職務発明とは? 制度の概要や認定の流れを解説
- Eisuke Kurashima
- 3月28日
- 読了時間: 8分

企業や国、地方自治体などで働く人が、その職務の中で行った発明は、職務発明と呼ばれます。職務発明を企業等と発明者の双方にとって有益なものとするには、双方が職務発明制度を正しく理解し、適切に運用することが重要です。
今回は、職務発明制度の概要から、メリット、認定の流れまでを解説します。
職務発明制度とは?
職務発明とは、企業の従業者などがその企業に雇用されている期間中、企業の設備や資金を利用して行った発明のうち、職務の範囲内で行われたものを指します。そして、職務発明制度とは、職務発明に関する権利の帰属や対価の支払いについて定めた制度です。
職務発明の定義と概要
職務発明とは、企業や国、地方公共団体など(企業等)の職務に従事する従業者が、その職務の範囲内で行った発明のことです。具体的には、以下の3つの要件全てを満たす発明が職務発明とみなされます。
従業者が完成させた発明である。
従業者の職務に関連している。
従業者の所属する企業等の事業分野に属している。
従業者が行った発明が職務発明に該当する場合、企業等は、その発明についての通常実施権を獲得します(特許法第35条第1項)。これにより、企業等は従業者の発明を円滑に利用し、事業活動を展開できます。
職務発明と個人的発明の違い
職務発明は、職務の範囲内で行われた発明であり、発明者が企業等の資源を利用している場合がほとんどです。このため、多くの場合、職業規則などにより、職務発明の特許を受ける権利は、原則として企業等に帰属すると定められています。
一方で、企業等は発明者に対して相当の対価を支払う義務があります。
個人的発明は、職務とは無関係に、個人の時間や資源を使って行われた発明です。この場合、特許を受ける権利は発明者個人に帰属し、企業等が対価を支払う義務もありません。
例えば、会社の研究室で業務時間中に会社の設備を使って開発された新技術は、職務発明に該当します。一方、従業者の職務とは無関係に開発されたソフトウェアは、たとえそれが会社の事業に役立つものであっても、個人的発明に該当する可能性が高いです。
このように、職務発明と個人的発明の区別は、発明が生み出された状況によって判断されます。
特許法における位置づけ
職務発明は、特許法第35条に規定されています。この条文では、使用者と従業者との間で、職務発明の特許を受ける権利を使用者に帰属させることを予め定めている場合、その権利は使用者に帰属することが認められています。
一方で、発明者である従業者には、使用者から相当の対価を受ける権利が認められています。
特許法では、職務発明に関する事項を定めることで、発明者である従業者と企業等の双方の権利と利益のバランスを図っています。例えば、特許法第35条の2に規定されている「相当の対価」は、従業者の発明意欲を維持・向上させるうえで重要な要素となっています。
職務発明制度のメリット
職務発明制度は、企業等と従業者双方、そして社会全体にとってメリットがあります。
適切な制度設計と運用によって、企業等と従業者の良好な関係を維持し、社会全体に利益をもたらす発明を促すことが、職務発明制度の大きな目的です。
企業等側のメリット
職務発明制度は、企業等に次のようなメリットをもたらします。
知的財産の確保:従業者の発明を企業の財産として管理・活用できる。
技術革新の促進:従業者の発明意欲を高め、継続的な技術開発を促進できる。
競争力の強化:特許取得により競争優位性を確立し、市場シェアを拡大しやすくなる。
ブランドイメージ向上:革新的な企業というイメージを醸成し、優秀な人材を獲得しやすくなる。
ノウハウの蓄積:発明の過程で得られた知見や技術を社内に蓄積し、今後の研究開発に活かせる。
新規事業展開:発明を基にした新製品やサービス開発により、新たな収益源を創出できる。
従業者側のメリット
職務発明制度は、従業者にとっても多くのメリットがあります。
適切な対価:発明の貢献度や企業利益に応じて従業者に発明の対価(報奨金やロイヤルティなど)を支払うことが、企業等に義務付けられる。
発明意欲の向上:適切な対価は、発明意欲の源泉となる。
スキルアップ:発明活動を通じて専門知識や技術が向上する。特許出願などの手続きに関わることで、知的財産に関する知識も深まる。
キャリアアップ:発明実績が社内での評価向上につながり、昇進や昇格に有利になる。専門家としてのキャリア形成にも役立つ。
自己実現:自分のアイデアが形になり、企業や社会に認められることで、大きな達成感や満足感を得られる。
社会全体のメリット
職務発明制度は、発明者に適切な報酬を支払う仕組みを設けることで、発明意欲を高めます。
また、企業等が知的財産の権利を適切に管理・活用することで、企業等の成長にもつながります。結果として、社会全体に技術の進歩がもたらされ、経済が活性化します。
