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野球に関する知的財産 商標・意匠・著作権などについて解説



プロ野球チームのロゴやマスコットキャラクターは通常、商標登録されています。また、球団によっては選手やパフォーマンスチームのユニフォームが意匠登録されていることもあります。さらに、公式ホームページに掲載されている写真や映像などのコンテンツは著作権法上の著作物にあたります。


今回は、こうした野球に関する知的財産権の内容を説明するとともに、どのような行為が「知的財産の侵害」として禁止されるかを事例とともに解説します。



野球に関する知的財産の種類


知的財産とは、「人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物など」のうち、「 財産的な価値を持つもの」の総称です。


発明を保護する「特許」や「実用新案」のほか、「商号」「商標」「著作物」「意匠」「ノウハウ」などが知的財産に含まれます。これらのうち、野球に関する主な知的財産権としては、「商標権」「意匠権」「著作権」などが挙げられます。


参考:日本弁理士会ホームページ https://www.jpaa.or.jp/intellectual-property/


▼商標権

商標権とは、自社の商品・サービスを他社のものと区別するために使用するマークの独占的使用を保護する権利です。


商標には、文字、図形、記号、立体的形状などさまざまな種類があります。商標が商標登録されると、他社が勝手にその商標を使用することができなくなります。 野球に関する商標権の典型例は、プロ野球チームのロゴマークです。ロゴマークが商標登録されれば、登録が完了した時点で無断使用はできなくなります。球団によっては、公式ホームページで無断使用の禁止を明記しているところもあります。


例えば、広島東洋カープは商標・肖像利用について記載したページで「無断使用が禁止されるマーク等」のひとつに「カープのロゴマーク」を挙げています。



▼意匠権

意匠権とは、物や建築物、画像のデザイン(意匠)を保護する権利です。新たなデザインが意匠登録されれば、意匠権者はそのデザインを独占的に利用できます。 野球に関する意匠権もさまざまなものがありますが、分かりやすいところでは、公式グッズのデザインや選手のユニフォームのデザイン、パフォーマンスチームの衣装のデザインなどが挙げられます。


実際に、横浜DeNAベイスターズの公式ホームページでは、「球団が保有するプロパティ(商標・意匠・肖像)の無断使用」の禁止対象である「プロパティの範囲」として、「グッズデザイン」「ユニフォーム(帽子マーク等含む)」「オフィシャルパフォーマンスチームのユニフォーム、衣装」などが列挙されています。



▼著作権

著作権とは、思想や感情を創作的に表現した著作物を保護するための権利で、小説や音楽、絵画、地図、映画、写真までさまざまなコンテンツが保護対象となります。商標権や意匠権と違って、登録などの手続きは不要。創作と同時に発生する知的財産権です。


野球に関しても、さまざまな著作物が創作されています。具体的には、プロ野球チームの公式ホームページに掲載された写真や動画、イラストなどが挙げられます。


プロ野球チームのホームページには、著作権について記載されています。以下はその代表的な例です。


▼横浜DeNAベイスターズ

横浜DeNAベイスターズの公式ホームページには、コンテンツについて次のような著作者を明示しています。

本Webサイトの情報、写真、イラストなど文字・画像等のコンテンツの著作権は、株式会社横浜DeNAベイスターズ及びコンテンツ提供者など第三者に帰属します。

▼福岡ソフトバンクホークス

福岡ソフトバンクホークスの公式サイトには、公式サイト内のコンテンツだけでなく、公式SNSに掲載されたコンテンツの著作権についても記載されています。

福岡ソフトバンクホークス公式サイト、および公式SNSに掲載された全ての写真・画像・動画の著作権は当社に帰属し、著作権法の保護を受けています。 それぞれの写真・画像・動画について当社は、被写体の「肖像権」「商標権」や撮影者の「著作権」などの諸権利を有しています。

▼埼玉西武ライオンズ

上述の2つの例に比べ、広い範囲の著作権について記載されてます。

「埼玉西武ライオンズ」に関わるすべてのコンテンツ(ペットマーク、ロゴ、選手画像、映像、ドキュメント、音声等)の著作権は(株)西武ライオンズに帰属します。


野球に関する知的財産の侵害

では、具体的にどのような行為がこれら知的財産の侵害行為にあたり、侵害行為に対してはどのような措置がとられるのでしょうか。


商標権の侵害

野球に関する商標権の侵害行為の典型例は、球団ロゴの無断使用です。しかし、商標使用許諾(商標ライセンス)がある場合などは、自社製品に球団のロゴやマスコットキャラクターを使用しても商標侵害にあたりません。

プロ野球チームのロゴを使用したコラボ製品を見かけることがありますが、それらの製品は原則として、メーカーが当該球団と商標使用許諾の契約を交わした上で製造・販売しているものです。


もし、商標使用許諾なしに無断でこのような製品を販売した場合は、侵害行為の差止請求や損害賠償請求を受けることがあります。


例えば粗悪な製品にロゴが使われたことで商標権者の評判が落ちたような場合は、謝罪広告の掲載などによる信用回復措置を求められます。さらに、場合によっては刑事上の責任を追及されることもあります(商標法第78条)。


▼コラボ製品の例


阪神タイガース×白鶴酒造「上撰 白鶴 サケパック タイガースデザイン2.0L」



読売ジャイアンツ×ニューエラ「9FIFTY 読売ジャイアンツ ブラック ディムオレンジバイザー」


意匠権の侵害

野球に関する意匠権の侵害例は、球団のユニフォームを真似たデザインの衣装を作って販売するようなケースです。しかし、ユニフォームのデザインを意匠登録している球団は少ないのが現状です(2023年1月23日時点)。


