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意匠登録の拒絶理由通知とは? 理由別の対応について詳しく解説します

  • 執筆者の写真: Eisuke Kurashima
    Eisuke Kurashima
  • 10月31日
  • 読了時間: 9分
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出願した意匠に対して特許庁から「拒絶理由通知」が送られてくることがあります。これは、特許庁の審査官が意匠登録を「認められない」と判断した場合に、その理由とともに出願人に通知する書面のことです。


もっとも、この通知を受け取ったからといって直ちに意匠登録できなくなるわけではなく、むしろ登録の可能性を探るための重要な機会なのです。今回は、拒絶理由通知の概要から具体的な対応までを解説します。



拒絶理由通知とは


意匠登録における「拒絶理由通知」とは、出願された意匠について特許庁の審査官が「登録を認められない」と判断した場合に、その理由を記載して出願人に通知する書面のことです。


意匠登録の出願をすると審査官による審査が行われますが、その結果、登録要件を満たしていないと判断された場合は出願人に「拒絶理由通知」が届きます。


これに対応しないまま応答期間が経過すると、拒絶査定が送付されて意匠登録ができなくなってしまいます。拒絶理由通知を受け取ったら、すぐに記載されている拒絶理由を確認して対応する必要があります。



主な登録拒絶理由


主な登録拒絶理由としては、以下のようなものが挙げられます。


  • 新規性・創作非容易性

  • 同一・類似意匠の存在

  • 公序良俗違反等


新規性・創作非容易性

意匠登録の要件である新規性(意匠法第3条第1項第1号から第3号)ないし創作非容易性(同条第2項)が認められない場合、それが登録拒絶理由となることがあります。


「新規性」とは、世界で初めて創作された意匠であることを意味します。出願前に公然と知られたり実施されたりしていない意匠でなければ、意匠登録が認められません。


「創作非容易性」とは、意匠登録を受けようとする意匠が、公知のデザイン(出願前に公然と知られた意匠)に基づき容易に創り出せるものでないことを指します。既存の意匠を寄せ集めたり、少し変更したりしただけでは、創作非容易性がないと判断される可能性があります。


同一・類似意匠の存在

出願人が登録しようとしている意匠と、先行出願された意匠ないし既存の登録意匠が、同一または類似していると判断される場合にも拒絶理由通知が届きます。これは、先願要件(意匠法第9条第1項から第5項)を満たしていないためです。


同一・類似意匠の存在を理由とする拒絶理由通知が届いた場合は、類似性を具体的に否定したり、先行意匠にはない独自の創作性や表現による「識別力」があることを主張したりすることで、登録可能性を高められます。


公序良俗違反等

出願された意匠が、公序良俗等を害するおそれがある意匠や産業の発展を阻害するおそれがある意匠(意匠法第5条参照)に当たることも拒絶理由になり得ます。


具体的には、出願された意匠が社会全体の倫理観や道徳観、公の秩序に反する場合や、他者の業務に係るものと混同しやすいものであったりする場合がこれに当たります。



拒絶理由通知への対応


拒絶理由通知を受け取ったからといって、必ずしも登録への道が閉ざされたわけではありません。むしろ登録の可能性を高めるための重要なステップと捉え、適切に対応しましょう。


応答期間の確認

拒絶理由通知を受け取った出願者は、拒絶理由の解消に向けて意見書や補正書で応答できます。


一方、応答期間内に適切に対応しなければ、拒絶査定が送付され意匠登録はできなくなってしまいます。そこで、まずは応答期間を確認することが重要です。


応答期間は、通常、通知書の発送日から40日以内(出願者が在外者の場合は発送日から3カ月以内)です。この期間内での対応が難しい場合は、応答期間の延長請求(手数料2,100円)が可能です。延長請求が認められれば、応答期間が2カ月延長されます。請求の理由は問われませんので、対応をじっくり検討・準備するために延長請求をしておくことをおすすめします。


応答期間経過後であっても、応答期間の末日の翌日から2カ月以内であれば延長請求(手数料7,200円)が可能です。ただし、当初の応答期間内に請求して延長が認められていた場合は、応答期間経過後の延長請求は認められません。


拒絶理由の正確な理解

対応するための最初のステップは、拒絶理由通知書の内容を精読することです。通知書には、審査官が出願に対してどのような点に問題があると考えているのかが、条文や先行意匠の文献とともに記載されています。


  • 法令の条文:意匠法第〇条〇項など、どの規定に抵触すると判断されたかが明記されている

  • 先行意匠の文献:拒絶理由の根拠として引用された先行意匠の文献が示される

  • 具体的説明:なぜ新規性・創作非容易性がないと判断されたのか、なぜ先行意匠と類似していると判断されたかなど、具体的な理由が記載されている


これらの記載内容を丁寧に読み解き、審査官がどのような点に問題意識を持っているのか、その判断の核心を理解することが重要です。


具体的な対応方針の検討

拒絶理由を理解したら、それに対する対応方針を検討します。主な対応策としては、意見書の提出、補正書の提出、両方の提出の3つが考えられます。


意見書の提出

意見書は、審査官の判断に対して異議がある場合に提出します。通知された拒絶理由に対して登録が認められるべき理由を論理的に説明し、審査官に再考を促すための重要な書類です。


補正書の提出

補正書は、図面の補正や保護範囲を限定する書類です。例えば、新規性要件を克服するために保護範囲を限定して既存意匠との類似点を減らしたり、図面を補正して創作的な特徴を際立たせたりすることがあります。また、特定の部品の形状を細かく定義し直すなどの補正も考えられます。


