特許権者には、原則として、特許発明を独占的・排他的に実施する権利が認められています。このため、他者が発明した特許技術を使って物を製造したり販売したりするには、その特許発明の専用実施権や通常実施権を獲得する必要があります。
本記事では、通常実施権との違いを踏まえながら、専用実施権について詳しく解説します。
特許発明の実施権とは?
特許発明の実施権とは、特許権者ではない者が特許発明を実施するための権利です。
特許権者は、特許発明を独占的・排他的に実施する権利を有しています。このため、第三者は原則として当該特許発明を実施できません。しかし、実施権を有する者であれば、例外的に特許発明を実施できます。すなわち、特許権者から差止め請求や損害賠償請求をされることなく、特許発明を実施できるのです。
特許発明の実施権には、大きく分けて「専用実施権」と「通常実施権」があり、後者はさらに「独占的実施権」と「非独占的実施権」に分けられます。以下でそれぞれ解説します。
専用実施権とは
専用実施権とは、特許権者として設定された第三者が、設定行為で定められた機能や地域、時期などの範囲内において、当該特許発明を実施できる権利のことをいいます。
専有実施権を設定すると、特許の排他的効力が、設定行為の範囲内で実質的に実施権者に移転します。そのため、たとえ特許権者であっても、専用実施権者の許諾を受けることなく特許発明を実施することはできませんし、専有実施権が設定された範囲と同じ範囲で、重ねて第三者に実施権を設定することもできません。
このように、専有実施権は、特許権者の特許権行使が大きく制限される反面、実施権者にとっては、他者を排除して独占的・排他的に特許発明を実施できる強力な権利といえます。
なお、特許出願後・取得前の段階にある特許権について設定できる「仮専用実施権」という制度もあります。仮専用実施権の設定を受けた者は、当該発明が特許される際に、仮専用実施権の設定行為で定められた範囲内において専用実施権者とみなされます。
専用実施権と通常実施権との相違点
通常実施権とは
通常実施権とは、特許権者と実施権者との契約で許諾される権利で、専用実施権と同様、実施権者には当該特許発明の実施が認められます。また、特許権者から専用実施権の設定を受けた専用実施権者も、特許権者の承諾を得た場合に限り、第三者に対して通常実施権を許諾できます(特許法77条4項参照)。
通常実施権は、特許権者(または専用実施権者)と通常実施権者との間の契約によって生じる債権であり、本来、排他的・独占的な権利ではありません。したがって、特許権者(または専用実施権者)は基本的に、複数人に対して重ねて通常実施権を許諾することも可能です。このような通常実施権は「非独占的実施権」と呼ばれます。
ただし、契約において当該実施権者にしか通常実施権を認めないことを合意した場合には、慣習上、当該実施者に独占的な実施権が認められることになります。こちらは、非独占的実施権と区別して「独占的実施権」と呼ばれます。
通常実施権も専用実施権も、どちらも「特許発明を実施できる」という点は同じですが、大きく次の2点で異なります。1つ目が、実施権を「専有」できるか否かという点、2つ目が、実施権者が侵害者に対して自ら差止め請求や損害賠償請求を行えるか否かという点です。
実施権を専有できるか否か
まず、「専用」という言葉にあるとおり、専用実施権者は、設定行為で定められた範囲において特許発明の実施権を専有できます。専用実施権が設定された範囲については、特許権者は第三者に重ねて実施権を設定できないばかりか、特許権者自身も当該特許発明を実施できません。
他方、通常実施権には、専用実施権のように実施権を専有する権利までは認められていません。特許権者は基本的に特許発明を実施できますし、複数人に対して同じ範囲で通常実施権を認めることも可能です。ただし、特許権者と通常実施権者との間で独占的実施権を内容とする契約が結ばれた場合は、この限りではありません。
実施権者が差止め請求等できるか否か
専用実施権と通常実施権の最大の違いは、実施権者が侵害者に対して自ら差止め請求や損害賠償請求をできるかどうかという点です。専用実施権の設定を受けた実施権者は、他者が当該特許発明を侵害した場合、専用実施権に基づき自ら侵害行為の差止めやこれによって被った損害の賠償を請求できます。
しかしながら、通常実施権は、たとえ独占的実施権が認められた実施権であっても、あくまで特許権者との契約関係に基づく権利であるため、実施権に基づき自ら差止め請求や損害賠償請求することはできません。通常実施権者は、特許権者を介して侵害を排除するための措置をとらざるを得ないのです。
専用実施権のメリットと注意点
実施権者にとって、特許の実施権には、他者の発明を自社のビジネスに活用できるメリットがあります。なかでも専用実施権は、実施権者に特許発明の排他的・独占的な実施権を認め、侵害行為に対して自ら差止め請求や損害賠償請求もできるほどの強い権利です。
他者の特許発明を活用するケースでは、専用実施権の設定を受けられるよう交渉してみましょう。専用実施権の設定が難しい場合には、通常実施権のうち独占的実施権の方向性を探るとよいでしょう。
他方、特許権者にとって、他者に実施権を認めるということは、自社に製造・販売の余力がない場合にライセンス料で収益をあげられるメリットがある一方で、特許権の行使は制限されます。特に専用実施権を設定した場合には、自ら発明した技術を実施できないという事態に陥ります。
専用実施権を設定する際には、研究・開発に必要な実施が妨げられない範囲で設定するなど、その設定範囲を慎重に検討しましょう。
まとめ
今回は、専用実施権について、通常実施権との違いに触れながら解説しました。
いずれも他者の特許発明を実施できる権利でありながら、権利の性質や強度には大きな違いがあります。このため、特許権者として実施権を付与しようとしている方にも、他者の特許発明の実施権を獲得しようとしている方にも、専用実施権と通常実施権の違いを踏まえた検討と交渉が求められます。
井上国際特許商標事務所では、特許関連の手続き経験豊富な弁理士が、実施権の設定や獲得をサポートいたします。特許発明の実施権に関してお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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