職務発明の認定基準と手続き
職務発明か否かの判断は、発明が従業者の従事する業務範囲内で行われたかどうか、企業等の事業に関連するものかどうかといった基準に基づいて行われます。
具体的な認定プロセスは企業等によって異なりますが、ここでは、一般的な認定基準と手続きを解説します。
職務発明に該当するか否かの判断
発明が「職務発明」に該当するかどうかは、以下の要件を総合的に考慮して判断します。
業務範囲
使用した資源
指示命令
職務上の知識と経験
「業務範囲」については、例えば社員の担当業務内容が開発業務であれば、開発業務中に生まれた発明は職務発明に該当する傾向にあります。一方、営業担当者が担当業務とは全く関係のない分野で発明した場合、職務発明とは判断されにくいでしょう。
「使用した資源」については、企業の資金や設備、情報などを利用して発明がなされた場合、職務発明に該当しやすくなります。例えば、会社の研究室や実験設備、ソフトウェアなどを利用した場合がこれにあたります。
「指示命令」は、例えば企業が社員に特定の発明を指示したり、研究開発を命じたりした場合に該当します。「職務上の知識・経験」は、社員が業務を通じて得た知識や経験に基づいて発明した場合に該当します。
これらの要件を総合的に判断し、企業等と従業者の双方にとって納得感のある形で、職務発明の範囲を決定することが重要です。
職務発明の認定プロセス
職務発明の認定プロセスは、一般的に以下の手順で行われます。
従業者が使用者に発明届出をする。
使用者が発明届出を受け付け、確認する。
使用者が調査を行い、判定すると共に、対価を決定する。
使用者が従業者に判定結果を通知する。
判定結果に異議があれば、従業者が異議申し立てをする。
異議申し立てを受けて、使用者が再判定する。
スムーズな認定プロセスを実現するには、従業者が発明を速やかに届け出ることと、使用者が明確な基準に基づき公平かつ迅速に判定を行うことが重要です。
従業者が取るべき手順
職務発明と認められるために従業者が取るべき主な手順は、以下のとおりです。
発明の着想:職務に関連して新しいアイデアを思いついたら、記録に残しましょう。
発明の届出:所属企業等の規定に従い、発明届出を提出します。届出には、発明の名称、内容、関連業務、実施形態に加え、日付、使用した企業等の資源などを明確に記載する必要があります。届出の記載項目のポイントは、以下のとおりです。
発明の名称:簡潔で具体的な名称を記載する。
発明の内容:発明の目的、構成、効果などを詳細に記述する。
関連業務:発明がどの業務に関連しているかを明確に記載する。
実施形態:発明の実施例や図面などを添付する。
異議申し立て:判定結果の通知を受け、不服がある場合は、企業等に異議を申し立てられます。
企業等が取るべき手順
企業等は、従業者から職務発明の届出があった場合、速やかに対応しなくてはなりません。主な手順は、以下のとおりです。
発明届出の受理と確認:従業者から提出された発明届出を受理し、内容に漏れや不備がないか確認します。必要に応じて、従業者に補正や補足説明を求めるなどして、発明の内容を正確に把握することが重要です。
調査・評価:受理した発明届出に基づき、発明の内容について調査・評価を行います。特許性(新規性・進歩性)や市場性、事業への貢献度などを検討し、発明の価値を判断します。必要に応じて、専門家による評価を依頼しましょう。
判定:調査・評価の結果を踏まえ、当該発明が職務発明に該当するか否かを判定します。職務発明に該当すると判断した場合には、特許出願などの手続きに進みます。該当しないと判断した場合は、その理由を従業者に説明する必要があります。
対価の決定:職務発明と認定された場合、従業者に対して適切な対価を支払う必要があります。対価の額は、発明の貢献度や企業等にもたらされた利益などを考慮して決定します。就業規則や職務発明規程に定められた算定方法に基づいて、透明性のある形で算定することが重要です。
特許出願等の手続き:企業等は、自社の事業戦略に基づき、特許出願や実用新案登録などの手続きを行います。
これらの手順を適切に踏むことで、企業等は従業者の創造性を促進し、円滑な職務発明制度の運用を実現できます。
まとめ
職務発明制度は、企業等と従業者の双方にとって、そして社会全体にとって技術の発展と経済の活性化をもたらす重要な制度です。
この制度を使用者側と従業者側が正しく理解し、適切な手順を踏むことで、技術革新が生まれる健全な土壌が育まれます。職務発明の制度設計や運用に関して疑問点やトラブルが生じた場合は、速やかに専門家へ相談し、適切に対応しましょう。
井上国際特許商標事務所には、知的財産全般の知見が豊富な弁理士が所属しています。ぜひご相談ください。
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