例えば、阪神タイガースの商標登録は134件、広島東洋カープの商標登録も87件ありますが、意匠登録はどちらも0件となっています。


読売ジャイアンツは商標登録91件の他に、意匠登録が5件ありますが、そのうちの2件は「装飾用シール」と「転写紙」で、ユニフォーム関連は次の3件の登録となっています。


▼読売ジャイアンツのユニフォーム関連の意匠登録例


ユニホーム(意匠登録1168767)


ユニホーム(意匠登録1168768)



グラウンドコート(意匠登録1187473)


このように意匠登録されているデザインを模倣すると意匠権の侵害にあたります。


また、ユニフォームのデザインそのものが意匠登録されていなかったとしても、ユニフォームを模倣して作った製品に球団のロゴやキャラクターがあしらわれている場合、商標権の侵害にあたります。

意匠権を侵害した場合も、意匠権者から差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求など民事上の責任を追及されることがあります。また、商標権侵害と同様、刑事罰も規定されています(意匠法第69条)。


著作権の侵害

野球に関する著作権の侵害は、球団ホームページのコンテンツのコピー&ペースト、写真やイラスト、動画の転載などです。


プロ野球チームのホームページには、以下のような記載がされています。

▼横浜DeNAベイスターズ

横浜DeNAベイスターズの公式ホームページには、著作権侵害について次のように記載されています。

著作権所有者への事前の承諾を得ること無しに、その全てまたは一部をいかなる形式、いかなる手段によっても、複製・改変・再配布・再出版・ダウンロード・表示・掲示または転送することを禁じます。

▼福岡ソフトバンクホークス

SNSコンテンツの著作権について触れた福岡ソフトバンクホークスの公式ホームページでは、以下のような記載があります。

公式サイト写真や画像をコピーまたは加工しご自身のSNSなどに投稿」「公式You Tubeの動画をダウンロードまたは加工・編集して自身のSNSなどに投稿」など、具体的な侵害行為を例示しています。

著作権侵害に対しても、差止請求や損害賠償請求といった民事上の責任追及が可能です。また、著作権者が告訴した場合は刑事責任を問われるおそれもあります。



利用できる範囲は球団のルール次第


ここまで、野球に関する知的財産権の侵害例を紹介してきました。


しかし、球団のルール次第で例外的に無断利用が一部認められていたり、利用主体や目的によって申請の要否が異なったりする場合もあります。


すべての球団が知的財産権に関するルールを公表しているわけではありませんが、公式ホームページに掲載されている中からいくつかの例を見ていきましょう。


商用以外の個人利用は無断利用可としている例


広島東洋カープや横浜DeNAベイスターズは、商標などの無断利用を原則禁止しているものの、個人による商用以外の利用については「許可を要しない」と規定しています。


▼広島東洋カープ 公式ホームページ「商標・肖像利用について」 


3. 許可を要しない行為

(1)個人ブログでの選手写真(お客様が撮影したものに限る)

(2)選手名の使用であって、商品などの販売に結びつかないもの。

(3)個人的な楽しみの範囲での利用。


▼横浜DeNAベイスターズ 公式ホームページ「商標・肖像利用について」 


許可を要しない行為

・個人SNSアカウント等での選手写真(お客様が撮影したものに限る)

・選手名の使用であって、商品の販売やサービスの提供に結び付かないもの

・個人的な楽しみの範囲での利用



コンテンツの個人利用を禁止している例

商標権の個人利用ないし商用以外の目的での利用を認めている球団でも、先述した横浜DeNAベイスターズのように、公式ホームページのコンテンツの著作権については広く無断転載を禁止しています。


埼玉西武ライオンズでは、同社のコンテンツ全般の著作権侵害について「営利を目的としない場合でも著作権の侵害にあたる行為となります」と規定し、「違反する行為については判明した時点で、法人・個人問わずに関連法規に則りしかるべき対応をとらせていただきます」としています。


その上で、「雑誌やウェブサイト等で『埼玉西武ライオンズオフィシャルサイト』をご紹介いただく場合は、(株)西武ライオンズまでお問い合わせください」としています。



申請の要否を細かく区別している例

オリックス・バッファローズは、意匠・商標、映像、静止画像など、知的財産権ごとに利用主体と目的によって申請の要否を区別しています。


例えば、報道を目的として商標・意匠を利用する場合は申請せずに利用できますが、商業利用を含む報道以外の目的であれば申請を要するといった具合です。


また、映像や静止画像を報道目的で一次利用する場合は申請不要ですが、同じ報道目的でも二次利用であれば申請が必要です。




まとめ

野球に関する知的財産のうちプロ野球球団に関わりの深い商標権、意匠権、著作権について解説しました。


球団のロゴやキャラクター、ユニフォームやオリジナルグッズ、そして公式ホームページに掲載されたコンテンツなどは、原則、無断利用が禁止されています。無断で利用して知的財産を侵害した場合、差止請求や損害賠償請求だけでなく、刑事上の責任を問われることもあります。


もっとも、利用主体や目的、申請・承諾などの手続きによっては利用が認められることもあるため、各球団が公表しているルールを参照したり広報部に問い合わせたりして、利用範囲を確認することをおすすめします。


井上国際特許商標事務所には、経験と専門知識が豊富な弁理士が所属しています。野球に関する知的財産の調査や管理、手続きなどにお悩みでしたら、ぜひご相談ください。


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