防護標章登録とは?ブランドを広範囲で守るための制度

企業のブランド力が高まり、広く知られるようになると、自社の事業とかけ離れた分野でブランド名を模倣されたり悪用されたりするリスクも高まります。こうした事態からブランド価値を守るのに役立つ法制度が、防護標章(ぼうごひょうしょう)登録です。
ここでは、防護標章の基礎知識から、通常の商標との違い、登録要件、実務上の注意点まで分かりやすく解説します。
防護標章の基礎知識
防護標章登録は、通常の商標登録とは目的や保護範囲が異なります。まずは、防護標章の概要と目的、通常の商標との違いを確認しましょう。
防護標章とは
防護標章制度とは、既に広く認知されている自社の登録商標について、その商標の保護範囲の分野とは異なる商品・役務分野であっても他者に同一の標章を使われないよう、保護の範囲を広げる制度です。
防護標章の目的
防護標章の主な目的は、商品・サービスの出所混同を防止することです。
あるブランドが広く認知された後に、そのブランドとは無関係の分野で他者が同じブランド名を使って商品やサービス(役務)を展開した場合、消費者は「あの有名企業の関連商品だ」と誤認・混同するリスクがあります。そのような著名ブランドを冠した商品・サービスの出所混同を防止することが、防護標章登録の主な目的です。
また、著名ブランドを展開する企業にとっては、ブランドイメージを保護するという側面もあります。他者の粗悪品や不適切なサービスにブランド名を使われると、長年培った信用やイメージが損なわれてしまいます。防護標章は、そうした事態への防護柵として活用できます。
通常の商標との違い
通常の商標登録と防護標章登録の主な違いは次の通りです。
保護の範囲:通常の商標は、指定した商品・役務およびその「類似」範囲にのみ保護が及ぶのに対して、防護標章は元々の標章と「非類似」の商品・役務範囲にも保護が及びます。
使用状況による取消しの有無:通常の商標は3年以上不使用だと不使用取消審判(商標法第50条)により取消対象となり得るのに対して、防護標章は使用しなくても不使用取消審判の対象にならないという違いがあります。
要件:通常の商標には「著名性」の要件は不要ですが、防護標章にはこの要件が必須です。このため、防護標章を登録するには、その標章がその商品・役務の需要者の間で全国的に認識されている必要があります。
商標の形態:通常の商標は新しいデザインや文字で出願できます。一方で、防護標章は原登録商標と同一の標章でなくてはなりません。なお、縮尺のみが異なるものは、同一の標章に含まれます。
防護標章登録の具体例
特許庁に実際に登録されている防護標章の例を3つ紹介します。
ソニーによる「SONY」の防護標章登録
ソニーグループは、登録第618689号の「SONY」を原登録商標として、家電等だけでなく、被服や文房具などについても防護標章登録を受けています。
これにより、原登録商標の商品・役務とは非類似の分野についても、「SONY」と同一の標章を使用する第三者の行為を一定の要件のもとで禁止することができます。
トヨタによる「TOYOTA」の防護標章登録
トヨタ自動車も、登録第1112194号の「TOYOTA」を原登録商標として、自動車以外のさまざまな商品・役務について防護標章登録を受けています。
任天堂による「マリカー」の防護標章登録
「マリカー」は、任天堂のゲームシリーズ「マリオカート」の略称です。任天堂は「マリカー」について防護標章登録を受けており、第12類の自動車等、第35類の広告、第39類の輸送など、ゲームとは異なる分野を指定しています。
防護標章登録出願の要件
防護標章は、通常の商標よりも広い分野に権利保護が及びます。このため、商標法第64条第1項に厳格な登録要件が定められています。以下、それぞれの要件につき解説します。
要件①:基となる商標(原標章)が登録済みであること
防護標章を出願するためには、まず土台となる登録商標(原標章)が存在していなければなりません。このため、原標章が登録されていることが要件となります。また、防護標章の出願人は原標章の商標権者と同一でなくてはなりません。
要件②:原標章が需要者の間に「広く認識されている(著名である)」こと
防護標章の登録を受けるには、原標章が全国的に高い知名度を得ている必要があります。その知名度は、単に特定地域や業界内だけで知られている「周知」レベルではなく、その商品・役務の需要者の間で全国的に認識されている「著名」レベルであることが求められます。
要件③:非類似の商品・役務で使用された場合に「混同を生ずるおそれ」があること
先述のとおり、防護標章の主な目的は、著名ブランドを冠した商品・サービスの出所混同を防ぐことにあります。このため、防護標章の登録を受けるには、非類似商品で登録商標と同一の標章が使用された場合に、需要者が「原標章の権利者やその関係者が製造・販売しているのではないか」と混同するおそれのあることが必要です。
要件④:出願する標章が原登録商標と同一であること
防護標章として登録を受ける標章は、原登録商標と同一の標章でなければなりません。原登録商標と異なる標章については、防護標章登録を受けることはできません。
実務上の重要ポイント
防護標章の登録を検討・申請する際、実務上押さえておくべき重要ポイントは次の4点です。
「著名性」の証明のハードルが高い
特許庁は、「著名性」の審査基準に次のような項目を挙げています。
使用開始時期・使用期間
使用地域
使用商品・役務
広告・宣伝の程度
普及度
企業規模
営業関係
著名性についての審決・判決
特許庁に「著名性」を認めてもらうためには、使用実績、販売状況、広告宣伝、市場での認知度などを、客観的資料により立証する必要があるのです。
ライセンス付与や侵害への対抗策の違い
防護標章はあくまで混同防止と排他のための防護壁であり、使用権というよりも禁止権としての制度です。したがって、防護標章については、専用使用権や通常使用権を設定できません。
また、通常の商標権に対する侵害があった場合は直接的に差止請求権(商標法第36条)を行使できる一方で、防護標章が勝手に使用された場合は、法律上、「商標権を侵害するものとみなす」(同第67条)という「みなし」規定を使って差し止めることになります。
防護標章が指定商品・役務について使用された場合、第67条の「みなし」規定を介して第36条に基づく差止請求の対象となる点に注意が必要です。
原標章の運命に連動する
防護標章は原標章に付随する権利です。したがって、原商標権が消滅すると、防護標章登録に基づく権利も消滅します。
コストがかさむ
指定する区分数が増えるほど、出願料や登録料などの費用が膨らみます。どの区分まで防護を広げるべきか、優先度の高い分野を精査する費用対効果の検証が不可欠です。
まとめ
防護標章登録は、自社のブランドが広く知名度を獲得した際に、他社による無断使用やブランドイメージの毀損から会社を守る強力な防衛手段です。
一方で、登録には高い著名性の立証に加え、原標章の管理や防衛対象とする適切な区分選定も求められます。防護標章登録を活用してブランドを戦略的に保護するには、専門家へのご相談をおすすめします。
井上国際特許商標事務所には、商標制度に精通した弁理士が所属しております。ブランドの成長にともない「他業種での模倣品が増えてきた」「ブランド価値を強固に保護したい」とお考えの場合は、ぜひご相談ください。



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