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意匠権の通常実施権許諾契約書とは?必須項目と注意点も解説

  • 執筆者の写真: Eisuke Kurashima
    Eisuke Kurashima
  • 5 日前
  • 読了時間: 9分

製品のデザインを保護する知的財産権である、意匠権。この権利を第三者に利用させる際に欠かせない契約書が「通常実施権許諾契約書」です。意匠権の範囲や利用条件、ライセンス料など、意匠権の価値と事業リスクを左右する重要事項が数多く含まれる重要な書類です。


今回は、意匠権の通常実施権許諾契約書の概要から、契約書に盛り込むべき必須項目、注意点までを、わかりやすく解説します。



意匠権の通常実施権許諾契約書とは


意匠権の通常実施権許諾契約書とは、製品のデザイン(意匠)を保護する意匠権を持つ意匠権者(ライセンサー)が、第三者(実施権者/ライセンシー)に対して、その意匠を事業として利用することを許可する際に交わす契約書です。


意匠権とは

「意匠」とは、製品の形状、模様、色彩、またはそれらの組み合わせによって生じる視覚的な美しさを指します。そして、意匠権とは、工業製品などの意匠を保護するための知的財産権です。


意匠登録により意匠権を取得することで、その意匠を無断で実施(製造、販売など)する第三者に対して、実施の差止めや損害賠償請求などの権利を行使することができます。


通常実施権とは

意匠権の通常実施権とは、意匠権者からその意匠の実施を許可された者が獲得する権利です。意匠権者は、原則として意匠登録された意匠を実施する独占的な権利を持ちます。


しかし、意匠権者が第三者に通常実施権を与える契約が結ばれた場合は、契約の範囲内でその第三者も意匠権を実施(製品の製造・販売など)できるようになります。


許諾契約書とは

意匠権の通常実施権許諾契約書とは、意匠権者が有する意匠権を、第三者(実施権者)が一定の条件のもとで実施することを許諾する際に作成されるものです。意匠権者は、第三者と許諾契約を結ぶことで、自身の権利を維持しながら実施権者に事業機会を提供できます。


これにより、意匠権者は自社だけでは達成できない新たな製品開発や市場開拓を促進できるうえ、実施権者から支払われるライセンス料を得ることもできます。



通常実施権許諾契約書の目的と活用例


意匠権の通常実施権許諾契約書は、次のような目的で活用されます。


  • 新規市場への参入促進:海外企業への許諾による販路拡大、自社ブランドの展開が難しい地域での展開などに活用する。

  • 製造・販売のアウトソーシング:自社で製造・販売リソースを持たない場合、専門企業に委託することで効率化を図る。

  • パートナーシップ提携:共同開発した製品の権利分担、事業提携におけるデザインの相互利用などを明確化する。


通常実施権許諾契約書は、このようなケースで当事者間の権利義務を明確にし、意匠権の価値を最大化しながら、円滑な事業展開をサポートする重要な役割を果たします。



通常実施権許諾契約書に盛り込むべき必須項目


意匠権の通常実施権許諾契約書を作成する際には、後々のトラブルを防ぐために、以下の必須項目を明確化しておきましょう。


対象となる意匠権の特定

最も重要かつ基本的な項目は、契約の対象となる意匠権を明確に特定することです。これにより、意匠権者(ライセンサー)と実施権者(ライセンシー)の間で、どの意匠に関する権利を許諾するのかについての認識の齟齬を防止します。


