プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)の要件とは?構造特定が困難な発明を守る請求項の実務ポイントを解説します
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物の構造や特性によって発明を特定することが困難なとき、その製造方法によって物の発明を特定しようとするハイブリッドな請求項が、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)」です。
今回は、そんなPBPについて、基本概念から成立要件、技術分野ごとの該当例、さらには実務上の注意点まで、わかりやすく解説します。
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)とは
特許法では、発明は「物」「方法」「物を生産する方法」の3つに分類されます。そして、特許出願の際、特許として保護を求める権利の範囲を確定するために、「特許請求の範囲」に請求項(クレーム)を記載しなければなりません。
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)とは、「物」の発明について、その構造や特性によって直接特定することが困難な場合に、その物の「製造方法」によって特定しようとする請求項です。すなわち、「物」の発明でありながら「物を生産する方法」の記載形式を借用した、ハイブリッドなクレームといえます。
PBPの成立要件
PBP形式の請求項が認められるには、明確性要件(特許法第36条第6項第2号)に関連して厳格な要件、すなわち「不可能・非実際的事情」要件を満たす必要があります。
特許の「明確性」要件
明確性は、特許庁の審査や特許取得後の無効審判における重要な要件のひとつです。特許法における「明確性」とは、請求項から発明の技術的範囲(何が権利範囲か)を明確に把握できることを意味します。
PBPが「明確性」要件を満たすかどうかについては、かつて「製造方法が異なれば別物」とみる製造方法限定説と、「製造方法が異なっても物は同じ」とみる物同一説とで、解釈が分かれていました。
しかし、2015年の最高裁判決(プラバスタチンナトリウム事件)が物同一説を採用したことから、現在の日本の実務では物同一説が定着しています。つまり、最終的に得られる「物」が同一であれば、製造方法が異なっても全ての製品に権利が及ぶと解釈されています。
「不可能・非実際的事情」要件
物同一説を前提に、2015年最高裁判決は、PBPの明確性が認められるための要件として、厳格な「不可能・非実際的事情」を要求しました。
したがって、現在の特許実務においてPBPが認められるには、出願時にその物を構造や特性によって特定することが「不可能」であるか、あるいは「およそ実際的でない」とする事情が求められます。
一方、不可能・非実際的事情のいずれも認められないと判断された場合には、そのクレームは不明確として拒絶されることになります。
「不可能・非実際的事情」の該当ケース
特許庁(JPO)の審査ハンドブックや近年の審決例をもとに「不可能・非実際的事情」の該当ケースをみると、主に次のような場合が挙げられます。
新規な化学物質・組成物:構造が極めて複雑で、既存の分析技術では特定しきれないケース
細胞・微生物・バイオ素材:製造プロセスの違いが微細な高次構造に影響し、特性値で表せないケース
微細構造を持つ新材料:製造過程を経て初めて形成される表面状態などが、物理的数値で定義できないケース
以下、具体的な技術分野ごとに解説します。
バイオ・医薬品分野
バイオ・医薬品分野は、構造が複雑で分析技術の限界を超えることが多いため、PBPが許容されやすい領域といえます。
例えば、特定の細胞株を用いて特定の培養条件で製造された糖鎖修飾抗体についてのクレームが挙げられます。このようなケースでは、糖鎖の結合位置や組成を物理的数値のみで完全に特定することは現在の分析技術では著しく困難であるため、「不可能・非実際的事情」が認められやすい傾向にあります。
一方、単なるアミノ酸配列の置換など、配列番号で特定できるものについては「不可能・非実際的事情」があるとはいえず、PBPは認められにくい傾向にあります。
化学・材料分野
高分子化合物や新素材を扱う化学・材料分野は、判断が分かれやすい領域です。
例えば、特定の触媒を用いた重合体(ポリマー)について「○○法により重合された、密度××のポリエチレン」というクレームが挙げられます。このように、密度や分子量分布などの物性値だけでは、その製法特有の「分岐構造」や「微細な特性」を表現しきれない場合、PBPが認められやすい傾向にあります。
