バーチャル空間の法律問題|商標権・意匠権の扱いは?侵害リスクと対策を詳解
- Eisuke Kurashima
- 7月1日
- 読了時間: 6分

近年、メタバースに代表されるバーチャル空間の活用が急速に進み、そこでは様々な経済活動が行われています。このようなバーチャル空間における活動では、知的財産権、とくに商標権や意匠権はどのように扱われるのでしょうか。
今回は、バーチャル空間における商標や意匠の取扱い、それに関連する侵害リスク、そして開発者や利用者が講じるべき対策について解説します。
バーチャル空間でのブランド保護:商標権の適用範囲と注意点
バーチャル空間では何が商標になる?保護対象の具体例
商標権は、商品・サービスの名称やロゴを保護する権利です。バーチャル空間においても、現実世界と同様に、自己の商品・サービスを他者のものと区別するために使用される名称やロゴは、保護の対象となり得ます。
具体的には、以下のようなものが商標の対象となる可能性があります。
バーチャル空間自体のロゴ・名称
特定のアバターを識別するために使用されるアバターのロゴ・名称
バーチャル空間内で販売されるアイテムのロゴ・名称
バーチャル空間内で提供されるサービスのロゴ・名称
バーチャル空間での商標権侵害|リスクと判断基準の重要ポイント
では、現実世界で商標登録されている商品のロゴや名称を持つ仮想アイテムを、バーチャル空間における店舗やアバターに使用した場合は、商標権侵害になるのでしょうか。
商標権侵害と認められるには、単にそのロゴや名称が登録商標と同一ないし類似であるだけでなく、登録商標の「指定商品・役務」と同一または類似の商品・役務について使用されていることが必要です。つまり、商標権は「登録された指定商品・役務と同一または類似の商品・役務」についてのみ及ぶということです。
例えば、現実世界において商標登録された有名ブランドの商標の指定商品に「オンライン上の仮想世界で使用するダウンロード可能な仮想商品を内容とするコンピュータプログラム」という内容が含まれていた場合は、そのブランドの許諾なくそのブランドのロゴを掲載したアイテムを販売する行為は、商標権侵害となり得ます。
一方で、指定商品が「洋服」とだけ登録されていた場合は、現実世界で人間が着用する服とバーチャル空間におけるアバターに描かれる服は、その用途が異なりますから、商標権侵害にあたる可能性は低いでしょう。
ただし、バーチャル空間内での行為が商標法上の「使用」に該当するかは、現在も議論が続く重要な論点です。商品の用途や購入目的の共通性、名称やロゴによる出所の混同のおそれなどが総合的に考慮されるため、バーチャル空間で登録商標を使用する際は慎重な判断が求められます。
バーチャル空間と意匠権:デザイン保護の対象・実施行為・侵害判断
アバター衣装や空間デザインも?意匠権で保護される画像
意匠権は、物品や建築物、画像などの形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものに与えられる独占排他権です。
ここで、「画像」は、①機器の操作の用に供される画像と、②機器がその機能を発揮した結果として表示される画像に限られています。したがって、バーチャル空間における意匠権の保護対象としては、例えば、機器の操作を行うためのカーソルのアイコン画像やバーチャルキーボードの画像のようなものが考えられます。
ただし、意匠として保護されるためには、「新規性」や「創作非容易性」といった意匠法上の要件を満たす必要があります。バーチャル空間におけるデザインがこれらの要件を満たすかどうかは個別の事例ごとに判断されます。
意匠権が無くても違法?バーチャル空間において不正競争となりうる行為
意匠権は意匠登録によって発生します。一方、不正競争防止法は、所定の行為を不正競争と定義し、禁止しています。
不正競争防止法第2条第1項第3号は模倣品の販売等を禁止していますが、法改正により令和6年4月1日よりデジタル空間における模倣行為も禁止されています。例えば以下のような行為が問題となり得ます。
現実世界の商品を模倣した仮想アイテムをバーチャル空間で販売する行為
仮想アイテムを模倣した商品を現実世界で販売する行為
仮想アイテムを模倣した仮想アイテムをバーチャル空間で販売する行為
バーチャル空間における意匠の利用形態は多様化しており、その行為が法的にどのように評価されるかは、個別のケースごとに慎重な検討が必要です。
あなたの創作物は大丈夫?バーチャル空間での模倣品の判断基準
では、どのような場合に模倣品と判断されるのでしょうか。この点については、以下の要素を考慮して判断されます。
依拠性:他人の商品の形態に基づいて創作された商品であるかどうか。
同一性:商品の形態が実質的に同一であるかどうか。
独自に創作した商品の形態は、たとえ他人の商品と実質的に同一の形態であっても模倣品ではありませんし、他人の商品から発想を得たとしても商品の形態が実質的に同一でなければ模倣品ではありません。
【立場別】メタバースの商標・意匠侵害リスクを減らすための対策と留意点
このように、バーチャル空間においても、現実世界と同様に、商標権や意匠権といった知的財産権侵害のリスクがあります。これらのリスクを回避するには、開発者・運営者側と利用者側の双方が適切な対策を講じる必要があります。
【開発者・運営者】バーチャル空間の商標・意匠侵害を防ぐ4つの重要対策
バーチャル空間の開発者・運営者は、知的財産権侵害のリスクを減らすために、以下の対策を講じることが重要です。
利用規約の整備
ユーザーによる第三者の商標・意匠の無断使用を禁止し、違反時の措置を明確に定める必要があります。
コンテンツの監視体制の構築
AIや人手による監視を行い、権利侵害の可能性のあるコンテンツを早期に発見・削除できる体制を構築しましょう。
権利者からの申告窓口の設置
権利者からの侵害申告を受け付け、迅速に対応するための窓口を設置しましょう。
技術的制限
既知のブランド名やロゴ、デザインの無断アップロードや使用を制限する技術的な対策も有効です。
【利用者向け】バーチャル空間で他者の権利を侵害しないための3つの心得
バーチャル空間の利用者は、意図せずに他者の商標権や意匠権を侵害してしまうリスクがあります。これを避けるためには、以下の対策を講じることが重要です。
権利侵害の可能性のあるコンテンツ利用の回避
実在ブランドやキャラクターの模倣アバター・アイテム、有名ロゴ・デザインの無断使用、登録商標と同一のアバター名・空間名などは避け、使用前に権利者や専門家へ確認しましょう。
プラットフォームの利用規約の確認
多くのバーチャル空間プラットフォームは、知的財産権侵害に関する独自の規約を設けています。利用前に必ず確認し、遵守しましょう。
オリジナル性の高い表現
自身の創作物においては、可能な限りオリジナルのデザインや名称を使用することで、権利侵害のリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ
バーチャル空間の普及に伴い、商標権や意匠権といった知的財産権の保護は重要な課題となっています。
技術の進展が目覚ましい分野であるため、法改正も多く、裁判例にも注視する必要があります。バーチャル空間を運営ないし利用する際には、自身の商標権や意匠権を守るために、また、他者の知的財産権を侵害しないために、適切な対策を講じましょう。
井上国際特許商標事務所には、知的財産権に関する知見が豊富な弁理士が所属しています。バーチャル空間における知的財産権をめぐるリスク予防や商標権や意匠権の保護にお悩みの方は、ぜひご相談ください。
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