具体的には、以下の情報を正確に記載しましょう。


  • 意匠登録番号:「登録第〇〇〇〇〇〇号」のように、正確な登録番号を記載します。

  • 意匠に係る物品:「椅子」、「照明器具」など、意匠が適用される物品名を正確に記載します。

  • 意匠の説明:願書に記載された意匠の説明を簡潔に引用または記載します。

  • 意匠登録証の写し:契約書に意匠登録証の写しを添付すると確実性が高まります。


実施権の具体的な範囲

実施権の範囲の具体化も重要です。実施権の範囲は、主に以下の要素で定義します。


  • 地域:日本国内、特定の都道府県、海外の特定の国・地域など。

  • 期間:契約締結日から〇年間、意匠権の存続期間、または特定の期間(例:〇年〇月〇日まで)。

  • 用途:特定の製品分野(例:文房具、家具)、特定の販売チャネル(例:オンライン限定)など。


例えば、「日本国内において、文房具用途に限り、契約締結日から5年間」といった形で、実施できる範囲を明確に限定します。これにより、意匠権者は意匠権の利用状況を把握しやすくなり、実施権者も自社の事業計画を立てやすくなります。


また、「許諾された範囲を超えて実施しようとする場合には、別途、意匠権者との間で追加の許諾契約や条件交渉が必要となる」旨を定めておくことも、有効です。


第三者への製造委託の可否と条件

ライセンシーが自社で製品を製造せず、他者に製造を委託するケースも想定しておく必要があります。実施権許諾契約では、そのような製造委託を認めるか否か、認める場合はどのような条件とするかを予め定めたうえで、契約書に明記しておきましょう。


原則として、製造委託を認めるかどうかは、ライセンサーの意向によります。ライセンサーとしては、自社の意匠権が管理・保護、品質維持などを担保できるよう、次のような条件を付記すると良いでしょう。


  • 委託先の指定や承認:ライセンサーの事前承認が必要であることや、ライセンサーが委託先を指定できることなど。

  • 品質管理義務:ライセンシーが委託先に対し品質基準の遵守を義務付けること。

  • 秘密保持義務の徹底:委託先が意匠情報等を漏洩しないための措置を講じること。

  • 製造委託料の報告義務:ライセンサーへの製造委託料に関する定期的な報告を行うこと(ライセンス料計算のため)。


実施権の対価(ライセンス料)の決定方法

通常実施権許諾契約において、実施権許諾の対価(ライセンス料)の設定は、契約の根幹をなす重要な事項です。当事者間の公平性を保ち、将来的な紛争を避けるためにも、その決定方法は慎重に検討しなくてはなりません。


主な支払い方法には、以下の3つがあります。


  • ランニング・ロイヤリティ:ライセンシーが実施する製品の売上高や生産数量に応じて、一定の料率や金額を支払う方法。継続的な支払いとなるため、実施状況に応じた柔軟な対応が可能だが、正確な計算と報告体制の構築が求められる。

  • ランプサム・ペイメント:契約締結時や特定の期間ごとに、あらかじめ定められた一定額を支払う方法。支払いが一度で完了するため、計算は簡便だが、実施状況にかかわらず支払いが発生するため、ライセンシーにとってはリスクとなる場合がある。

  • 両者の組み合わせ:上記2つの方法を組み合わせることも可能。例えば、契約初期にまとまった金額(ランプサム)を支払い、その後、売上に応じたロイヤリティを支払うといった形式。


これらの支払い方法を、対象となる意匠の市場性、技術の進展性、契約期間などを考慮して、双方にとって納得のいく形で決定することが肝要です。


不争義務

不争義務とは、ライセンシーが、契約期間中、意匠権の有効性について、訴訟や異議申立てなどの手段を用いて争わないことを約束する義務のことです。例えば次のような条項を設けることで、ライセンサーは、意匠権の有効性を巡る争いに巻き込まれるリスクを低減できます。


