非伝統的商標とは?(後編) 出願・登録・審査の流れを解説
- Eisuke Kurashima
- 8月5日
- 読了時間: 4分

音や動き、見る角度によって変化するホログラムなど、新しい商標である「非伝統的商標」。導入から10年が経ち、ブランドの識別力を高める手段として、今あらためて注目されています。
後編では、非伝統的商標の出願方法にフォーカスし、手続きにおける注意点や審査のポイント、提出資料を紹介します。
非伝統的商標の出願方法
音、動き、ホログラムといった新しいタイプの商標を登録するには、従来の商標と同様に、「識別力」をはじめとする登録要件を満たす必要があります。
そして、登録審査で非伝統的商標の識別力が認められるには、出願の際、願書に添付する音声ファイル、動画ファイル、仕様書などで商標を特定し、権利範囲を明確に示さなくてはなりません。
出願から登録完了までの手続きの流れ
非伝統的商標の出願から登録査定までの手続きは、基本的に、従来の商標と同様の流れで進みます。
具体的な手続きの流れは、以下のとおりです。
出願:特許庁へ出願書類を提出
方式審査:特許庁において、書類の形式的な不備がないか確認
実体審査:登録要件(識別力、非類似性、公序良俗に反しないかなど)を満たしているか、専門の審査官が審査
登録査定または拒絶理由通知:登録要件を満たしていれば「登録査定」となる。満たしていない場合は「拒絶理由通知」が送付され、意見書や補正書を提出する機会が与えられる。
商標登録完了:登録査定をクリアした後、登録料を納付した時点で商標登録が完了し、商標権が発生する。
標準的な審査期間は、一般的に、出願から実体審査着手まで数カ月から1年、実体審査から結果通知まで数カ月かかります。
案件の内容や混雑状況により変動がありますが、出願から査定結果の通知まで半年から1年以上を要することもありますので、余裕のある出願プランを立てましょう。
出願書類の作成と提出方法
非伝統的商標の出願においても、従来の商標と同様に願書を作成します。ただし、商標の詳細な内容を示すデータや仕様書などの提出資料を作成・提出する必要があります。
願書には、商標登録を受けようとする商標の内容(音、動き、ホログラムであることを明記)、指定商品または指定役務、出願人情報などを明記します。
提出資料の例としては、以下のようなものが挙げられます。
音商標:楽譜、音の波形を表示した書面、音声ファイルなど。このとき、音を特定できる資料ないし再生可能な音声ファイルが必要
動き商標:連続する静止画(図)、動画ファイルなど。ここでは、動きの様子が明確にわかる資料が求められる
ホログラム商標:ホログラムによって変化する図や写真、動画ファイルなど。光の当たり方による変化の様子がわかる資料が必要
いずれの資料も、商標の内容を第三者が正確に理解できるよう、明確かつ詳細に作成しましょう。
出願書類の提出先は特許庁です。オンラインでの提出が一般的ですが、音声ファイルや動画ファイルなどの提出形式が指定されていることがありますので、事前に特許庁のウェブサイトなどで確認しましょう。
不備があると手続きが遅延する可能性があります。専門家である弁理士に相談するとスムーズです。
審査のポイント
非伝統的商標が実体審査を通過し、登録されるためには、いくつかの共通するポイントがあります。
最も重要な点は、「自他商品・役務の識別力」、つまり、その商標を見た、聞いた、または知覚した消費者が、特定の事業者(出所)の商品やサービスであると認識できるかどうかです。
とくに、長年の使用によって特定の事業者のものとして広く知られている場合は、使用による識別力があるとされ、登録が認められやすくなります。したがって、出願書類ではこの点を効果的に示しましょう。
その他、以下のような点が審査されます。
識別力があるか: 音、動き、ホログラムが、特定の出所を示すものとして認識されるか。ありふれたもの、単に商品の機能や性質を示すもの、装飾的なものに過ぎない場合は、識別力が否定される。
他の商標との混同の恐れがないか: 既に登録されている他社の商標と紛らわしくないか。
公序良俗に反しないか: 社会の一般的な秩序や倫理に反するものではないか。公益的に使われている音と紛らわしい音などは、公序良俗に反する。
まとめ
音や動き、ホログラムなどで構成される非伝統的商標を登録するには、伝統的な商標と同様に、他社の商標との区別可能な識別力を備えていることが要件となります。そして、それらの要件を備えていることを示す音声ファイルや動画ファイルなどの資料提出が求められます。
手続きの流れ自体は伝統的商標と同様ですが、識別力を示す資料作成のポイントや資料の形式・提出方法が異なることがあります。手続きの不備なくスムーズに出願・登録を完了するために、専門家のアドバイスを求めることをおすすめします。
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