両方の提出

意見書と補正書の両方を提出することも可能です。この方法は、審査官の指摘する拒絶理由に対して意匠そのものを補正することで解決を図ると同時に、補正によって拒絶理由が解消されることを論理的に説明したい場合に適しています。意見書と補正書を効果的に組み合わせることで、審査官に意匠登録の妥当性を理解してもらいやすくなります。


提出書類の準備と手続き

方針が決まったら、必要な書類を作成します。作成では次のポイントを意識しましょう。


意見書作成のポイント

意見書では、先行技術や類似意匠との違いを具体的に指摘し、意匠の新規性や創作非容易性を主張する根拠を示さなくてはなりません。その際は、次の流れで展開すると良いでしょう。


①審査官が指摘する拒絶理由の特定

②反論・説明

③反論・説明の正当性を補強する法的根拠・先行例

④結論


補正書作成のポイント

補正書の目的は、あくまで図面や説明を補正し、意匠の創作性の範囲を限定したり、先行意匠との類似点を解消したりすることです。補正によって意匠の本質的な特徴が変わってしまうと、「補正の範囲を超えている」と判断される恐れがある点に注意が必要です。


審査官との面談

必要であれば、審査官に電話で問い合わせることや、面談を申し出ることもできます。面談では、審査官の判断に対する理解を深めるだけでなく、意見書や補正書だけでは伝わりにくい意匠のポイントを伝えたり、審査官が抱える疑問点を解消したりしやすくなります。


面談を希望する場合は、拒絶理由通知書に記載されている特許庁の担当部にその旨を連絡し、日程調整を行います。面談の場では、事前に準備した説明資料を提示しながら、意匠の特徴や先行技術との差異などを具体的に説明します。審査官からの質問には、誠実に、かつ論理的に回答しましょう。



【拒絶理由別】対応のポイント


最後に、主な拒絶理由ごとの対応のポイントを、事例を交えて紹介します。


新規性・創作非容易性を理由とする拒絶への対応

新規性または創作非容易性を理由に拒絶理由通知が届いた場合は、拒絶理由通知書で指摘されている先行意匠(引用例)と出願意匠との差異を具体的に明らかにすることが重要です。


単に「違う」と主張するだけでなく、どのような点で新規性があり、あるいはどのような点が創作的であるかを明確に説明しましょう。


ポイントとしては、以下の点が挙げられます。


先行意匠との差異を明確にする

形状、模様、色彩などの構成要素を詳細に比較し、どこが異なっているのかを具体的に図や言葉で示します。さらに、その差異が意匠全体として看過できないほど重要であることを論証します。


創作的であることの論証

「創作的でない」とは、その意匠が、先行・既存の意匠から容易に創作できたと判断される場合を指します。したがって、社会通念上、その分野の専門家であれば容易に創作できるものではないことを、意匠の背景やプロセスとともに示します。


同一・類似意匠の存在を理由とする拒絶への対応

同一または類似の意匠があることを理由とする拒絶に対しては、主に以下の2つの方向性で対応を検討します。


ひとつは「類似性の否定」です。具体的には、意匠の構成部分(例:家具における脚の形状、家電におけるボタンの配置など)を細かく比較し、視覚的な印象において差異がある点を論理的に説明します。また、たとえ外観に一部類似点があったとしても、それぞれの意匠が意図する用途や機能が異なり、需要者がそれらを混同する可能性が低いことを論証します。


もうひとつは「識別力による優位性の主張」です。仮に、ある程度の類似性が認められる場合でも、出願意匠が先行意匠とは異なる独自の識別力を有することを主張します。例えば、先行意匠にはない革新的な機能性や、特定のターゲット層に強く訴求するデザイン要素などを具体的に説明します。具体的には、以下のような点を検討し、審査官に伝えることが重要になります。


デザインの独自性・特徴

類似意匠と比較して、どのような点が独自であり、消費者の目を引く特徴を持っているのかを具体的に説明します。


市場での認識

その意匠が、類似意匠とは異なる独自のイメージやブランドとして、市場で認識されている(あるいは、認識されるであろう)ことを示します。


意匠の創作意図

なぜそのデザインに至ったのか、どのようなコンセプトや目的があったのかを明確にすることで、類似意匠とは異なる創作意図があったことを強調できます。


その他の拒絶理由への対応

新規性や創作非容易性、同一・類似意匠の存在以外にも、意匠登録が拒絶される理由は存在します。代表的なものとしては、公序良俗違反や、商品の機能的特徴のみからなる意匠などが挙げられます。これらの拒絶理由に対しては、以下のような対応が考えられます。


公序良俗違反の場合

意匠が公序良俗に反しないことを具体的に説明し、誤解を解くための意見書を提出します。


商品の機能的特徴のみの場合

意匠が単なる機能的特徴だけでなく、創作的な美的要素を有していることを、図面や説明を加えて主張します。


これらの理由による拒絶通知を受けた場合も、まずは通知書の内容を正確に理解し、意匠登録の可能性を検討することが重要です。



まとめ

拒絶理由通知は、意匠登録への道を閉ざす通告ではなく、登録を実現するための重要な機会です。通知内容を正確に読み取り、意見書や補正書で的確に対応することで登録の可能性を高められます。諦めずに適切な対応を行い、必要に応じて弁理士など専門家への相談も視野に入れて進めましょう。


井上国際特許商標事務所では、経験豊富な弁理士が意匠登録の手続き代行を承っています。迅速な意匠登録をご希望の方は、ぜひ一度、ご相談ください。


 
 
 

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