知的財産で資金調達!メリット・方法・戦略策定のポイントを解説
- Eisuke Kurashima
- 7月1日
- 読了時間: 8分

知的財産権は形のない権利ですが、適切に活用すれば企業の資金調達を有利に進められます。今回は、知的財産権を資金調達に活用する可能性について、具体的な戦略策定方法にも触れながら解説します。
知的財産権が資金調達を有利にする理由と3つの効果
知的財産権は、収益を生み出す源泉となるだけでなく、企業の競争優位性を高め、将来の成長可能性を示唆する役割を果たします。このため、活用の仕方によっては、資金調達において重要な判断要素のひとつになります。
具体的には、次のような効果が期待できます。
企業価値の向上
特許や商標は、他社にない独自の技術やブランド力の証明です。これらは企業の競争力を高め、将来的な収益性を示す重要な指標となり、企業価値の向上に貢献します。
信用力の向上
知的財産権を持つ企業は、持たない企業に比べて金融機関からの信頼度が高まり、融資や金利面で優遇を受けやすくなります。
新たな収益源の確保
他社に知的財産権のライセンスを供与することで、新たな収益源を確保できます。これは、事業の多角化や安定的な収益基盤の構築に役立ちます。
知的財産を活用した代表的な資金調達方法
知的財産を活用した資金調達方法には、大きく分けて「コーポレートファイナンス」と「アセットファイナンス」の二種類があります。
1.コーポレートファイナンス
コーポレートファイナンスとは、企業の財務活動を指します。ここでは、知的財産権を活用して企業の信用力を高め、資金調達を有利に進める方法を解説します。
知的財産権の存在は、企業の将来性を担保する重要な要素となります。結果として、融資を受けやすくなったり、株式公開(IPO)の可能性が広がったりと、資金調達の選択肢が広がります。また、有利な条件で資金調達できる可能性も高まります。
資金調達で投資家を惹きつけるには、知的財産権の優位性を効果的にアピールする必要があります。単に特許や商標を持っているという事実だけでなく、それらが事業の成長にどう貢献するのかを明確に示すことが重要です。
具体的には、次のような要素を効果的に伝えることで、投資家は知的財産権の価値を理解し、資金提供を行う判断材料とします。
競争優位性
強い特許によって築かれた高い参入障壁や模倣困難な技術・ノウハウ、商標をベースとしたブランド力は、競合他社に対する優位性を示し、持続的な収益獲得の可能性を示唆します。
市場性
特許技術や商標に守られたブランドに対する市場のニーズを明確化し、その市場規模や成長性についてデータに基づき説明することで、投資家は事業の将来性を評価できます。
収益性
知的財産権を活用した製品・サービスの販売戦略、ライセンス供与による収益モデルなどを提示することで、高い収益性が見込まれることを伝えられます。
実現可能性
知的財産の取得状況だけでなく、製品開発の進捗状況や、事業計画の具体性、経営陣の能力など、事業の実現可能性を裏付ける情報を提供することで、投資家の信頼を獲得できます。
将来性
技術革新のスピードが速い現代において、将来的な技術開発の方向性や新たな知的財産権の取得計画を示すことは、企業の成長性をアピールすることにつながります。
2.アセットファイナンス
アセットファイナンスとは、知的財産権などの資産を担保として資金調達を行う方法です。
企業全体の信用力ではなく、知的財産権そのものの価値に基づき資金調達できるため、比較的新しい企業や赤字企業でも資金調達が可能となる場合があります
ただし、知的財産権の評価額は将来の収益性などに基づいて算定され、変動する可能性がある点に注意が必要です。また、評価額が低かったり、権利の有効性に問題がある場合は担保価値が認められない可能性もあるため、事前の評価が重要です。
さらに、債務不履行になった場合に現金化が難しい知的財産権は、そもそも担保として認められにくい点にも要注意です。
知的財産戦略の策定ステップと弁理士の役割
知的財産戦略の重要性
資金調達を成功させるためには、知的財産戦略を事前にしっかりと策定することが重要です。
やみくもな特許取得だけでは、資金調達には結び付きにくいでしょう。具体的な知的財産戦略を策定し、明示できる状態にしておきましょう。
投資家や金融機関は、融資や出資を行う際、知的財産戦略を有している企業の将来性や収益性を高く評価する傾向にあります。適切な知財戦略は、企業の成長性を示す重要な指標となるのです。
戦略策定の手順
知的財産戦略策定の大まかな流れは、次のとおりです。
現状分析:自社の知的財産を棚卸し、競合他社の状況を調査する。
目標設定:資金調達目標を見据え、具体的な知的財産戦略目標を設定する。
