材感、ディテールなど、一目で「同一シリーズ」と分かる意匠的特徴があるかどうかを検討しましょう。
前述の意匠審査基準には、具体的に次のような判断基準が示されています。次の1~3のいずれかに該当する場合は、組物全体として統一があるものと判断されます。
各構成物品等の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合が、同じような造形処理で表されている場合。
各構成物品等により組物全体として一つのまとまった形状又は模様が表されている場合。
各構成物品等の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合によって、物語性など組物全体として観念的に関連がある印象を与えるものである場合。
「組物の意匠」の具体例
続いて、意匠法施行規則の別表に掲げられている代表的な指定区分「一組のシステムキッチン」と「一組の利器、工具セット」を例に、具体的な権利化のイメージを見ていきます。
一組のシステムキッチン
システムキッチンは、複数の要素が一体的に配置・使用される典型的な「組物」であり、調理台、流し台、加熱機器、収納設備、換気フードといった構成物品から成ります。
これらの構成物は、原則的には別々に意匠出願されるものです。原則として、5つの構成物品があれば、5件分の出願手数料、意匠登録料(年ごとに納付する特許庁印紙代)などが発生します。
しかしながら、組物の意匠制度を活用すると、5つの構成物品を一括で権利化することが可能になります。具体的には、上記の各ユニットが全体として「直線的なモダンデザイン」、「共通の木目調パネル」、「統一された取っ手の形状」といった共通の意匠的テーマのもとでデザインされている場合、「一組のシステムキッチン」として1件の出願で権利化できることがあります。
この場合、システムキッチン全体の意匠権として1件の費用で権利化できます。
一組の利器、工具セット
同様に、「一組の利器、工具セット」は、作業工具を販売するメーカーに活用される組物の意匠制度の代表例です。工具セットは、ドライバー、スパナ、ペンチ、ソケットレンチ、専用収納ケースなどの物品で構成されます。本来であればこれらの構成物品は個別に出願され、個別に意匠登録されるのが原則です。
一方で、これらの構成物品を一括して権利化できる方法もあります。例えば、グリップ部分の形状やカラーリング、ノンスリップ加工のパターンなどに共通の意匠的特徴(デザインコンセプト)を持たせれば、セット全体としての「統一感」が認められる可能性があります。
こうして組物の意匠としての登録が認められれば、個別に出願すると10~20件にも及ぶ工具群を、1件の「一組の利器、工具セット」として一括で権利化し得るのです。
組物の意匠として出願・権利化するメリットと注意点
最後に、組物の意匠として出願・権利化するメリットと注意点を紹介します。
組物の意匠のメリット
組物の意匠を一括で権利化するメリットは、主に次の3つです。
①権利取得・維持コストの削減
システムキッチンや工具セットの例に示したとおり、構成物品が複数ある場合でも、組物の意匠として出願・登録できれば、1件分の費用で権利を取得・維持できます。知財予算が限られるスタートアップや中小企業にとって大きなメリットと言えるでしょう。
②デザイン全体の「トータルコーディネート」の保護
個々のパーツの形状だけでなく、セット全体として表現された統一的な意匠を保護できます。このため、競合他社がセット全体のデザインコンセプトを模倣することを防ぐ効果があります。
③ブランドイメージの形成と訴求力強化
「一組の〇〇」として意匠登録を受けることで、統一的なデザインラインを持つプレミアムな商品群としてブランドイメージを形成し、商品価値を訴求しやすくなります。
実務上の注意点
「組物の意匠」は利便性の高い制度ですが、権利行使の局面において特有の注意点があります。
組物の意匠権は、あくまで「組物全体」に対して発生する権利です。したがって、競合他社が、例えば自社の「組物の意匠(例:工具セット)」に含まれる「ドライバー1本だけ」の形状を真似て単体で販売した場合、組物の意匠権のみでは直接的な権利行使(差し止め請求や損害賠償請求)が難しくなるケースがあるのです。
このため、競合他社に単体で模倣されるリスクが高い主力パーツ、例えば特徴的なデザインのドライバーなどについては、組物の意匠とは別に、単体の物品について意匠出願しておくことも有効です。特徴的な部分のみを保護したい場合には、部分意匠制度の活用も検討できます。
まとめ
「組物の意匠」制度(意匠法第8条)は、システムキッチンや工具セットのように、複数の物品が組み合わさって機能・美感を構成するプロダクトにおいて、出願コストを最小限に抑えながらデザイン資産を一括保護できる優れた制度です。法改正や意匠審査基準の改定動向を踏まえ、自社製品に最適な意匠戦略を立てましょう。
井上国際特許商標事務所では、経験豊富な弁理士が意匠登録の手続き代行を承っています。組物の意匠の出願・登録をご検討の方は、ぜひご相談ください。



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