関連意匠制度とは?制度概要と活用方法をわかりやすく解説
- Eisuke Kurashima
- 12月8日
- 読了時間: 7分

初期モデルのデザインをもとに改良版を開発したり、バリエーション展開したり、そんな時に役立つのが「関連意匠制度」です。
もとの意匠から派生デザインまでをひとつのデザイン群として保護でき、模倣対策やブランド戦略にも活かせる仕組みです。今回は、関連意匠制度の概要から活用方法、メリットまでを解説します。
関連意匠制度とは
関連意匠制度を説明する前に「意匠制度」について簡単におさらいしましょう。意匠制度とは、工業製品などの形状、模様、色彩といった外観のデザインを保護する制度です。創作性が認められ、かつ製品の美観を高めるものが対象となります。
そして、基本となる意匠(本意匠)と類似するデザインについても保護する制度が「関連意匠制度」です。関連意匠を登録することで、ひとつの製品デザインから派生する多様なバリエーションや改良デザインまでを保護できます。
関連意匠制度導入の背景
関連意匠制度は、意匠権者の権利保護をより実効的なものにするために導入されました。意匠権は基本的に、登録された一つの意匠に対してのみ効力が及びます。そして、登録済みの意匠と同一ないし類似のデザインは新規のデザインと認められず、原則として保護されません。
しかし、製品開発においては、基本となる意匠をもとに、色や素材、形状の一部を変更するなど、さまざまなバリエーションが生まれることも珍しくありません。このような実情を踏まえ、本意匠と類似のデザインについては関連意匠として保護する制度が整備されました。
関連意匠制度の主な目的
関連意匠制度の主な目的は、次のとおりです。
本意匠と類似する意匠についても権利を確保する目的(意匠権の保護範囲の拡充)
本意匠にわずかな変更を加えただけの模倣品を排除する目的
意匠権者がデザインのバリエーションを展開しやすい環境を整えることで、デザイン開発を促す目的
本意匠と関連意匠の関係性
関連意匠制度は、基本となる意匠すなわち「本意匠」が登録された後に、本意匠に類似する「関連意匠」を、本意匠の出願から一定の期間内に出願・登録できる制度です。
ちなみに、関連意匠Aを本意匠として、さらに関連意匠Bを出願・登録することも可能です。この場合、関連意匠Aの本意匠は、関連意匠Aおよび関連意匠Bと類似する部分を含む「基礎意匠」となります。
このように、関連意匠制度では、本意匠とそこから派生したバリエーションとしての複数の関連意匠を、一つのデザイン群として保護することができるのです。
関連意匠の登録要件
関連意匠登録を受けるためには、次のような要件を満たす必要があります。
1.関連意匠のデザインに本意匠と同一または類似のデザインがあること
まず、最も基本的な要件として、関連意匠は「本意匠」と「同一または類似」である必要があります。ここでいう「類似」とは、単なる外観上の類似だけでなく、需要者の通常の注意をもって認識される類似性を意味します。
2.関連意匠が意匠登録の要件を備えていること
関連意匠は、「新規性」や「創作性」といった意匠登録の基本的な要件を独立して備えている必要があります。また、本意匠における創作的かつ特徴的な部分が、関連意匠にも共通して存在することが求められます。
3.本意匠の意匠権者と同一の出願人であること
関連意匠は、本意匠の登録者と同一の出願人によって出願されている必要があります。これは、関連意匠の趣旨が、意匠権者による意匠のバリエーションを保護することにあるためです。
4.基礎意匠の出願の日以後、10年を経過する日前に出願されたものであること
当然ながら、関連意匠は基礎意匠の出願よりも後に出願されたものでなくてはなりません。また、関連意匠の出願は、基礎意匠の出願日以後10年を経過する日よりも前に行う必要があります。
関連意匠制度の活用方法
製品ラインナップの拡充と保護
関連意匠制度は、企業が展開する多様な製品ラインナップを、より包括的かつ戦略的に保護するうえで有効な手段です。
ひとつの製品デザインから派生する様々なバリエーションやシリーズ展開される製品群が想定される場合、それぞれ独立した意匠権を取得するのではなく、本意匠とその関連意匠としてまとめて出願・登録することで、効率的な権利管理と保護範囲の拡大が図れます。
例えば、以下のような製品展開において、関連意匠制度の活用が考えられます。
