
2024年4月1日から、日本でも「商標コンセント制度」が導入されました。商標コンセント制度は、既存商標に類似する商標の商標登録を実現するために新設された制度です。
本記事では、商標コンセント制度の導入背景から、手続きの流れ、制度利用後の注意点までを一挙に解説します。
商標コンセント制度導入の背景
商標コンセント制度が導入される以前は、類似する商標が存在する場合、たとえ商標権者から使用の許諾を得ていたとしても、原則として商標登録は受けられませんでした。
これは、先に登録されている商標と同一又は類似する商標については、商標法が登録を禁止しているためです(商標法第4条第1項第11号)。そのため、たとえ商標権者から使用許諾を得ていても、類似商標の商標出願が拒絶されてしまう実態がありました。
このような状況下では、事業者は商標権者との間で商標の使用許諾契約を締結して商標を使用することはできても、商標権者となることはできませんでした。これは、商標を使用したい事業者にとってブランド保護の障壁となるものであり、商標使用の安定性の観点からも課題でした。
また、商標権者にとっても、使用許諾を与えた商標が、許諾を与えていない第三者によって不正に使用されるリスクを排除しきれないという問題がありました。
そこで、これらの問題を解決するとともに、海外諸国・地域と足並みを揃えるべく、日本でも、登録商標権者の同意(=コンセント)があれば商標の併存登録を認める商標コンセント制度が導入されました。
商標コンセント制度とは?
商標コンセント制度とは、既に登録されている商標の権利者(商標権者)から、新たに商標登録出願をしようとする者に対して商標の使用についての同意がある場合、その商標が既存商標と類似していても商標登録を認める制度です。
つまり、既存の商標と類似する商標であっても、商標権者から承諾を得られれば、商標登録できる道が開かれたのです。
具体的には、既存商標と類似する商標について出願した際、審査官から「既存の登録商標と類似している」という理由で拒絶理由通知を受けた場合、商標コンセント制度を利用することで拒絶理由を解消し、登録へと進める余地が生まれます。
商標コンセント制度の手続きの流れ
ここでは、商標コンセント制度の手続きの流れを紹介します。
1.事前交渉
まずは、既存の商標権者に対して、商標の使用許諾を求める交渉を行います。この段階で、使用範囲や条件、対価などについて綿密に協議することが重要です。
2.コンセント契約の締結
交渉が成立したら、商標権者との間でコンセント契約を締結します。契約書には、商標の使用範囲、期間、対価、違反時の措置など、詳細な内容を明記する必要があります。
3.特許庁に商標登録を出願
特許庁に商標登録を出願します。
4.拒絶事由通知書の受領
特許庁の審査において、商標法第4条第1項第11号に該当することが確認され、これを理由とする「拒絶事由通知書」が出されます。
5.拒絶事由の解消(コンセント契約書の提出)
拒絶事由通知書を受領した後、拒絶事由を解消するために、所定の書類を特許庁へ提出します。
提出書類によって「先行商標権者の同意」と「出所混同のおそれがないこと」を示す必要があり、②で締結したコンセント契約書も含まれます。
6.特許庁による査定
特許庁は、提出されたコンセント契約書などの内容を確認し、商標登録の可否を判断します。
商標コンセント制度利用後の注意点
商標コンセント制度によって類似する商標が登録されることで、既存商標と類似商標とが混同される懸念がありました。
そこで、商標法では混同防止を目的として、「混同防止表示請求」(商標法第24条の4第1号及び第2号)と「不正使用取消審判」(同第52条の2第1項)の制度を設けています。
ここでは、これらの制度を踏まえた上で、商標コンセント制度利用後の注意点について解説します。
混同防止表示請求
商標コンセント制度の利用があった場合は、既存商標の商標権者(先行商標権者)と新たに類似商標を登録した後行商標権者のどちらであっても、混同防止表示請求をすることができます。
混同防止表示請求とは、一方の権利者の使用によって他の権利者の「業務上の利益が害されるおそれ」のあるときは、その使用について両商標間における「混同を防ぐのに適当な表示を付すべきこと」(混同防止表示)を請求できる制度です。
商標コンセント制度利用後には、先行商標権者および後行商標権者のいずれも、お互いの業務上の利益を害する商標使用をしないよう注意した上で、混同防止表示請求を受けた場合には適切に対処する必要があります。
不正使用取消審判請求
不正使用取消審判請求とは、先行商標権者と後行商標権者との間で一方の権利者が「不正競争の目的」で他方の権利者の「業務に係る商品又は役務と混同を生ずる」商標の使用を行ったときは、「何人も」その商標登録を取り消すことについて審判を請求できる制度です。
不正使用取消審判請求は、商標権者以外の第三者であっても請求することができます。
商標コンセント制度の利用によって類似商標の利用が認められたとしても、不正競争目的での商標使用が禁じられていることに変わりありません。不正競争目的とみなされない範囲で商標使用するよう、注意しましょう。
契約内容の順守
商標法上の制度に関する注意点だけでなく、当然ながら、先行商標権者との間で締結したコンセント契約の内容も順守しなくてはなりません。契約で定められた使用範囲、期間、対価などの遵守事項に違反した場合、契約解除となる可能性があります。
まとめ
商標コンセント制度は、既存の商標と類似する商標を登録する上で、拒絶理由通知に対してスムーズに対応しやすい便利な制度です。また、既に使用している商標や使用を予定している商標をそのまま登録できるため、ブランド戦略をスムーズに進めることができます。
一方で、手続きや注意点などをしっかりと理解した上で、先行商標権者との交渉・合意を経て進めなければ、トラブルを招きかねません。交渉段階から専門家に相談しながら、効果的に商標戦略を立てることをおすすめします。
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