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職務発明とは? 対価算定や社内規程、よくあるトラブル・解決策などを解説

  • 執筆者の写真: Eisuke Kurashima
    Eisuke Kurashima
  • 2 日前
  • 読了時間: 6分

企業や地方公共団体(企業等)の従業者が企業等の設備や資金を利用して行った発明のうち、職務の範囲内で行われたものは「職務発明」と呼ばれます。


そして、職務発明規程などであらかじめ企業等が特許を受ける権利を取得することを定めたときは、その権利は発明者ではなく企業等に帰属することとなります。


今回は、職務発明の対価算定の考え方から、社内規程の作成・運用、よくあるトラブルと解決策を紹介します。



職務発明と対価算定の考え方


職務発明と対価

職務発明が認められた場合、発明者には企業等から相当の対価が支払われます。この対価は、発明の貢献度や企業等にもたらされる利益などを考慮して決定されます。


対価の算定方法は法律で厳密に定められているわけではなく、各企業等の職務発明規程に基づいて決定されます。このため、算定される対価は企業等によって幅があります。


また、金銭支払い以外にも、留学や自社株購入権、昇進や昇格といった「その他の経済上の利益」(特許法35条4項)を対価とすることも可能です。


対価算定の考え方

職務発明の対価は、発明が企業等にもたらす利益だけでなく、従業者の貢献度も考慮して決定されます。会社は、客観的で透明性の高い算定方法を定めておくことが重要です。


対価算定にあたり考慮すべき要素の例としては、下記が挙げられます。


1.発明の貢献度

発明が企業の収益にどれほど貢献したか。新規性、進歩性、市場における優位性などが評価のポイントとなります。


2.従業者の貢献度

発明における従業者の創意工夫の度合い。発明に至るまでの過程、発明者の役割、発明に要した期間などが考慮されます。


3.企業等の利益

発明によって企業等が得た利益。売上高の増加、コスト削減額などが指標となります。


4.類似発明の対価

類似発明の対価:業界における類似の発明の対価水準を参考にすることで、客観的な評価が可能になります。


5.その他

企業の業績、発明の実施状況、将来の収益予測なども考慮される場合があります。



これらの要素を総合的に判断し、公正な対価を決定します。


具体的な算定方式としては、発明による利益の一部を発明者に配分する「利益配分方式」、発明の経済的価値を評価し、その一部を発明者に支払う「評価額方式」、発明の種類ごとにあらかじめ対価を定めておく「固定額方式」などが挙げられます。


どの方式を採用するかは、企業等の規模や業種、発明の内容などによって異なりますが、重要なのは、算定方法を明確化し、従業者に説明しておくことです。



職務発明規程の作成と運用


職務発明規程の作成のポイント

職務発明に関するトラブルを未然に防ぎ、円滑な運用を行うためには、明確で公正な規程の整備が不可欠です。就業規則の一部として、あるいは独立した規程として定めておきましょう。


規程作成のポイントは、公平性と透明性を確保することです。従業者のモチベーションを損なわないよう、適切な対価が支払われる仕組みと、透明性の高い評価手続きを設けることが重要です。


また、就業規則との整合性も確認し、必要に応じて見直しを行いましょう。


規程に盛り込むべき必須項目

職務発明規程には、円滑な運用とトラブル防止のために、以下の必須項目を明確に記載することが重要です。曖昧な表現は避け、従業者が理解しやすいように記述しましょう。


1.「職務発明」の定義

業等の事業範囲、従業者の職務内容との関連性などを明確に定義します。


2.発明届出の手続き

発明の内容、発明に至った経緯、使用した資源などを記載した届出書の提出を義務付け、その様式や提出先、提出期限を定めます。


3.審査・認定の手続き

企業等による発明の調査・審査方法(期間、担当部署、基準など)を規定します。また、職務発明の認定基準と、認定結果の通知方法、期限を明記します。


4.対価

対価の算定方法、種類、支払時期などを明確に定めます。


5.権利帰属

職務発明について特許を受ける権利が企業等に帰属することを明記します。


6.秘密保持

発明内容の秘密保持義務について規定します。


7.異議申し立て手続き

認定結果や対価に対する従業者の異議申し立て手続きを設け、窓口や期限を明記します。


8.退職後の発明の取扱い

退職後に在職中の業務に関連する発明をした場合の取扱いについて規定します。



よくあるトラブルと解決策

最後に、職務発明に関して発生しやすいトラブルと解決策を紹介します。


発明の対価をめぐるトラブル

職務発明の対価については、企業等が提示した額と従業者が認識する額とにずれが生じ、トラブルになることがあります。


企業としては、社内規程で明確な算定方法を定めたうえで、透明性を確保しておくことで対価トラブルを回避しましょう。


従業者側は、まずは提示された金額の根拠や算定方法を確認し、自身の貢献度や発明の価値について客観的な資料を用いて説明を求めると良いでしょう。


発明の権利帰属をめぐるトラブル

「職務発明」の範囲が明確に定義されていなかったり、発明届出の手続きがあいまいになったりしていると、発明の権利帰属をめぐってトラブルが生じやすくなります。


業務範囲内で行われた発明、業務で得られた知識や経験を利用した発明、会社設備を利用した発明など、「職務発明」とされるための判断要素をできる限り社内規程で明確化しておきましょう。


また、発明届出の手続きを明確に定めたうえで、社内に周知徹底することも重要です。従業者としては、日頃から担当者とのコミュニケーションを密にとり、規程に不明点があれば速やかに確認することが大切になります。


退職後に完成された発明をめぐるトラブル

退職後に完成された発明をめぐるトラブルも頻発します。退職後になされた発明の権利帰属は、発明の内容と在職中の業務との関連性によって判断されます。


例えば、従事していた業務と関連性の低い新技術を、個人的な研究活動で退職後に発明した場合は、発明者に権利帰属する傾向にあります。


一方で、在職中に開発していた製品の改良版を退職後に発明したような場合は、企業等に権利帰属する可能性があります。特に、在職中に使用した企業等の機材や情報が元になっている場合は、企業等に権利があると考えられるケースが多いでしょう。


トラブルを未然に防ぐためにも、企業は在職中の発明活動と退職後の発明活動の関連性を明確にするための基準を明示し、社内に周知徹底しましょう。


いずれのトラブル事例においても、社内での話し合いが難しい場合は、弁理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。場合によっては、仲裁や調停、最終的には訴訟といった手段を講じる方法もあります。



まとめ

職務発明における対価の算定や規程の整備は、従業者の貢献を正当に評価し、発明活動を促進するために欠かせません。また、職務発明規程は、企業等と従業者のトラブルを未然に防ぐための重要な枠組みです。算定や規程の整備において疑問点やトラブルが生じた場合は、速やかに専門家へ相談し、適切な対応策を講じましょう。


井上国際特許商標事務所には、知的財産全般の知見が豊富な弁理士が所属しています。職務発明の対価算定や規程整備でお悩みの方は、ぜひご相談ください。



 
 
 

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