top of page

非伝統的商標とは?(前編) 「音商標」「動き商標」「ホログラム商標」を解説

  • 執筆者の写真: Eisuke Kurashima
    Eisuke Kurashima
  • 8月5日
  • 読了時間: 6分
ree

近年、従来の文字や図形といった視覚的な商標に加え、音や動き、さらには見る角度によって変化するホログラムといった新しいタイプの商標が登場し、ブランドの訴求力と識別力を高める手段として注目されています。


前編では、これらの非伝統的商標が導入された背景から、「音商標」「動き商標」「ホログラム商標」それぞれの定義、要件、登録事例を紹介します。



非伝統的商標とは

非伝統的商標とは、従来の文字や図形から成る商標ではなく、音や動き、さらには見る角度によって変化するホログラムなどで構成される、新しいタイプの商標です。


こうした非伝統的商標が生まれた背景には、デジタル技術の発展や企業活動のグローバル化があります。


かつて商標といえば、企業のロゴマークや商品名といった「文字」や「図形」が主流でした。しかし、デジタル技術の発展や消費者体験の多様化に伴い、ブランドを識別する要素も変化しています。


音や動き、ホログラムといった、従来の視覚的な平面表示にとどまらない新しいタイプの商標は、消費者の記憶に残りやすく、ブランドの世界観をより豊かに伝える力を持っています。このため、多くの企業が、ブランド戦略の一環として、新しいタイプの商標の活用や権利保護に関心を寄せています。


加えて、グローバル化が進むなか、世界各国の商標制度との調和を図る必要性も増しています。


このような背景のもと、2015年の商標法改正において、以下のような非伝統的商標が保護対象に追加されました。


  • 音商標

  • 動き商標

  • ホログラム商標

  • 位置商標

  • 色彩のみからなる商標


この中でも特に、「音商標」「動き商標」「ホログラム商標」に焦点を当てて解説します。



音商標について

音商標とは、メロディー、ジングル、音声などの「音」によって、商品やサービスを識別する商標です。CMソングや企業を象徴するジングル、製品の起動音や効果音などが音商標として登録されることがあります。


音商標の主な登録要件

音商標の登録を受けるための主な要件は、他の商標と同様、自社の商品やサービスと他社のものとを区別できる「識別力」があることです。


登録の対象となる音の種類は幅広く、音楽的な要素だけでなく、自然音や効果音なども含まれます。ただし、単なる騒音や、誰でも使用するような一般的な音は、識別力がないため登録が難しい場合があります。


なお、識別力が認められるには、登録対象である音が具体的に特定されている必要があります。したがって、出願手続きにおいては、五線譜や文字、音声ファイルなどを用いて登録したい音を特定しなくてはなりません。


特許庁では、出願された音について、識別力の有無に加え、その音が「公序良俗に反すると考えられる公益的な音」などの不登録事由に該当しないかどうかを審査します。


著名な音商標の事例

実際に登録されている著名な音商標には、以下のようなものがあります。


ファミリーマート株式会社

「あなたとコンビニファミリーマート」というサウンドロゴ 【登録番号 第5984036号】

ree

PayPay株式会社

「ペイペイ」という効果音【登録番号 第6939939号】

ree

これらの音は、繰り返し使用されることで多くの消費者に認識され、企業や製品の識別標識としての機能を果たしています。



動き商標について

動き商標とは、文字や図形などが時間とともに変化する「動き」そのものによって構成される商標のことです。


たとえば、企業のロゴがアニメーションで表示される様子や、商品パッケージの開閉の様子、ウェブサイト上での特定の表示アニメーション、電子機器などの起動時や操作時のグラフィックの動きなどが該当します。


動き商標の主な登録要件

音商標と同様、動き商標にも「識別力」が求められます。すなわち、特定の動きによって、自社の商品やサービスと他社の商品やサービスとを明確に区別できる必要があります。このため、単なる装飾や機能的な動きは識別力がないと判断されてしまいます。


識別力が認められるには、音商標と同様に、登録対象である動きが具体的に特定されている必要があります。したがって、出願手続きにおいては、動きの内容を説明する書類や、動きの連続する各段階を示す図面(静止画の連番)などの提出が求められます。動画ファイルを提出することも可能です。


著名な動き商標の事例

動き商標は、その動き自体が特定のサービスや商品と結びつき、消費者に強い印象を与える重要なブランディングツールとなります。日本国内で登録されている動き商標には、以下のような事例があります。


株式会社ワコール 

【登録番号 第5804316号】(画像は一部抜粋)

ree


株式会社永谷園ホールディングス

【登録番号 第5860816号】(画像は一部抜粋)

ree

これらは、単なる視覚的なロゴだけでなく、その「動き」によってブランドを識別させる役割を果たしています。自社のサービスや商品の特性に合わせて、効果的な動き商標の導入を検討しましょう。



ホログラム商標とは

ホログラム商標とは、見る角度によって変化する光の干渉効果を利用したホログラムによって構成される商標のことです。従来の平面的な図形や文字の商標とは異なり、立体感や奥行き、色の変化を伴う視覚的な効果が特徴です。


ホログラム商標は、商品やサービスとの関連性を消費者に印象づけて他社との識別力を高めるだけでなく、偽造防止効果も期待できるため、高級ブランド品や証明書などに用いられることがあります。


ホログラム商標の主な登録要件

ホログラム商標にも、その商標が商品やサービスと関連して使用される際、他社の商品やサービスと区別できる「識別力」を有していることが求められます。


登録審査においては、見る角度によって変化する像全体として識別力があるかどうか、複数の画像などを用いて変化の様子が明確に表現できるかどうかが審査され、登録の可否が判断されます。


著名なホログラム商標の事例

ホログラム商標は、視覚的な変化でブランドを識別させる新しいタイプの商標です。まだ登録数は多くありませんが、とくにセキュリティ関連や偽造対策が重要な分野での活用が期待されています。


現時点で著名な登録事例は限定的ですが、以下のような例が挙げられます。


株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 

【登録番号 第5859531号】(画像は一部抜粋)

ree

宝ホールディングス株式会社

【登録番号 第6241211号】(画像は一部抜粋)

ree

今後の技術発展やブランド戦略の多様化により、さらに多くのホログラム商標が登場すると予想されます。



まとめ

企業活動の多様化やグローバル化を背景に、日本でも2015年4月1日から、音や動き、ホログラムなどで構成される非伝統的商標の登録制度が導入されました。


登録要件としては、他社との区別が可能な識別力を備えていることが重要であり、出願時には、これを備えていることを示す資料提出が求められます。


後編では、出願手続きの注意点や審査のポイントなどを解説します。


井上国際特許商標事務所では、知的財産権に関する知見が豊富な弁理士が、商標登録の手続きから知的財産戦略に関することまで、さまざまなご相談をお受けしています。ぜひ一度、ご相談ください。


 
 
 

コメント


iStock-1064058754.jpg

専門家による
無料相談実施中

お気軽にお問い合わせください

03-5816-1570

受付時間:平日10:30~17:00

オフィスの廊下
弁理士法人
井上国際特許商標事務所

〒110-0016 東京都台東区台東4-7-6新星ビル2階

電 話: 03-5816-1570

設 立: 1996年

所員数: 8名(うち弁理士6名)

営業時間: 平日10:30~17:00

オフィスの廊下

弁理士法人 井上国際特許商標事務所

bottom of page