意匠権侵害への警告書とは? 受け取ってからの交渉方法についても解説します
- Eisuke Kurashima
- 15 分前
- 読了時間: 9分

意匠権の権利者から、意匠権侵害の警告書が送られてくることがあります。警告書への対応を誤ると、訴訟リスクの増大や企業イメージの低下を招く事態に発展するケースも考えられます。
今回は、警告書を受け取った際の初期対応から、意匠権侵害の判断基準、そして円満解決へと導くための具体的な交渉術までを網羅的に解説します。
意匠権侵害の警告書とは
意匠権侵害の警告書とは、意匠権の権利者が、他社の製品などが自社の意匠権を侵害している、あるいは侵害するおそれがあるとして、製品の製造・販売の差し止めや損害賠償などを求める通知のことです。警告書は、訴訟などの法的手続に移行する前に当事者間の話し合いによって問題を解決しようとする「警告」としての性格を持っていますが、その通知自体に法的な拘束力はありません。警告書には、主に以下のような内容が含まれています。
警告主(権利者)の氏名または名称
警告主が有する意匠権(登録番号、意匠の内容など)
警告受信者の製品が意匠権を侵害している、または侵害するおそれがあるという主張
具体的な要求(製造・販売の差し止め、在庫の廃棄、損害賠償、ライセンス契約の締結など)
回答期限
警告書を受け取った場合、その内容を無視したり対応を誤ったりすると、意匠権侵害訴訟に発展する可能性があります。そのため、迅速かつ慎重な対応が求められます。
警告書への対応を誤った場合のリスク
意匠権侵害の警告書を無視したり感情的に対応したりすると、事態を悪化させ、以下のような深刻な事態を招きかねません。
訴訟リスクの増大
警告書を軽視し、適切な対応を取らない場合、警告主が訴訟を提起する可能性が高まります。訴訟となれば、時間的・金銭的なコストは計り知れません。
損害賠償請求
意匠権侵害が認められた場合、警告主は損害賠償を請求するでしょう。侵害行為の態様によっては、事業継続が困難になるほどの賠償額を請求されることもあります。
差止請求による事業活動の停止
侵害行為の差止請求が認められれば、警告を受けた製品の製造・販売ができなくなってしまいます。
信用失墜
訴訟や差止命令を受けることで、企業の信用が大きく損なわれ、取引先や顧客からの信頼を失うおそれがあります。
以上のような事態を回避するには、警告書を受け取った初期段階から慎重かつ戦略的に対応することが重要です。
警告書受領時の初期対応
意匠権侵害の警告書を受け取ったら、慌てずに、まずは警告書の内容を正確に把握し、証拠を保全します。感情的になって警告主に直接連絡したり反論したりすることは避け、専門家のアドバイスも踏まえながら対応策を検討しましょう。
警告書の内容把握
具体的には、以下の点を漏れなく確認します。
警告主(権利者)の氏名・名称:誰からの警告かを確認します。
警告主が保有する意匠権の登録番号・意匠公報番号:権利の特定に不可欠です。
侵害が主張されている意匠:登録意匠のデザインと自社製品のデザインを比較検討するための基本情報です。
侵害の根拠:相手方がどのような理由で自社製品が意匠権を侵害していると主張しているのかを把握します。
要求事項:具体的に何を求めているのか(例:製品の製造・販売停止、損害賠償、是正措置など)を明確にします。
回答期限:いつまでに回答する必要があるのかを確認します。
これらの情報を正確に理解することで、その後の対応方針を適切に決定するための土台が築かれます。不明な点があれば、速やかに確認しましょう。
証拠保全
意匠権侵害の警告書を受領した場合、迅速な証拠保全が極めて重要となります。これは、将来的な交渉や万が一訴訟になった際に、自社の主張を裏付けるための強力な材料となります。具体的には、以下の点を証拠として保全しましょう。
自社製品に関するもの:製造年月日、製造数量、販売記録、設計図、製造工程に関する資料
警告書に関するもの:警告書原本、送付状、配達証明、警告書受領日時
警告主の意匠権に関するもの:意匠公報、登録証
その他:警告主とのメールや書面のやりとりの記録
これらの証拠を網羅的に収集・整理しておくことで、意匠権侵害の有無や、侵害があった場合の損害額などを客観的に評価するための基盤が整います。
また、相手方との交渉においても、客観的な事実に基づいた議論を進められ、不当な要求を退けたり円満な解決につなげたりするうえで有利になります。安易な証拠の処分や改変は、絶対に避けましょう。
直接連絡は慎重に
警告主への安易な直接連絡は以下のようなリスクを招き、不利な状況に陥ることがあります。このため、警告書の内容を正確に把握し、自社製品の状況を客観的に検証するまでは、警告主への直接連絡は控えるのが賢明です。
不用意な発言による不利な証拠の提供
意図せず、侵害を認めるような発言をしてしまう可能性があります。
交渉の主導権を失う
相手方が交渉の初期段階で主導権を握り、不利な条件を提示してくる可能性があります。
情報漏洩のリスク
相手方が交渉の初期段階で、自社の製品開発の意図や戦略に関する情報を引き出そうとする場合があります。
意匠権侵害の有無を検証