カラーバリエーション展開
基本となる意匠(本意匠)に対し、異なる色や素材のバリエーションを関連意匠として登録。
サイズ展開
基本となる意匠(本意匠)に対し、異なるサイズ展開を関連意匠として登録。
部分的なデザイン変更
基本となる意匠(本意匠)に対し、形状の一部を変更したバリエーションを関連意匠として登録。
シリーズ展開
基本となる意匠(本意匠)に対し、シリーズ内の派生デザインを関連意匠として登録。
このように、関連意匠制度を活用することで、単一の意匠権ではカバーしきれない、製品ラインナップ全体のデザイン的特徴を保護できます。
類似意匠対策としての活用
関連意匠制度は、デザインをわずかに変えただけの類似品が出回ることへの対策としても活用できます。
例えば、製品のカラーバリエーションや細部の形状変化を加えたデザイン、異なる機能や用途を付加した派生デザインなどを関連意匠として登録しておけば、競合他社が類似意匠を用いて模倣品を開発・販売するのを効果的に抑制できます。
具体的には、次のような効果が期待できます。
権利範囲の網羅性向上
製品のカラーバリエーションや細部のデザイン変更を施したデザインを関連意匠として登録しておくことで、模倣品に対して関連意匠で直接的に権利主張できます。
模倣者への抑止力強化
関連意匠を複数登録しておくことで、事業者はより広範なデザイン領域をカバーできます。これにより、模倣者が市場に参入するハードルが高まり、ひいては模倣行為を抑制する効果があります。
関連意匠制度活用のメリット
競争優位性を確立できる
本意匠を基本としながら派生デザインに関しても関連意匠として意匠登録することで、模倣を防ぎながらデザインを進化させることができます。
また、製品ラインアップ全体にわたるデザイン群が広範に保護されていれば、競合他社による市場参入は困難になります。
このように、関連意匠制度は、自社のデザイン資産を包括的に保護し、市場における優位性を確立するのに役立ちます。
ブランドイメージの維持・向上
関連意匠制度の活用は、ブランドイメージの維持・向上にもつながります。
意匠権は、製品のデザインという、消費者の目にふれる部分を保護するものですから、ブランドを象徴するデザインが模倣されると、ブランドイメージの毀損につながりかねません。
これに対して、ブランドの核となるデザインだけでなく派生デザインやバリエーションについても関連意匠登録をしておくことで、一連のデザインを網羅的に保護できます。
関連意匠制度は、単なる権利保護に留まらず、ブランドが消費者に与える印象をコントロールし、より強固なブランドイメージを構築するうえでも重要な制度なのです。
模倣リスクの低減と市場シェアの確保
複数の類似意匠を関連意匠として登録することで、模倣品に対する包括的な抑止力が働き、市場シェアを確保しやすくなります。
例えば、基本となる意匠は同じで色や素材の異なる製品を展開する際や、基本となる意匠を改良して軽微な変更を加える際、関連意匠登録で類似意匠も保護することで、模倣品の市場流通を防げます。
権利行使における考慮事項
関連意匠制度を活用した権利行使について、いくつか重要な考慮事項を挙げます。
まず、権利行使の対象となる侵害行為が、本意匠または関連意匠のどの保護範囲に抵触しているかを確認しましょう。例えば、本意匠に類似していても関連意匠権に基づく権利行使が可能であるとは限りません。
権利行使の費用対効果も重要な検討事項です。複数の関連意匠を登録している場合には、最も効果的に権利を主張できる意匠を選択し、戦略的に権利行使を進めましょう。権利行使の対象となる意匠を絞り込むことで、交渉や法的手続きにかかるコストを最適化できます。
このように、関連意匠制度を活用して権利行使する際には、本意匠との関係性や類似性の範囲を正確に把握し、費用対効果を考慮した戦略的なアプローチが求められます。
まとめ
関連意匠制度は、本意匠とともにそこから派生するデザインも一連のデザイン群として保護し、製品ラインナップの拡張やブランド価値の維持に役立つ制度です。
色やサイズ違い、細部変更といったバリエーションのデザインも権利化でき、模倣リスクの低減にも有効です。関連意匠制度を戦略的に活用し、市場での競争力を高めましょう。
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