アメリカへの特許出願の基礎知識|手続き・期間・検索方法などを詳しく解説します



発明したモノや技術を独占的に利用できる権利を認める特許権は、特許を取得した国のみで有効な権利です。そのため、日本国内で特許を取得しただけでは海外では通用せず、海外でも商品やサービスなどを展開したい場合は、各国で特許権を取得する必要があります。


ここでは、日本と最も結びつきが深く、数多くの日本企業が進出しているアメリカでの特許の基礎知識を解説します。日本からの出願の状況や、出願する3つの方法、実際の手続きの流れなどを詳しく紹介していきます。



日本企業がアメリカへ特許出願する理由と出願状況


まずは、日本企業のアメリカでの特許出願状況や、なぜ出願するのかからみていきましょう。


多くの日本企業がアメリカで特許を取得している


アメリカには、多くの日本企業が進出しています。トヨタ自動車やソニーを始めとする大企業は、早くからアメリカで現地法人を設立し、現地での生産も積極的に行ってきました。アメリカで広く商品を販売してきた日本企業が、アメリカで特許を取得することは、大変重要なことです。


現在でも、日本企業はアメリカで多くの特許を取得しています。アメリカの調査会社、ifi CLAIMS Patent Service が2022年に発表したデータによると、2021年の米国特許取得件数上位50社中、13社が日本企業となりました。日本企業で最も多かったのは3位のキヤノンで、3021件もの特許を取得しています。


【2021年 米国特許取得件数 TOP50に含まれる日本企業】

3位  キヤノン

12位 トヨタ自動車

16位 ソニー

23位 セイコーエプソン

24位 本田技研工業

26位 三菱電機

27位 パナソニック

32位 デンソー

38位 シャープ

41位 NEC

46位 リコー

47位 東芝

50位 富士フイルム


出典:2021 Top 50 US Patent Assignees|ifi CLAIMS Patent Service(2022年1月5日時点)



特許は国ごとにそれぞれ取得する必要がある


現状、一度の手続きで、国を跨いで通用する特許は存在していません。特許権の効力は、あくまで特許を取得した国のみとなっており、特許権を取得したい国ごとに手続きを行う必要があります。


例えば、日本のみで特許を取得している製品を海外で販売する場合、海外で模倣されるリスクがあります。ひどい場合は、海外の第三者が先回りして特許を取得してしまい、オリジナルの製品にもかかわらず、権利の侵害で訴えられてしまう可能性もあるのです。


したがって、海外に進出している、もしくは進出する予定がある場合は、外国での特許出願も検討する必要がありますし、戦略上大変重要といえます。



アメリカへ特許出願する3つの方法


アメリカで特許を取得するためには、いくつかの方法が存在します。ここでは、代表的な3つの方法を紹介しましょう。


1.PCTルート


PCTルートは、特許協力条約「PCT(Patent Cooperation Treaty)」に基づき、個別に出願する手間を省く出願方法です。日本の特許庁で「国際出願」をすることで、PCT加盟国(アメリカもPCT加盟国)に同時出願したのと同じ効果が得られます。


PCT出願をすると、アメリカを含むPCT加盟国の全てで、日本で国際出願を行った日に出願されたものとみなされます。また、すでに日本で特許を出願済みであっても、出願日から1年以内であれば、優先権を主張し国際出願することが可能です。


しかし、ただ国際出願しただけでは、アメリカで特許出願された扱いにはなりません。国際出願から30ヶ月以内に、米国特許商標庁(USPTO)に対し「国内移行」という手続きを取る必要があります。また、英語による翻訳文の提出も必要です(アメリカの場合。指定言語は国により異なります)。


また、特許性審査はアメリカの基準で行われるため、日本で特許を取得できたからといって、必ずしもアメリカでも認められるとは限らないので、注意が必要です。



▼PCTルートのメリット・デメリット


まずメリットとして挙げられるのが、特許出願のための書類が日本の特許庁に提出するものだけで済むことです。さらに、日本での特許出願からアメリカへの国内移行まで最大で30ヶ月の猶予があるため、市場動向をしばらく様子見することができますし、翻訳文を作成する期間も長めに確保できます。


