営業秘密管理指針とは? 令和7年改訂についてもわかりやすく解説
- Eisuke Kurashima
- 10月3日
- 読了時間: 6分

令和7年3月、経済産業省が公表しているガイドライン「営業秘密管理指針」が改訂されました(以下、「令和7年改訂」)。この指針は、不正競争防止法のもと「営業秘密」が保護されるための要件解釈や、企業等が自社の情報を「営業秘密」として適切に保護するための情報管理体制構築に欠かせないガイドラインです。
今回は、営業秘密管理指針や「営業秘密」について解説したうえで、令和7年改訂についてわかりやすく解説します。
営業秘密管理指針とは?
営業秘密管理指針とは、経済産業省が公表している、企業が営業秘密を適切に管理するための具体的な方法や考え方を示したガイドラインです。このガイドラインには、不正競争防止法における「営業秘密」の主な要件(秘密管理性、有用性、非公知性)や、企業が情報漏洩リスクの低減を図るために取るべき具体的指針が示されています。
経済産業省は、最新の技術動向や法改正などを踏まえて、この指針を定期的に改訂しています。
営業秘密とは?
営業秘密とは、企業が事業活動を行う上で有用な情報のうち、不正競争防止法によって法的保護を与えられたもののことです。そして、不正競争防止法には、営業秘密と認められるための三要件として「秘密管理性」「有用性」「非公知性」が規定されています。
秘密管理性とは、その情報が秘密として管理されていることです。有用性とは、事業活動において有用であること。そして非公知性とは、公然と知られていないことを意味します。
これらの要件を満たす情報、すなわち営業秘密を適切に管理することで、企業は情報流出から事業を守り、競争優位性を維持することができます。
営業秘密管理指針の令和7年改訂の背景
営業秘密管理指針は、平成15年1月に策定されて以来、営業秘密を取り巻くビジネス環境や法制度の変化に応じて平成27年、平成31年と改訂されてきました。
同様に、令和7年3月、加速する技術革新、ビジネス環境の変化、そして裁判例の蓄積に対応すべく、最新の改訂が実施されました。具体的には、以下のような要素が改訂の理由として挙げられます。
生成AIをはじめとする技術革新
リモートワークの普及
サプライヤーや委託先を含むサプライチェーンの複雑化・広範囲化
不正競争防止法の改正
裁判例で示された「秘密管理性」などの三要件の具体的内容
情報流出事案への対応強化の必要性
令和7年改訂の主な変更点
令和7年改訂では、営業秘密の三要件が明確化されたほか、民事措置と刑事罰の関係性が示された点、企業以外の大学や研究機関の情報も「営業秘密」として保護・管理の対象となることが示されました。
営業秘密の三要件に関する明確化~秘密管理性について~
まず、秘密管理性についての変更点を解説します。
秘密管理性については、秘密管理措置の対象者である「従業員等」に派遣社員、役員、取引先などが含まれることが明確化されました。そして、秘密管理性が認められるかどうかは、個々の従業員等が営業秘密と認識していたか否かを問わず、従業員全体の認識可能性を含めて客観的に判断されるとの考え方が示されました。
また、営業秘密を支店や営業所といった企業内部で共有する場合、子会社、関連会社、業務委託先や取引先といった企業外部と共有する場合と、それぞれの秘密管理性の考え方が整理されました。
さらには、必要とされる秘密管理措置の程度について、「合理的区分」を一要素として考慮することが示されたほか、生成AIによって秘密情報が生成された場合の考え方も示されました。
他にも、関連する裁判例が具体的事案として挙げられています。
営業秘密の三要件に関する明確化~有用性について~
有用性については、これまでの裁判例を踏まえて次の2点が追記されています。
当該情報が、営業秘密を保有する事業者の事業活動に使用・利用されているのであれば、基本的に営業秘密としての保護の必要性を肯定でき、当該情報が公序良俗に反するなど保護の相当性を欠くような場合でない限り有用性の要件は充足される。
有用性の要件の判断に際しては、当該情報を不正に取得した者がそれを有効に活用できるかどうかにより左右されない。
営業秘密の三要件に関する明確化~非公知性について~
非公知性については、以下の3つのケースについて、それぞれの「非公知性」の考え方が示されました。
①営業秘密がダークウェブ上に公表された場合
②公知情報が組み合わされた場合
③リバースエンジニアリングにより営業秘密が取得された場合
例えば、営業秘密がダークウェブ上に公表された場合であっても、当該情報がただちに「公知」となるわけではありません。
また、公知情報が組み合わされることで営業秘密が公知となり得るケースでも、その組み合わせが知られていない場合や容易に知り得ない場合であれば非公知性は否定されません。仮に知られても、知るための時間やコストがかかり財産的価値があるといえる場合には非公知性が認められます。
リバースエンジニアリングについては、例えば「誰でもごく簡単に製品を解析することによって営業秘密を取得できるような場合」には非公知性が失われる一方で、「特殊な技術をもって相当な期間が必要であり、誰でも容易に当該営業秘密を知ることができない場合」には非公知性が維持されます。
民事措置と刑事罰との関係性
令和7年改訂の「営業秘密管理指針」では、営業秘密が侵害された際の民事上の法的措置と刑事罰との関係性が明確化されました。
不正競争防止法では、営業秘密の侵害行為に対して差止請求や損害賠償請求といった民事上の措置のほか、刑事罰も定められており、悪質なケースでは懲役刑や罰金刑が科せられます。
改訂前の指針では、民事上と刑事上とで「営業秘密」該当性の要件が同じかどうかが定かでありませんでしたが、今回の改訂で「秘密管理性等の三要件の解釈については、民事上の要件と刑事上の要件とは同じものと考えられる」と明記されました。
企業以外の大学や研究機関の「営業秘密」について
大学や研究機関では、基礎研究の成果や未公開の実験データなど、将来的な事業展開につながる可能性のある情報が数多く生まれます。これらの情報は、産業界との共同研究や技術移転の過程で、営業秘密として適切に管理する必要性が高まっています。
これまで裁判例でも示されてきたところですが、令和7年改訂の営業秘密管理指針では、企業だけでなく、大学や研究機関などの保有する情報も「営業秘密」になり得ることを明確化しました。
まとめ
営業秘密管理指針の令和7年改訂は、生成AIやリモートワークの普及、複雑化するサプライチェーンなど、企業を取り巻く環境変化を反映しています。
これを機に、営業秘密の三要件の解釈や適用範囲がより明確になったことで、従来の管理体制を見直す必要性が一層高まっています。適切な情報管理体制のもと、自社の実情に即したルールの再点検と従業員等の研修・教育を行いましょう。
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