
ソフトウェア特許は、コンピュータプログラムに関する発明を保護するものです。コンピュータープログラムは、比較的新しく、技術革新のスピードが速い分野であることから、事例の集積によってルールが確立していく途上にあります。
ここでは、隣接したシステム特許・ビジネスモデル特許との違いや、ソフトウェア特許論争に触れたうえで、ソフトウェア特許の要件の中でも「発明該当性」に焦点を当てて解説していきます。肯定例と否定例の具体的事例も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
ソフトウェア特許とは?
特許運用上の「ソフトウェア」とは
ソフトウェアとは、特許運用上「コンピュータの動作に関するプログラム、その他コンピュータによる処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの」(特許庁の特許・実用新案審査基準 第Ⅲ部第1章第6頁)と定義されています。 このようなコンピュータプログラムに関する発明を保護する仕組みが、ソフトウェア特許です。
システム特許、ビジネスモデル特許との違い
ソフトウェア特許と混同されやすいものに、「システム特許」と「ビジネスモデル特許」があります。
「ソフトウェア特許」は、ソフトウェアプログラムに関する発明と、それに準ずるもののみを対象とした特許のことを指します。
一方の「システム特許」は、「複数の要素が関係し合って機能する状態」を特許出願するものです。ソフトウェアプログラムに関する発明と、それに準ずるもののみを対象とした特許を指すソフトウェア特許に対し、「システム特許」は、複数のソフトウェアプログラム、またはソフトウェアプログラムとハードウェアが組み合わされた状態を指しています。
この「システム特許」という名称は、特許法に記載されている用語ではありません。しかし、特許出願時に提出する書類上では「~システム」といった名称をつけて手続を行います。
もうひとつの「ビジネスモデル特許」は、あるビジネスモデルを実現するために発明した、新たなソフトウェア技術などを対象とした特許のことを指します。こちらはハードウェアを含む場合もあり、システム特許の一部ということができます。
ソフトウェア特許論争
ソフトウェアは、元々はコンピュータというハードウェアを直接操作するための機械語であり、「産業の発展に役立つ技術」としての「発明」であることに疑義はありませんでした。 ところが、ソフトウェア工学の発展とともに、ソフトウェアそのものが抽象化・概念化するにつれ、特許法上の「発明」にあたるかどうかに疑義が生じるようになりました。 また、フリーソフトウェアを推進する立場からは、ソフトウェア特許はかえってソフトウェアの発展を妨げるとの主張も根強くあります。こうした立場からは、ソフトウェア特許そのものに反対する論者も少なくありません。
ソフトウェア特許のメリット・デメリット
ソフトウェア特許を取得することで、競合するソフトウェアに対する優位性が生まれます。競合のソフトウェアは、ソフトウェア特許をすでに取得している部分に関しては真似ることができないため、性能や操作性などに影響が及び、ユーザーの満足度にも影響します。
また、ソフトウェアのパッケージなどに特許を取得したことを表示できるため、ソフトウェアの独自性や他にない機能をアピールしやすくなり、購入・導入に対する訴求力となります。
一方で、特許を出願すると、出願日から1年6ヵ月経過後に出願内容が公開されることには十分注意が必要です。実際にそのソフトウェアを使用しても、特別な処理をしていることが外部からわからないような技術の場合は、特許出願をするかしないか、するならいつするのかを十分検討しましょう。
ソフトウェア特許が認められるための要件

特許法の趣旨は、産業の発展に役立つ技術を保護することです。よって、あらゆるアイデアに特許が認められるのではなく、特許法上の「発明」に該当する必要があります。 よって、ソフトウェア特許が認められるには、「発明該当性」が要件となります。また、一般的な特許登録と同様に、発明の「新規性」、「進歩性」、「先願」の要件も満たす必要があります。
これらの要件の中でも、「発明該当性」は特に問題となりやすい部分です。詳しく見ていきましょう。
「発明該当性」の判断基準とは
特許法2条1項によると、「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されています。特許庁はこの定義から外れる5類型を、以下のとおり整理しています(特許庁の特許・実用新案審査基準 第Ⅲ部より引用)。
(i) 自然法則以外の法則
(ii) 人為的な取決め
(iii) 数学上の公式
(iv) 人間の精神活動
(v) 上記(i)から(iv)までのみを利用しているもの
これらは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たらないため、「発明該当性」が否定されます。 それでは、具体的にどのような事例が「自然法則を利用した技術的思想の創作」として発明該当性を満たすのでしょうか。当たる事例と当たらない事例を比較しながら見てみましょう。
「発明該当性」の判断基準の事例を紹介
▼事例1
JavaやC言語、Pythonなどに代表されるコンピュータプログラム言語
単なるコンピュータプログラム言語は「(ii) 人為的な取決め」にすぎないため、発明該当性が否定されます。
▼事例2
数式y=F(x)において、a≦x≦bの範囲のyの最小値を求めるコンピュータ
数式を用いた特有の演算又は加工を実現するための具体的手段又は具体的手順が示されていない以上、「(iii) 数学上の公式」にすぎないため、発明該当性が否定されます。
▼事例3-a
遊戯者ごとに n×n 個(n は 3 以上の奇数)の数字が書かれたカードを配付し、各遊戯者が自己のカードに、コンピュータによる抽選で選択された数字があればチェックを行い、縦、横、斜めのいずれか一列の数字についていち早くチェックを行った遊戯者を勝者とする遊戯方法
「コンピュータによる抽選」という技術的手段を利用しているものの、全体として見ると単なるゲームのルール。「(ii) 人為的な取決め」にすぎないため、発明該当性が否定されます。
▼事例3-b
サイコロに乱数を発生させるプログラムを、スマートフォンで実行させて、特定の目が揃えばその者にレアキャラクタのデータを付与するという制御方法
「サイコロの特定の目が揃えばレアキャラクターのデータを付与する」だけであれば、「(ii) 人為的な取決め」にすぎません。 もっとも、「サイコロに乱数を発生させるプログラム(ソフトウェア)を、スマートフォン(ハードウェア)を介して実行させてデータを付与する制御方法」なので、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たります。よって、「発明該当性」が認められます。 ちなみにこのケースは、「ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」場合に認められる「ソフトウェア関連発明」の一例です。
▼事例4-a
文書データを入力する入力手段、それを処理する処理手段、処理済みのデータを出力する出力手段を備えたコンピュータにおいて、上記処理手段によって入力された文書の要約を作成するコンピュータ
要約作成を目的とした演算又は加工を実現するための「具体的手段又は具体的手順」が特定されていないため、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たりません。よって、発明該当性が否定されます。
▼事例4-b
複数の文書から成る文書群のうち、特定のひとつの文書の要約を作成するコンピュータ
このケースでは、要約を作成するための文書解析の方法や文重要度の算出方法、選択した文を配して要約を作成する仕組みなど、具体的手段又は具体的手順が特定されています。 このため、「ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置を構築するものといえる」と評価され、発明該当性が認められます。 この事例も、「ソフトウェア関連発明」の一例です。
ソフトウェア特許取得の流れ・費用
ソフトウェア特許の出願から取得までの流れや費用は、それ以外の特許と同じです。こちらのページで詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。
まとめ
ソフトウェア特許は、一般的な特許に比べて「発明該当性」の判断が厳しい傾向にあります。また、「進歩性」や「新規性」の要件も備えておく必要があります。
さらに、特許は「先願」つまり早い者勝ちなので、いち早く出願したいところです。迅速な特許出願とスムーズな登録を目指すには、専門的な知識に基づく調査と適切な出願書類作成のノウハウが欠かせません。
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