開発部門で活発に開発が行われているのに、権利化できないまま発明が埋もれてしまっている…なんてことはありませんか?
特許リエゾンは、企業において自社の開発部門における発明を発掘し、特許庁や特許事務所との橋渡しを担うポジションのことをいいます。本記事では、特許リエゾンの意味や業務内容、必要なスキルなどを紹介します。
特許リエゾンの意味
特許リエゾンの「リエゾン(liaison)」とは、軍の部隊同士や組織と組織の間の連絡・調整役を意味する言葉です。
しかし、特許リエゾンの役割は連絡・調整役にとどまらず、自社の技術開発者と特許庁や特許事務所との橋渡しをし、特許発掘から知的財産戦略の立案まで、専門的かつ広範な業務を担います。
社内に発明の権利化に主眼を置く特許リエゾンがいることで、開発者は考案したアイデアを円滑に特許出願につなげることができ、開発そのものや顧客対応に専念できるのです。
特許リエゾンの主な業務内容
ここでは、特許リエゾンの業務内容を詳細にみていきます。
1.発明発掘
特許リエゾンの大きな役割のひとつに、発明発掘があります。
発明発掘とは、技術を考案した開発者から技術や製品のポイントを聴き取り、発明を抽出することです。聴き取りでは、発明提案書の項目に沿って丁寧にヒアリングを進めていきます。
発明提案書の典型的な4項目は次のとおりです。
先行技術の内容
先行技術や従来の製品に残された課題
発明内容(課題解決の手段)
発明がもたらす効果(先行技術との違いが生み出す効果)
これらの項目のヒアリングにおいて、特許リエゾンは、権利化したい発明の本質を引き出さなくてはなりません。具体的には「どの部分がこの発明に必須の構造か?」「別の形状で同じ目的を達成できるか?」など、様々な角度から質問を投げかけ、権利化できる発明の範囲を見極めます。
ただし、このとき権利範囲を不用意に狭めてしまうと、特許の他社牽制機能が失われてしまうため、十分な注意が必要です。
2.特許出願
発明発掘が完了し、先行技術もないことが確認できたら、いよいよ特許出願です。
特許出願では、「特許請求の範囲」「明細書」「図面」などの出願書類を作成します。特許性が認められやすい記載の仕方は、特許事務所の助言を得ることをおすすめします。
ただし、特許の権利範囲は必ず出願人である企業側で決定しておきましょう。権利範囲の特定を外部に一任してしまうと、特許を実施する段階で「実態に沿わない権利範囲で特許を取得してしまった」ということになりかねません。
特許リエゾンの役目は、特許の専門家と技術開発者の双方の観点を踏まえて、特許性が認められやすく、かつ発明の実施を見据えた権利範囲を特定できる出願書類を作成することにあります。
3.中間手続き
特許出願の後、特許性が認められれば、無事に特許取得に至ります。一方で、特許性が認められない場合は拒絶理由が通知され、これに対応する中間手続きが発生します。
拒絶理由には、通常、先行技術が引用されます。出願人は引用された先行技術と出願特許技術との差異を説明したり、権利範囲を再検討したりして、拒絶理由を解消しなければなりません。
特許リエゾンは、改めて開発者へのヒアリングを実施し、当該発明に関して先行技術と差別化できるポイントを探ります。その上で、特許事務所の助言を得ながら、特許庁を説得するに足る書類を作成します。
4.知財戦略立案
特許リエゾンは、多くの場合、知財戦略立案にも関わります。開発に先立つ先行技術調査はもちろんのこと、自社の技術的な強みを生かした知的財産網を構築したり、自社の開発製品が他社の特許を侵害していないかチェックしたりすることもあります。
特許リエゾンに求められるスキル
自社と特許庁、もしくは特許事務所との橋渡し役となる特許リエゾンには、具体的にどのようなスキルを求められるのでしょうか。
知的財産に関する知見
特許出願の手続きに関しては、特許事務所の弁理士の助言を得ながら進めるものの、発明発掘から知財戦略立案まで、特許リエゾンの業務のすべてに知的財産の知識が必要となります。
特許庁や特許事務所とのやりとりにおいても、知的財産のバックグラウンドがなければ共通認識が得られにくく、リエゾンとしての役割を全うできません。
知的財産分野の専門職である以上、特許リエゾンには知的財産に関する知識が不可欠です。
コミュニケーションスキル
コミュニケーションスキルも、特許リエゾンに必要なスキルのひとつです。
特許リエゾンは、開発者へのヒアリングによって発明の本質を引き出さなくてはなりません。同時に、先行技術を踏まえて特許が認められるかどうかも確認する必要があります。そのためには、様々な角度から問いを発し、開発者の意図を深堀りする力が求められます。
また、開発者から聴取した内容を正確に特許事務所に伝え、適切に出願書類に反映させるために、高度な情報伝達能力が欠かせません。
さらには、粘り強さも求められます。特許発掘から特許取得に至るまで、開発者とのやりとりが繰り返し発生します。開発業務に追われて多忙な開発者の中には、再三質問されることに辟易する人もいます。
それでも「発明の権利化」という目的を共有し、諦めずにコミュニケーションをとり続けられるかが、特許リエゾンの腕の見せ所でもあります。
論理的思考力
特許リエゾンは、開発者から聴き取った内容をもとに、説得力のある出願書類を作成しなければなりません。
また、出願時のみならず中間手続きでも、特許庁に対して論理的な説明ができるかどうかで、特許性の判断が左右されます。したがって、特許リエゾンにとって論理的思考力も欠かせないスキルです。
特許リエゾンの企業内での立ち位置
企業内で特許リエゾンのポジションを設けるなら、知的財産部門または開発部門に配置するのが効果的です。
知的財産部門に配置する場合、知的財産をめぐる契約関係や特許以外の知的財産権も踏まえた上で、知的財産戦略を展開しやすくなります。また、知的財産の知見と経験が豊富な上司や先輩のもとで人材育成できるメリットもあります。
開発部門に配置する場合は、開発者と特許リエゾンとのコミュニケ―ションが活性化され、発明の権利化が促進されやすくなるでしょう。「発明が埋もれてしまう」という課題を抱えている企業では、特許リエゾンを開発部門に配置することをおすすめします。
社内で特許リエゾンの適正を備えた人材を確保できない場合は、特許事務所や弁理士に委託することも一案です。権利化されやすい出願書類の作成方法も熟知している専門家であれば、特許取得までワンストップで完了できます。
まとめ
特許リエゾンは、開発者が開発業務に専念しつつ、発明を効果的に権利化する上で、なくてはならない存在です。
知的財産のバックグラウンドとコミュニケーション能力、論理的思考力を兼ね備えた人材を確保できる企業では、ぜひ育成を図りましょう。また、社内に適した人材が見つからない場合は、リエゾン業務を扱う特許事務所への委託を検討することもひとつの方法となるでしょう。
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