「ライセンシーは、本契約締結後、本件意匠権の有効性について、いかなる方法であっても直接的または間接的に争わないものとする。」


ライセンシーがこの義務に違反した場合のペナルティ(違約金や契約解除事由とするなど)も事前に定めておくことで、より実効性を高められます。


契約解除の条件

通常実施権許諾契約書では、契約解除の条件も明確化しておきましょう。具体的な契約解除の事由としては、以下のようなケースが考えられます。


  • 契約違反:ライセンシーがライセンス料の支払いを怠った場合や、許諾された実施範囲を超えて事業を行った場合など。

  • 支払不能や破産:ライセンシーが支払不能の状態に陥ったり、破産手続開始の申立てがあったりした場合。

  • 意匠権の無効や取消:ライセンサーの意匠権が、第三者からの訴訟等により無効と判断されたり、取消されたりした場合。

  • 法令違反:ライセンシーが、当該意匠権を利用した事業活動において、関連する法令に違反した場合。

  • その他:上記以外にも、双方の協議により合意解除できる旨を定めておくと、不測の事態に柔軟に対応できる。


これらの解除事由に加え、解除を行う際の通知方法や期限、解除に伴う損害賠償の有無なども詳細に規定しておくと良いでしょう。


権利義務の譲渡禁止に関する規定

予期せぬ第三者の参入や、契約内容の意図しない変更を防ぎ、契約関係の安定性を保つために、以下のような当事者間の権利義務の譲渡に関する規定も明示しておきましょう。


  • 実施権(通常実施権)の譲渡禁止:ライセンシー(実施権者)は、ライセンサー(意匠権者)の事前の書面による承諾なしに、第三者に対して通常実施権そのものを譲渡したり、担保に供したりすることはできないこと。

  • 契約上の地位の譲渡禁止:原則として、本契約に基づく一切の権利義務を第三者に譲渡することはできないこと。

  • 第三者への実施委託:製造委託など、実施権の範囲内での第三者への業務委託を認める場合でも、その範囲、条件、およびライセンシーの監督責任などを具体的に規定する必要があること。



契約書作成における重要な注意点

契約書の作成においては、押さえておくべきポイントがあります。ここでは重要な注意点について解説します。


意匠権侵害発生時の対応策の明記

意匠権の通常実施権許諾契約書を作成する際には、万が一、第三者による意匠権侵害が発生した場合の対応策を明確に定めておきましょう。これにより、権利者と実施権者の双方の権利が守られ、迅速かつ適切な対応が可能となります。


例えば、契約内容に以下のような項目を含めることが考えられます。


  • 侵害発見時の通知義務:ライセンシーが第三者による意匠権侵害を発見した場合、速やかにライセンサーに通知する義務を負うこと。

  • 差止請求・損害賠償請求:侵害に対する差止請求や損害賠償請求を、どちらの当事者が主導して行うか(一般的にはライセンサーが行うが、ライセンシーに代執行を認めるケースもある)。

  • 対応費用負担:侵害対応にかかる弁護士費用や訴訟費用などの負担について。


このような取り決めを契約書に明記することで、侵害発生時の混乱を防ぎ、迅速な対策が可能になります。


リスクに応じた専門家によるレビューの必要性

通常実施権許諾契約書は、意匠権者と実施権者の双方にとって重要な法的文書です。契約内容によっては、予期せぬトラブルや権利侵害のリスクが生じる可能性も否定できません。そのため、契約締結前には、意匠権に関する専門知識を有する弁理士にレビューを依頼することをおすすめします。


特に、意匠権が有効か、その権利範囲が明確か、契約条項が当事者の意図に沿っているか、将来的な紛争リスクに対応しているか、国際的な知的財産法や取引慣習を踏まえた契約条項となっているかなど、知的財産権に関する高度な知識とノウハウが求められる事項については、専門家によるレビューが欠かせません。



まとめ

通常実施権許諾契約書は、ライセンサーとライセンシー双方の権利と義務を明確にし、意匠権を巡るトラブルを未然に防ぐための重要なツールです。通常実施権許諾契約書を適切に作成することで、ライセンサーとライセンシーの双方にとって有益なライセンスビジネスの基盤を築けます。


通常実施権許諾契約書の作成やレビューを検討されている方は、ぜひ一度、井上国際特許商標事務所にお問い合わせください。



 
 
 

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