一方で、出願する国が少ない場合は、後述するパリ条約ルートよりも費用が高くなる可能性があります。3~4カ国以上に同時出願する場合であれば、PCTルートのほうが費用が安くなるケースが多いです。国内移行を行う国が決まっていない場合、PCTルートであれば、日本での特許出願から30ヶ月の間に国を選択することができるというメリットもあります。



2.パリ条約ルート


パリ条約ルートとは、日本で1年以内に出願した特許について優先権を主張できる、「パリ条約による優先権」を利用して出願を行う方法です。


優先権制度とは、日本で特許出願した日から1年以内に海外に特許を出願すると、その国でも日本と同日に出願したかのような扱いを受けることができる制度です。


パリ条約は、アメリカやヨーロッパの主要国、中国など約170ヵ国が加盟している、知的財産権に関する国際条約であり、日本から海外への特許出願の手続きでは、多くのケースでパリ条約ルートが利用されています。


▼パリ条約ルートのメリット・デメリット


パリ条約ルートは、特許権を取得したい国それぞれへ出願を行います。そのため、それぞれの国ごとに出願内容を変更できるメリットがあります。また、PCTルートと比べた場合、1〜2国への特許出願であれば費用も抑えられます。


一方で、各国ごとの手続きが必要となりますし、各国の公用語による明細書の作成も日本の特許出願から1年以内に行う必要があります。これらの手間が、パリ条約ルートのデメリットと言えます。ただし、アメリカの場合、仮出願制度を利用することで、一度日本語により特許出願を行った後に翻訳文を提出することができます。



3.直接出願


商品をアメリカでのみ販売するケースや、できるだけ早くアメリカで特許出願を行いたい場合であれば、日本での特許出願を行わずに、米国特許商標庁(USPTO)へ特許出願してもよいでしょう。


米国特許商標庁に特許出願した場合は、パリ条約ルートによる優先権を主張して、日本に特許出願することも可能です。しかし、パリ条約ルートを使用したアメリカ外への出願に際しては、米国特許商標庁の許可を受けなければいけないケースがあるので注意が必要です。



アメリカへの特許出願には現地代理人が必要


日本法人が米国特許商標庁(USPTO)で手続きを行う場合、現地の代理人が必須です。代理人を行えるのは、特許弁護士(Patent Attorney)もしくは、特許代理人(Patent Agent)の資格を持つ者に限られています。


弁護士資格を持たない特許代理人でも、問題なく特許出願の手続きができますが、特許取得後の契約や訴訟についても一任したいのであれば、弁護士資格を持った特許弁護士にお願いする必要があります。



アメリカへの特許出願の流れ

ここからは、アメリカへの特許出願の基本的な流れをみていきましょう。


1.出願/国内移行


パリ条約ルート、および、直接出願の場合は、まず、米国特許商標庁(USPTO)に対して出願書類を提出し、同時に出願料を支払います。


【特許出願に必要なもの】

  • 明細書

  • 図面

  • 宣誓書または宣言書

  • 譲渡証(必要に応じて)

  • 優先権証明書 (必要に応じて)


PCTルートの場合は、国内移行の手続きを行います。その際は、以下の書類を提出し、国内移行手数料を支払います。


【PCTルートの国内移行手続きに必要なもの】

  • 国際出願の写し

  • 国際出願の写しの英訳

  • 19条補正の写し

  • 19条補正の写しの英訳

  • 宣誓書または宣言書

  • 国際予備審査報告の附属書類の英訳


2.出願公開・特許性審査


米国特許商標庁に出願、または国内移行手続きを行った特許は、出願日から18ヶ月を経過した後に公開されます。


日本では審査請求手続きを行わない限り特許性審査は行われませんが、アメリカでは出願、もしくは国内移行手続きがされた全ての特許が審査されます。この点は日本と異なるため、システムを理解しておきましょう。


