共同開発を成功に導く契約のポイント:知財トラブルを防ぐ条項チェックリスト
- Eisuke Kurashima
- 3 日前
- 読了時間: 7分

複数の企業や研究機関が強みを持ち寄る共同開発は、イノベーション創出の有効な手段である一方、知的財産(知財)を巡るトラブルのリスクも内包しています。成果の帰属や利用範囲があいまいなまま進めてしまうと、事業化の停滞や信頼関係の悪化を招きかねません。
ここでは、共同開発契約において押さえておくべき知財の基礎知識と、実務上必須な知財条項チェックリストを紹介します。
共同開発の落とし穴:なぜ知財トラブルで事業が止まるのか?
共同開発とは、複数の企業や研究機関がそれぞれの技術やノウハウを持ち寄り、新製品や新技術の創出を目指す取り組みのことです。
共同開発であれば、単独では難しい開発を効率的に進められます。その一方で、成果物に関する知的財産権の帰属や実施範囲を巡ってトラブルが生じやすい課題もあります。
知財トラブルが発生すると、協議や紛争対応に多くの時間とコストを要するだけでなく、事業化の遅れや機会損失につながります。さらに、当事者間の信頼関係が損なわれ、将来的な協業にも悪影響を及ぼしかねないため、契約段階で知財の取り扱いを明確に定めておくことが重要です。
トラブル回避のために知っておくべき「知財の原則」と「共有」のリスク
原則は「作った人のもの」:知財の原始帰属と職務発明のルール
知的財産権は、原則としてその創作を行った者に帰属します。
例えば特許権については、発明をした自然人が発明者となり、特許を受ける権利もまずは発明者に帰属します。もっとも、企業の従業員が業務として行ったいわゆる「職務発明」では、就業規則や契約によって特許を受ける権利を企業に承継させるか、あるいは発生時から法人に帰属させることが一般的です。
著作権も、原始的には著作物を創作した者(=著作者)に帰属します。ただし、一定の要件を満たす「職務著作」については、法人が著作物の著作者とされます。
このように、法律上の原則と契約・社内規程による調整が組み合わさり、知財の原始帰属が定められます。
「とりあえず共有」は危険?共有特許権に潜む運用の課題
共同開発で複数の人、または企業が発明者となる場合、特許権は共有となるケースが多く見られます。しかし、共有特許権は単独保有の特許に比べていくつかの運用上の課題があります。
例えば、第三者へのライセンス許諾や持分譲渡には、原則として他の共有者の同意が必要となり、意思決定が滞りやすくなります。また、知財の実施条件や成果物からの収益配分を巡り、認識のズレが生じることもあります。結果として、知財を十分に活用できず、事業上の足かせになるリスクがあります。
契約書は「実務の命綱」:交渉ポイントとしての知財条項
こうした問題を回避するためには、共同開発契約において知財条項を丁寧に設計することが不可欠です。発明や著作物の帰属を誰にするのか、共有とする場合の持分割合、実施権や第三者へのライセンス条件などを事前に明確化しておくことで、後の紛争リスクを大きく低減できます。
共同開発を円滑に進め、成果を最大化するためには、知財条項を単なる形式ではなく、実務を見据えた重要な交渉ポイントとして捉えることが重要です。
共同開発契約で必ず定めるべき知財条項チェックリスト
後日の紛争予防と開発成果の円滑な活用のために、共同開発契約における知的財産条項を明確に定めておきましょう。以下、主な条項を順に紹介します。チェックリストとして活用してみてください。
1. 対象となる知財の定義:バックグラウンドIPとフォアグラウンドIP
まず重要なのが、知財の定義と範囲の明確化です。契約では、特許権、意匠権、著作権といった知財の対象となる技術やデザイン、創作物を具体的に定義し、どこまでが契約の射程に含まれるのかを特定することが重要です。
あわせて、共同開発の開始前から各当事者が保有している既存知財(バックグラウンドIP)と、開発の結果として新たに生じる成果知財(フォアグラウンドIP)を明確に区別しておきましょう。
2. 成果は誰のものか?:帰属と持分割合の決定