一方、赤外分光(IR)や核磁気共鳴(NMR)などによって構造を明確に特定できる低分子化合物については、PBPは認められません。
食品・組成物分野
食品・組成物分野は、上記の2分野に比べてPBPのハードルが高い領域です。
例えば、特定の加熱・冷却工程を経たチョコレートのPBPとして、「◯◯℃で◯分加熱し、徐冷して得られた食感の良いチョコレート」が挙げられます。しかしこのようなクレームは、単に「食感」を製法で説明しているに過ぎず、融点や脂肪結晶の型(5型、6型など)といった物性値で特定可能とみなされがちです。
複雑な高分子ネットワークを持つゲル状食品など、構造特定が不可能な場合には認められる余地があるものの、一般的に、食品・組成物分野でのPBPは認められにくい傾向にあります。
PBP出願の実務上の注意点
安易なPBPは避ける
これまでみてきたように、PBPの審査基準は非常に厳格です。このため、クレームの特定においては、可能な限り、融点、粘度、分子量分布といった物性値や構造式で特定することが望ましいといえます。構造や物性による特定をメインに据え、PBPはあくまで最終手段として位置づけましょう。
あるいは、請求項1に「物性値による特定」、請求項2に「PBP形式」を配置し、審査官の反応を見て一方を削除・修正する「ダブルトラック戦略」も有効です。
「証拠」の準備
「不可能・非実際的事情」を立証するため、開発の段階から「分析を試みたが数値化できなかった記録」を保管しておくことが重要です。また、「なぜ構造特定が困難なのか」を説明できるよう、実験データや分析結果を明細書中にあらかじめ記載しておきましょう。
審査官から拒絶理由通知を受けた段階で、後付けで事情を説明するのは容易ではありません。PBPでの出願に備えて、開発時から「証拠」を準備しておくことが、将来の拒絶理由対応や無効審判での防御力に直結します。あわせて、審査官に対し「現代の分析技術の限界」を論理的に説明できるよう、意見書のロジックを構築しておくことも重要です。
侵害訴訟におけるリスク
PBPで特許取得に成功した場合でも、他社にその特許を侵害された際に、侵害の証明が難しいというリスクに留意しましょう。
他社を特許侵害で訴える場合、「相手方の製品が、自社の特許に記載されたプロセスで作られた物と『同一』であること」を原告(特許権者)が立証しなければなりません。
物同一説を前提とすると、相手方の製法が異なっても「物」が同じであれば侵害になります。もっとも、構造特定が難しいからこそPBPを用いている以上、「物が同じであること」の証明自体もまた困難です。つまり、構造が特定できないためにPBPを採用したはずが、裁判では「構造が同じであること」を証明しなければならないという矛盾を抱えることになります。
このように、PBPは「書くのは簡単だが、守るのは難しい」クレーム形式といえます。正しく使えば強力な武器になりますが、不適切な運用は権利の無効化を招く諸刃の剣であることを念頭に置きましょう。
海外におけるPBP解釈との相違
PBPの解釈は、米国や欧州では日本と異なる運用がなされています。
例えば米国では、審査段階では物同一説が採られる一方、侵害訴訟の場面では製法による限定を受ける「製法限定説」が採られるという、二本立ての解釈運用がなされています。また、欧州特許庁(EPO)では、審査ガイドラインにおいて物同一説が採用されており、PBPクレームは、構造や特性によって物を特定することができない場合に限って認められる運用となっています。
海外展開を見据えた知的財産戦略を構築するには、各国制度の違いを踏まえたうえで、現地の専門家との連携が不可欠です。
まとめ
今回は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)の基本概念と、その成立に不可欠な「不可能・非実際的事情」要件、さらに分野別の該当例や実務上の留意点についてわかりやすく解説しました。
PBPは、構造や特性による特定が困難な発明において有効な手段である一方、その適用には厳格な要件が課されており、安易な利用は拒絶や無効リスクを招きかねません。また、権利行使の場面でも、立証の困難さが伴う点に注意が必要です。このため、知的財産戦略としては、まずは物性値や構造による特定を優先しつつ、PBPはあくまで最終手段として慎重に活用することが推奨されます。
井上国際特許商標事務所では、知的財産の知見と経験が豊富な弁理士が、PBPを活用した特許出願を丁寧にサポートいたします。構造特定が困難な発明の保護をご検討の方は、ぜひ一度、ご相談ください。



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