戦略立案:目標達成のための具体的な施策を策定する(特許取得、ブランド構築など)。
実施:策定した戦略に基づく具体的なアクションを実施する。
検証:戦略の効果を検証し、必要に応じて修正する。
戦略策定では、知的財産の専門家である弁理士が、特許・商標といった出願手続きを代理します。
弁理士は、知的財産権侵害への対応だけでなく、知的財産権の活用アドバイス、契約交渉のサポート、投資家・金融機関への説明資料作成支援など、多岐にわたる役割を担います。
弁理士の専門分野や実績、コミュニケーション力などを踏まえて自社に最適な弁理士を選び、効果的な戦略策定支援を依頼することをおすすめします。
知的財産を活用した資金調達を成功させるポイント
市場性・競争優位性・収益性・安定性
投資家や金融機関は、資金提供のリスクに見合うリターンを期待しています。そのため、単に知的財産権を保有しているだけでは不十分で、資金提供の可否を決める際には次のような要素が総合的に考慮されます。
市場における優位性
例えば既存製品・サービスとの差別化要因は何かなど、特許技術が市場でどの程度の競争優位性をもたらすかが評価されます。ニッチ市場でも高いシェアを獲得できる可能性がある特許は高い評価を得やすいでしょう。
収益化の見込み
知的財産権を活用した事業がどれだけの収益を生み出す可能性があるのか、具体的な事業計画に基づいた収益予測が求められます。
権利の強度
権利範囲が明確に定められており、侵害リスクが低いことも重要です。また、権利行使の実績も評価の対象となり得ます。
権利化の状況
出願中のものに比べて、権利化された知的財産権がより高い評価を受けます。
経営陣の能力
知的財産権を適切に管理・活用できる経営陣の力量も、評価対象となります。
知的財産権に関する適切な情報開示
投資家や金融機関は、提供された情報に基づき投資判断を行います。したがって、透明性が高く理解しやすい情報開示は、信頼感の醸成、ひいては資金調達をスムーズに進めることにつながります。
以下のポイントを整理したうえで、簡潔で分かりやすい資料を作成しましょう。
知的財産権の種類と内容
特許、商標、著作権など、保有する知的財産権の種類とその具体的な内容を明確に示します。出願番号や登録番号なども含め、詳細な情報を提供することで、投資家・金融機関の理解を深めやすくします。
知的財産権の権利範囲
各知的財産権の権利範囲を明確に示すことで、保護の範囲や競合他社に対する優位性を示すことができます。権利範囲が曖昧な場合、投資家・金融機関はリスクを感じ、投資に消極的になる可能性があるため、要注意です。
知的財産権の活用状況
知的財産権をどのように事業に活用しているか、具体的な事例を挙げて説明します。ライセンス契約や製品開発への活用など、知的財産権が事業に貢献していることを示すことで投資価値がさらに高まります。
知的財産権に関するリスク
知的財産権に関する潜在的なリスク(例:権利侵害の可能性、将来的な権利維持費用など)も開示しましょう。投資家や金融機関が懸念しうる事項を事前に説明することで、かえって信頼性を高められます。
知的財産戦略
今後の知的財産戦略についても説明することで、企業の将来性や成長性をアピールできます。どのような知的財産権を取得していく予定なのか、取得した知的財産権をどのように活用していくのかなど、具体的な計画を示すことが重要です。
事業計画との整合性
知的財産権を活用した資金調達は、事業計画全体との整合性が不可欠です。投資家や金融機関は、知的財産権が事業計画の中でどのように活用され、収益に結びつくのかを重視します。
このため、整合性のない事業計画は、資金調達を成功させるうえで大きな障壁となります。以下の3つのポイントを意識して、知的財産戦略と事業計画との整合性を示しましょう。
知的財産権の具体的な活用方法を明確にする。
知的財産権による収益化戦略を具体的に示す。
事業計画全体における知的財産権の位置づけを明確に示す。
まとめ
知的財産を活用した資金調達は、企業を成長させる強力な方法のひとつであり、資金調達を成功に導くために戦略的なアプローチが不可欠となります。
企業はまず自社の知的財産を棚卸しして、ビジネスの核となる技術やブランドを明確化することが重要です。そのうえで、弁理士などの専門家の助言をもとに、知的財産の価値を最大化できる戦略を策定しましょう。
井上国際特許商標事務所では、知的財産に関する経験豊富な弁理士が、お客様の経営戦略を踏まえた有益なアドバイスをいたします。ぜひお気軽にご相談ください。
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