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独占的通常実施権の基礎知識と専用実施権との違い|特許実施権を正しく理解しよう

  • 執筆者の写真: Eisuke Kurashima
    Eisuke Kurashima
  • 2024年1月31日
  • 読了時間: 5分

更新日:3月5日

特許権者以外が特許技術を利用して製造、販売、またはサービス提供を行えるのは、特許発明の実施権が付与されているためです。実施権は「通常実施権」と「専用実施権」に分かれており、さらに通常実施権は「独占的通常実施権」と「非独占的通常実施権」に分類されます。


本記事では、主に「独占的通常実施権」について解説します。「独占的・排他的に実施できる」という共通点をもつ「専用実施権」との違いもあわせて説明しますので、ぜひ最後までお読みください。



独占的通常実施権の概要とその意義

特許発明は本来、特許権者に独占的・排他的な権利が認められています。そのため、特許権者以外は当該特許技術を使って物を製造・販売したりサービスを提供したりすることはできません。しかし、特許の実施権が認められた者であれば、例外的に実施権の範囲内で特許発明を実施できます。


実施権には「専用実施権」と「通常実施権」がありますが、通常実施権のうち実施権者のみに独占的に実施権を付与する契約が結ばれている実施権のことを、特に「独占的通常実施権」と呼びます


専用実施権の概要と特徴

専用実施権とは、特許権者が設定する実施権です。特許庁に登録されることで権利が発生します。設定を受けた実施権者は、設定行為で定められた機能や地域、時期などの範囲内において、特許発明を排他的・独占的に実施できます(特許法77条)。



非独占的通常実施権の特徴

非独占的通常実施権は、通常実施権の一種です。通常実施権とは、特許権者が他者に特許発明の実施を許諾することで付与される実施権で、特許権者と実施権者との間の契約によって権利が発生します。


専用実施権と同様、実施権者に特許発明の実施権が与えられますが、実施権者に実施権を「専有」させる専用実施権と違って、特許権者は複数人に対して重複して非独占的通常実施権を付与することもできます。


独占的通常実施権の特徴

独占的通常実施権も通常実施権の一種です。もっとも、特許権者と実施権者との間の契約上、「実施権者以外の第三者に実施権を認めない」旨の合意をすることは可能です。


このような合意がなされると、当該実施権者が独占的に特許発明を実施できるようになります。これが、独占的通常実施権と呼ばれています。



独占的通常実施権と専用実施権の違い|手続きと法的効力の比較

独占的通常実施権は、実施権者が特許発明を独占的・排他的に実施できるという点で、専用実施権と類似しています。しかしながら、独占的通常実施権と専用実施権は、手続き面と効力の面で大きく異なっています。


手続きの違い

独占的通常実施権は、特許権者と実施権者との契約により成立する権利です。そのため、実施権付与の手続きは、一般的な契約締結プロセスに則り、両者の合意に基づく契約書の作成・締結をもって実施されます。そして契約書の合意内容には、特許権者が第三者に実施権を付与しない旨の合意が記されます。


他方、専用実施権を設定するには、特許権者と実施権者の間の契約に加えて、特許庁に「専用実施権設定登録」を申請し登録を受けなくてはなりません


申請の際は、特許権者と実施権者が共同で作成する「専用実施権設定登録申請書」に登録免許税分(特許1件につき1万5,000円)の収入印紙を貼付し、「専用実施権設定契約証書」「特許権者の印鑑証明書」などの資料を添付する必要があります。


侵害行為に対する効力の違い

独占的通常実施権と専用実施権の最も大きな違いは、侵害行為に対し直接的に実施権に基づく法的請求ができるか否かにあります。


ここでは、例を挙げて説明します。


ケース1

X社は、Y社から特許発明につき専用実施権の設定を受けているが、第三者であるZ社が当該特許発明の技術を用いて製品Aを販売している状況。

このケースにおいて、専用実施権を有するX社は、Z社に対して、実施権に基づく製品Aの販売行為に対する差止め請求や、これにより発生した損害の賠償請求を行うことが可能です。



ケース2

X社が、Y社の特許発明につき独占的通常実施権を有しているが、第三者であるZ社が当該特許発明の技術を用いて製品Aを販売している状況。

このケースでは、Z社が当該特許発明を用いた製品Aを販売しても、X社はZ社に対して差止め請求することはできません。これは、独占的通常実施権がX社Y社間の契約に基づく債権的行為であり、第三者Z社に対して効力が及ぶ性質ではないためです。


また、特許庁の原簿に登録されている専用実施権と違い、独占的通常実施権の設定は、通常、第三者が知ることはできません。


過去の裁判例では、独占的通常実施権者から第三者に対する損害賠償が認められたケースもありますが、民法の一般原則に従い裁判所の判断で認められた個別具体的な事例にすぎず、実施権に基づく損害賠償請求権が認められたわけではありません。


このケースでは、独占的通常実施権者であるX社は、Y社に対する契約違反の責任追及はできるものの、Z社に対して実施権に基づく差止め請求や損害賠償請求をすることは、原則としてできません。



まとめ

今回は、特許権者と実施権者との間の契約で特許発明の独占的・排他的な実施を認める「独占的通常実施権」について解説しました。


類似の実施権「専用実施権」との違いは、主に手続きと効力にあります。


専用実施権は、特許庁への煩雑な手続きを要する一方で、第三者からの侵害行為に対して直接差止め請求ができるほどの強力な効果を発揮します。専用実施権の設定が完了すれば、第三者に対する差止め請求などの法的保護が得られ、安心感が高まります。


一方、特許権者との交渉や手続きの容易さという点では、独占的通常実施権にも十分なメリットが認められます。状況に応じて選択すると良いでしょう。


井上国際特許商標事務所では、特許関連の手続き経験豊富な弁理士が、特許発明の実施権の選択や設定手続きをサポートします。実施権に関してお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。


 
 
 

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