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IDSとは?米国特許制度の情報開示義務について解説


米国特許制度のもとで特許出願をする際に、避けて通れない手続きがIDS(Information Disclosure Statement)です。


日本語で「情報開示陳述」を意味するIDSは、特許の有効性を確かなものとするだけでなく、米国で特許を出願・行使する以上、誰もが遵守すべき当然の義務ととらえられています。


本記事では、そんなIDSの義務者や対象となる情報、プロセスについて解説します。



IDSとは


米国で特許出願する際は「IDS」が必須

IDSとは、米国の特許制度で定められている情報開示義務です。「Information Disclosure Statement」の略で、日本語では「情報開示陳述」を意味します。


米国特許制度では、出願に関係する者は、特許性に関する重要な情報を米国特許商標庁(USPTO)に提出しなければなりません。このIDSの義務に違反すると、有効な特許を取得できないばかりか、場合によっては「詐欺」に該当するとして刑事訴追されるおそれもあります。


日本の特許制度にはない制度ですが、米国特許制度上ではきわめて重要な制度ですので、米国で特許出願する際には必ず遵守するようにしましょう。


IDSの提出義務者

IDSの提出義務を負う「出願に関係する者」として、次の者が該当します。


  • 出願に記名されている全ての発明者

  • 出願準備・出願手続に関与する弁護士(Patent Attorney)ないし代理人(Patent Agent)

  • 出願準備・出願手続に実質的に関与し、かつ発明者、出願人、譲受人と関係がある者(例:発明者の勤務先である企業や所属する団体など)



IDSで開示すべき情報

IDSで開示すべき情報は、「IDSの提出義務者が知っている情報」であり、かつ「特許性について重要である情報」が対象とされています。


すなわち、IDSの提出義務に違反しているかどうかの判断は、「重要な情報(=重要性)であることを知りながら提出しなかった(=欺く意図)」という2つの要素を基準に判断されます。


重要性

「重要な情報」とは、平たく言うと「その情報を審査官が知っていたら、特許審査においてネガティブに作用するだろう」と想定されるような情報です。


具体的には、次の5類型が挙げられます。

  1. 各国特許庁での拒絶理由通知及び引例

  2. A分類の先行技術文献

  3. 関連商品情報

  4. 出願前の自発的な先行技術調査の結果

  5. 第三者より告知を受けた情報


もっとも、これらの類型に該当すれば一律に提出すべきとは限らず、「重要な情報」として何を提出するかの判断は、米国特許実務の専門知識と経験を要するところとなります。そのため、米国特許実務に精通した専門家への依頼をおすすめします。


欺く意図

「欺く意図」とは、重要な情報の存在とその重要性を認識しながら、当該情報をUSPTOに「開示しない」という意図的な判断があったことを意味します。


先述の「重要な情報」の5類型のうち、公開情報である1ないし2については「見落としによる提出漏れ」の抗弁が通りやすい一方で、関係者しか知りえない3~5の情報が提出されなかった場合は「欺く意図」が推定されやすいため、提出漏れのないよう特に注意が必要です。



提出が必要な書類

IDSの手続きのために提出するのは次の書類です。


【英語物件】

・提出物件のリスト

・提出物件のコピー(※)


【非英語物件】

・提出物件のリスト

・提出物件のコピー(※)

・英訳文献 or 関連性についての簡潔な説明


※すでに公開されている米国特許文献のコピーは提出不要



非英語物件に関しては、「完全な英訳」を容易に入手できる場合は、当該の英訳文献を提出します。もし、完全な英訳文献を提出できないのであれば、「関連性についての簡潔な説明」を作成して提出します。例えば、日本の特許庁による英文要約や、拒絶理由通知の英訳などが挙げられます。


実際に提出すべき物件は事例によって異なりますので、専門家ないし代理人に相談しながら提出物件を用意するとよいでしょう。



IDSの提出時期と追加要件

IDS提出の時期によっては、費用の支払いや追加書類の提出を求められます。以下、米国特許出願時から特許発行までの期間を4つの期間に分けて解説します。


1.米国特許出願から1回目の拒絶理由通知の前までの期間

この期間は、費用の支払いや書類の提出などは不要です。


2.拒絶理由通知から許可通知または最終拒絶理由通知までの期間

この期間に、手数料(米国特許規則§1.17(p)に規定)を支払うか、または「その情報を知ってから3か月以内であること」を示す陳述書を提出する必要があります。


3.許可通知または最終拒絶理由通知を受けてから発行料納付前までの期間

この期間では、手数料(米国特許規則§1.17(p)に規定)の支払いおよび「その情報を知ってから3か月以内であること」の陳述書の両方が求められます。


4.発行料納付から特許発行前までの期間

この期間に入ってしまうと、IDSを提出しても審査されません。この場合は、原則として特許発行プロセスを中断させたうえで、継続審査請求(RCE)の手続きを経なければなりません。そうして特許出願を審査段階に差し戻したうえで、IDSを提出することになります。


ただし、次の条件をすべて満たす場合に限り、発行料納付後であってもクイックパスIDS(Quick Path Information Disclosure Statement)制度を利用してIDSの審査を受けられる可能性があります。


【クイックパスIDSの条件】

・手数料(米国特許規則§1.17(p)に規定)を支払う

・「その情報を知ってから3か月以内であること」の陳述書を提出する

・特許発行の取り下げを申請する(取り下げ申請手数料の支払いが必要)

・RCEを請求する(RCE手数料の支払いが必要)


クイックパスIDSでは、発行料納付後でも例外的に審査官がIDSを検討します。その結果、特許査定が維持される場合にはRCE手数料が返還されます。これにより、RCEのコストを節約できます。


しかしながら、審査官がIDSを検討した結果、特許査定がくつがえされて「審査を再開する必要がある」と判断された場合は、RCE手数料は返還されずに審査再開通知が発行されます。



まとめ

今回は、米国特許制度に特有のIDSについて紹介しました。


IDSは、米国特許制度のもとで特許の有効性を確保するために不可欠な手続きです。ただ、現地の特許実務の深い理解がなければ対応できない高度な手続きでもあります。現地の法令を遵守するためにも、専門家のアドバイスのもと、適切な情報公開を行いましょう。


なお、日本の特許庁のウェブサイトにIDSの根拠規則である米国特許規則「連邦規則法典第37巻(37 CFR)」の日本語訳が掲載されていますので、参照してみてください。


井上国際特許商標事務所では、米国特許実務の経験豊富な弁理士がご相談をお受けします。米国特許の出願を検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。


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