警告書を受け取ったからといって、意匠権侵害が確定しているわけではありません。自社製品が本当に他社の意匠権を侵害しているのか、客観的な視点で検証を進めましょう。
警告主の意匠権の有効性確認
まずは、警告書を送付してきた相手が保有する意匠権が有効であるかを確認します。意匠登録がされているか、登録から20年が経過していないかなどを調査します。(令和2年4月1日以降の出願分は、存続期間が25年に延長されています。)
類似意匠の判断基準に沿った検証
意匠権は、物品の形状、模様、色彩など、外観のデザインに関する権利です。侵害の判断においては、単に酷似しているかだけでなく、以下の要素を総合的に考慮します。
視覚的類似性(外観がどれだけ似ているか)
創作意匠の共通性(意匠の主要部分の創作性に共通する特徴があるか)
需要者の認識(通常の需要者が両意匠をどのように認識するか)
侵害態様の検証
意匠権侵害に該当するかどうかは事例によって異なります。どのような場合に意匠権侵害が認められ、どのような場合に認められなかったのか、過去の裁判例を参考に整理することが有効です。自社製品のデザインが警告主の意匠権を侵害しているか、専門家の助言を得ながら慎重に検討しましょう。
円満解決に向けた交渉術
意匠権侵害の警告書は、円満解決に向けた交渉の糸口とも捉えられます。ここでは、円満解決に導くための交渉術に焦点を当て、そのポイントを解説します。
警告主の意図を読み解く
円満解決に向けて、警告主が警告書を発した意図を冷静に読み解くことが重要です。警告書の背景にある意図として以下のようなものが挙げられます。
差止請求:自社製品の製造・販売をやめさせたい。
損害賠償請求:これまでの侵害による損害の賠償を受けたい。
ライセンス料徴収:今後の使用許諾(ライセンス)の対価を得たい。
市場からの排除:競合他社を市場から排除したい。
これらの意図は、単独である場合もあれば複数組み合わさっている場合もあります。警告書を受け取った際は、警告主がどのような意図で警告を発しているのかを慎重に見極めたうえで交渉を進めましょう。
具体的な交渉の進め方
交渉では一方的に権利を主張するだけでなく、相手の状況に配慮した柔軟な姿勢で臨みましょう。具体的には以下のようなアプローチが推奨されます。
対話と交渉の促進
警告書を受け取った側は、安易に侵害を認めたり無視したりするのではなく、まずは冷静に警告書の内容を検討し、対話の道を探りましょう。
第三者機関の活用
円滑な交渉のために、調停や仲裁といった第三者機関の利用も有効な手段として挙げられます。
ライセンス契約の検討
意匠権侵害の可能性がある場合でも、ライセンス契約を締結することで合法的に製品の製造・販売を継続できる道が開かれます。
自社が警告受信者である場合の姿勢
警告書を受領した側には、冷静な対応が求められます。交渉においては、以下の点を意識しましょう。
対抗策の準備
侵害を否定できる根拠や、代替案(デザイン変更、代替品の提案など)を準備します。
柔軟な姿勢
感情的にならず、警告者の主張に耳を傾け、解決に向けた妥協点を探ります。場合によってはライセンス契約の締結も視野に入れましょう。
自社が警告主である場合の姿勢
警告を発信した側にも、相手の状況を踏まえつつ自社の権利を適切に主張する姿勢が求められます。交渉においては、以下の点を意識すると良いでしょう。
警告の根拠の明確化
権利証や侵害の証拠を提示しながら、自社の意匠権の有効性や相手製品の侵害性を具体的に示します。
相手の状況の確認
相手が侵害を認識していたか、意図的なものかなどを探ります。
解決策の提示
侵害停止、損害賠償、その他の選択肢を提示します。相手の事業への影響も考慮し、ライセンス契約の締結や段階的な停止措置といった提案も検討しましょう。
交渉における譲歩と要求のバランス
一方的に自社の主張のみを押し通そうとすると、交渉が決裂するリスクが高まります。相手の主張や意図を十分に理解したうえで、譲歩と要求のバランスを保ちながら交渉に臨みましょう。
例えば、製品の一部のデザイン変更であれば応じることができるかもしれません。また、一定期間のライセンス料を支払うことで製品の製造・販売を継続したり、将来的な技術協力関係へと発展したりする可能性もあります。
一方で、事業継続の根幹に関わるデザイン変更や、過大な損害賠償、自社の技術的優位性を喪失するほどの契約締結などに応じるわけにはいきません。
このように、譲歩できる点と絶対に譲れない点を、あらかじめ明確に線引きしておくことをおすすめします。
まとめ
意匠権侵害の警告書を軽視したり感情的に対応したりすると、訴訟や信用失墜といった重大なリスクにつながります。まずは内容を正確に把握し、証拠を保全したうえで、専門家の助言を得ながら冷静に対応しましょう。侵害の有無や意匠権の有効性を検証し、相手の意図を見極めながら交渉を進めることで、円満解決への道が開かれるはずです。
井上国際特許商標事務所では、意匠権侵害への警告書対応に関するご相談を承っております。ぜひご相談ください。



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