開発成果の帰属は、最もトラブルが生じやすい論点のひとつです。成果知財を単独帰属とするのか共有とするのかを明確にしましょう。
また、共有とする場合には、持分割合も定めておく必要があります。各当事者の技術的・経済的貢献度を踏まえて持分割合を定める方法や、運用上の煩雑さを回避するために、貢献度に関わらず持分割合を50:50とする方法などが考えられます。
共有特許権については、実施、第三者へのライセンス、持分譲渡といった権利行使に関する条件も契約で明確化しておきましょう。さらに、特許などの出願主体、出願方針、維持費用や出願費用の負担割合も、事前に合意しておくべき事項です。
3. 開発成果の使い道:実施権・利用権(ライセンス)の範囲設定
開発成果のライセンスに関しては、帰属とは別に、各当事者がどの範囲で成果を実施(特許の場合)または利用(著作権の場合)できるのかを定める必要があります。具体的には、実施・利用が可能な地域、期間、目的、排他的か非排他的かといった許諾範囲の明確化が挙げられます。
また、ライセンス料(ロイヤリティ)を設定する場合には、その算定方法、支払時期、報告義務などを具体化しておきましょう。成果を改良した場合や二次利用する場合の権利帰属、利用条件についても定めておくことで、将来の解釈対立を防げます。
4. もし権利侵害が起きたら:第三者への対応と費用負担
第三者による侵害があった場合の対応も、重要なチェックポイントです。権利侵害を発見した場合の通知義務を定めるとともに、差止請求や損害賠償請求を誰の名義で行うのか、その際の費用負担をどうするのかを明確にしておきましょう。
共有知財の場合には、共同で対応するのか、一定条件のもとで単独対応を認めるのかといった点も実務上重要となります。
5. 秘密情報の管理:開発終了後も見据えた秘密保持義務
共同開発の前提条件となる秘密保持義務に関する条項も不可欠です。
秘密情報の定義、開示が許される範囲、管理方法を定めるとともに、秘密保持義務の存続期間や法令開示などの免責事由を明確にすることが求められます。
なお、秘密保持義務の存続期間については、契約終了後も一定期間継続するとの規定が一般的です。
共同開発契約は、事前に締結される秘密保持契約(NDA)とも密接に関係します。両者の内容に齟齬が生じないよう、注意しましょう。
6. その他:紛争解決手段やペナルティ条項
その他の重要事項として、準拠法や紛争解決手段(裁判管轄または仲裁)を定めること、契約違反があった場合の損害賠償や違約金といったペナルティを明確にすることも、契約全体の実効性を確保するうえで欠かせません。
以上の知財条項を体系的に整理し、契約書に反映させることが、共同開発を成功に導く基盤となります。
契約締結を成功させるための注意点と役立つ公的ガイドライン
最後に、参考情報と注意点を紹介します。
参考情報としては、中小企業庁が「知的財産取引に関するガイドライン・契約書のひな形」を示しています。契約書のひな形は、たたき台としても活用できます。ぜひ参照してみてください。
ここで紹介した条項は一般的な必須項目の一例です。必要な条項は、事案によって異なります。契約締結に臨むうえでの戦略立案、交渉、契約書レビューにおいては、知財や契約実務に精通した弁理士などの専門家に早期から相談することが重要です。
また、契約締結後も、開発内容や事業環境の変化に応じて適切に運用状況を確認し、必要に応じて契約内容を見直す姿勢が求められます。
まとめ:実務に即した契約設計が共同開発成功のカギ
共同開発を成功させるためには、技術面だけでなく、知財の取り扱いを契約で適切に整理する必要があります。
原始帰属の原則や共有知財の課題を理解したうえで、帰属、利用権、侵害対応、秘密保持などの条項を具体的に定めておくことで、将来の紛争リスクを大きく低減できます。モデル契約やガイドラインも活用しつつ、必要に応じて専門家の助言を得ながら、実務に即した共同開発契約を設計・運用しましょう。
井上国際特許商標事務所には、知的財産権に関する知見が豊富な弁理士が所属しています。共同開発契約の知財条項にお悩みの方は、ぜひご相談ください。