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特許の均等論を解説|5つの要件と事例でわかりやすく

更新日:1月31日

特許の均等論とは、特許権侵害の有無を判断する際に「特許権の効力の及ぶ範囲」を拡張して考える理論です。元々は、発明のわずかな変更で特許権侵害を回避しようとする行為を防ぐために、米国で確立された理論で、日本でも平成10年の最高裁判決で採用されました。


本記事では、特許の均等論の意義と5要件を、具体例とともに説明します。



特許の均等論とは?|特許侵害を幅広く捉える考え方

特許の均等論とは、特許権侵害の有無を判断する際に、一定の要件のもと「特許権の効力の及ぶ範囲」を拡張して考える理論です。


すでにある特許とまったく同じでなくても、技術的構成などまで考慮した結果、実質的に「均等」と評価される場合には特許権の効力が及ぶことをいいます。



事例で解説|均等論が必要となるケース

ここでは、製品Aを販売するX社の特許技術と類似の技術を用いた模倣品Bを、Y社が製造・販売したケースを考えてみましょう。


模倣品Bは、X社の特許技術とまったく同じ技術を用いたわけではありません。このような場合、X社はY社に対し、特許権に基づく模倣品Bの販売差し止めを求めることはできるでしょうか。


特許侵害の基本|特許請求の範囲との一致が原則

模倣品BがX社の特許権を侵害していると言うためには、原則として、模倣品Bで使用されている技術が「特許権の効力の及ぶ技術的範囲内にある」と言えなければなりません。 そして、特許権の効力の及ぶ技術的範囲内にあるかどうかは、特許公報の「特許請求の範囲」に記載されている構成要件と模倣品Bの構成を照らし合わせて判断します。これらがすべて同じであれば「技術的範囲内にある」と言え、特許権侵害にあたります。


例えば、X社の特許発明の構成要件①②③と模倣品Bの構成①②③がすべて一致すれば、特許権侵害にあたります。一方で、模倣品Bの構成①は構成要件①と同じでも、構成②③がまったく異なる構成だった場合は、技術的範囲内にあるとは認められず、特許権侵害には該当しません。


なぜ均等論が必要?|わずかな変更による特許侵害の回避を防ぐ

では、上記の例で模倣品Bの構成①と②がまったく同じで、③だけわずかに異なる場合は、どうでしょうか。原則どおりだと、①~③のすべてが一致しているわけではないので、特許権侵害にあたらないことになります。 しかし、X社の特許発明の一部をわずかに変更しただけのY社が特許権侵害から免れられるとすると、特許権の効力があまりに弱く不都合が生じます。


そこで、特許発明の構成要件と模倣品の構成が一部異なっていても実質的に同一である場合は、「技術的範囲内にある」と評価するための理論が生まれました。このように、「技術的範囲」を拡張して実質的な特許権侵害に対抗するための理論が、特許の均等論です。



特許の均等論5要件|成立要件をわかりやすく解説


日本では、平成10年2月24日の最高裁判決で特許の均等論が採用され、同判決中に、特許の均等論が認められるための5要件が示されました。


すなわち、特許発明の構成要件と模倣品の構成を比較したときに異なる部分につき、次の5要件をみたす場合は、特許発明の構成要件と模倣品の構成とが均等と判断され、特許権侵害が認められます。


判例が示した5要件


  1. 構成が異なる部分が特許発明の本質的部分でないこと(非本質性)

  2. 構成が異なる部分につき、特許発明の構成要件を模倣品の構成に置き換えても特許発明の目的を達成でき、同一の効果作用を奏するものであること(置換可能性)

  3. 上記2のような置き換えを、当該発明の属する技術分野において通常の知識を有する者(当業者)であれば、模倣品製造時点において容易に想到できたこと(置換容易性)

  4. 模倣品に使われている技術が、特許発明の出願時における公知技術と同一または当業者が容易に推考できたものでないこと(公知技術の除外)

  5. 模倣品に使われた技術が、特許発明の出願手続きにおいて特許請求の範囲から意識的に除外されたものにあたるなど、特段の事情がないこと=意識的除外等の特段の事情がないこと


X社とY社の事例に当てはめると、次のすべてをみたす場合にY社の特許権侵害が認められます。


  1. 模倣品Bの構成③が、X社の特許発明の本質的部分でないこと。

  2. X社の特許発明の構成要件③を模倣品Bの構成③に置き換えてもX社の特許発明の目的を達成でき、同一の効果作用を奏すること。

  3. Y社は模倣品Bを製造した時点でそのような置き換えを容易に思いつけたこと。

  4. 模倣品Bに用いられた技術が、X社の特許発明の出願時における公知技術と同一または当業者なら容易に思いつくことのできた技術でないこと。

  5. 模倣品Bに用いられた技術が、X社の特許技術の出願時に「請求の範囲」から意識的に除外されたものであるなど、特段の事情がないこと。


過去の判例から、一般的に「その道に多少詳しい人であれば誰もが簡単に思いつくような内容で、一部を入れ替えても結果が同じになるような、本質的に同じ発明であれば、特許の均等論が認められる可能性がある」といえるでしょう。


まとめ

今回は、特許の均等論について解説しました。


均等論によって特許権侵害を認めるための5つの要件が判例で示されていますが、これらの要件該当性は、当然ながら個別の事例ごとに判断されます。


自社の発明にわずかな変更を加えた技術が他社の模倣品に用いられているようなケースでは、均等論によって特許権侵害を主張できますが、具体的な要件該当性の検討は、特許の専門家にご相談することをおすすめします。


井上国際特許商標事務所では、特許関連の手続き経験豊富な弁理士が、特許権侵害に対抗するための準備段階から最終的な解決までをサポートいたします。ぜひお気軽にご相談ください。

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