特許性審査では、日本と同様に新規性や、特許に値する内容であるかの審査が行われます。審査基準に日本との大きな乖離はなく、ほぼ同水準と考えてよいでしょう。



3.特許査定


特許性審査の結果、特許として認められると、米国特許商標庁より「Notice of Allowance」という通知が届きます。その後に、所定の手数料を支払うことで、特許として登録されます。



特許性審査の結果、拒絶されてしまった場合


特許性審査の結果、内容に問題があれば、米国特許商標庁より日本の拒絶理由通知にあたる「Office Action」が届きます。


これに対して補正などを行うのは日本の特許取得と同じですが、アメリカの場合、審査を最初からやり直すことも可能です。(審査手数料がかかります)


補正や審査のやり直しをしても特許として認められず、審査官の判断に不服がある場合は、審判部に審判請求を行って、審査手続きを見直してもらう方法も用意されています。



アメリカの特許期間と特許年金


アメリカの特許も、日本と同じく存続期間があります。また、特許維持のための年金も必要です。


特許期間は出願日から最長20年


アメリカの特許の存続期間は、原則として米国特許商標庁への特許出願日から20年までです。


PCTルートで出願を行った場合は、原則として国際特許の出願日から起算して20年までとなります。


アメリカ特許の維持には特許年金の支払いが必要


アメリカも日本と同様、特許を維持するための「特許維持年金」を納める必要があります。年金の金額は原則として以下の通りです。出願人が小規模の法人等の場合には、費用が減額されます。


【アメリカの特許維持年金の金額】

1回目 $2,000(登録から3年半以内に納付)

2回目 $3,760(登録から7年半以内に納付)

3回目 $7,700(登録から11年半以内に納付)


もし、上記期限を過ぎてしまっても、期限から半年間は追加費用(Surcharge)を支払うことで納付が可能です。


さらに、故意でなく特許年金の支払いを失念した場合には救済制度があります。未納分の年金と、申請費用として$2,100がかかりますが、出願から20年以内であれば申請が可能です。


出典:USPTO fee schedule|UNITED STATES PATENT AND TRADEMARK OFFICE



アメリカの特許の検索方法


アメリカへ特許出願する前に、既に類似の特許が登録されていないかの検索・確認が必要です。ここでは、アメリカの特許を検索する代表的な方法を紹介します。


▼Patent Public Search(USPTO)

https://ppubs.uspto.gov/pubwebapp/static/pages/landing.html


2022年2月に公開された、米国特許商標庁の検索データベースです。以前は4つの検索ツールがありましたが、それらの機能を統合した最新版です。


1790年以降のアメリカの特許を収録しており、1976年以降の特許はフルテキスト、それ以前の特許は原文を画像で収録しています。



▼Google Patents

https://patents.google.com/


Googleが運営している特許データベースです。こちらも、1790年以降のアメリカの特許について検索できます。また、1978年以降のヨーロッパの特許についても検索可能です。



まとめ


ここでは、日本からアメリカへの特許の出願状況や、実際に特許を出願する方法などの、基本的な知識を解説しました。


アメリカと日本は大変結びつきの深い国であり、進出する日本企業は多く、これからも重要な市場であり続けるはずです。今すぐでなくても、近い将来、アメリカで商品を販売したり、サービスを展開したりする予定があれば、日本での特許と同時にアメリカでの特許取得を検討するとよいでしょう。



アメリカへの特許出願なら井上国際特許商標事務所までご相談ください


井上国際特許商標事務所では、これまで、個人の事業者から大企業まで様々な技術分野の特許出願手続きを代行してきました。


アメリカへの特許出願の場合は、アメリカの現地代理人との的確なコミュニケーションが必要となる他、海外の特許出願に関しても深い知識が必要です。海外特許の実務経験のある国内代理人を通すことは、スムーズな特許取得に繋がります。


アメリカでの特許取得を検討されている方は、ぜひ一度、井上国際特許商標事務所までご相談ください。