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大学発ベンチャーの知財戦略|立案からVCとの関係性までを解説

  • 執筆者の写真: Eisuke Kurashima
    Eisuke Kurashima
  • 10月3日
  • 読了時間: 11分
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大学の研究成果や技術シーズを基に設立される大学発ベンチャー。その多くは、革新的な技術を核としています。


今回は、大学発ベンチャーが知財戦略をどのように構築・推進していくべきか、課題を踏まえて解説します。知財戦略の立案からベンチャーキャピタル(VC)との関係性まで、幅広い範囲を扱っていますので、ぜひ最後までお読みください。



大学発ベンチャーとは


大学発ベンチャーとは、大学の研究成果や技術・ノウハウ・アイデアの種(技術シーズ)を基盤として設立された企業のことです。これらの企業は、大学の研究室で生まれたアイデアを社会実装し、ビジネスへとつなげる重要な役割を担っています。


大学発ベンチャーには、以下のような特徴が見られます。


  • 技術的優位性: 大学の研究室で生まれた革新的な技術や未踏の分野を開拓するシーズを保有している。

  • 研究開発志向: 設立当初から最先端の研究開発に注力する傾向がある。

  • アカデミアとの連携: 大学との共同研究や技術指導など、継続的な連携関係を有している。

  • 初期段階での資金調達の必要性: 製品開発や市場開拓に多額の資金が必要となるケースが多く、外部からの投資が重要視される。



大学発ベンチャーに知財戦略が必要な理由


大学発ベンチャーに知財戦略が必要な理由としては、次のような要因が挙げられます。


技術競争の激化

国内外で高度な技術開発が進んでいる昨今、市場投入までのスピードも加速しています。競合優位性を維持するには、他社と差別化できる技術を知財戦略で保護することが求められます。


資金調達のハードル

VCをはじめとする投資家は、投資先の事業の将来性や成長性を判断するうえで、対象企業が有する知的財産を重要な評価指標としています。優れた知財戦略は、投資家からの信頼獲得につながり、資金調達を有利に進めるための鍵となります。


事業の持続可能性

強力な知的財産は、市場における模倣を防ぎ、独占的な地位確立を可能にします。これにより、事業の長期的な安定性と収益性を確保しやすくなります。



大学発ベンチャーにおける知財戦略の現状と課題


大学発ベンチャーは、その成長過程で知財戦略に関する次のような課題に直面します。


技術シーズ先行で事業計画が未成熟

大学発ベンチャーにおいては、革新的な技術シーズが先行し、その後の事業計画の策定が追いついていないケースが多く見られます。このため、ターゲット市場や収益モデルが未確定のまま知的財産権の確保に向けた手続きだけが進んでしまうことがあります。


しかし、例えば優れた技術の特許を取得したとしても、それが市場のニーズと合致しなかったり事業化までの道のりがあやふやだったりすると、事業性との間に乖離が生じてしまいます。事業計画に紐づかない特許取得は、貴重な時間とコストの無駄にもつながります。


知財に関する専門知識・人材の不足

大学発ベンチャーの創業メンバーの多くは、技術開発者です。このため、知財に関する専門知識不足や人材不足が課題となります。


知財の知見が不足していると、以下のような状況に陥ってしまいます。


  • 権利化の遅れ・見落とし: 重要な技術シーズの権利化を逃したり、権利範囲が狭くなったりする可能性が高まる。

  • 戦略性の欠如: 特許取得が目的化し、事業戦略との整合性や優位性が失われるリスクがある。

  • 活用機会の損失: ノウハウや営業秘密を含む知的財産を包括的に把握し、活用することが難しくなる。


こうした状況を克服するには、弁理士などの知財の専門家を早い段階から活用し、チーム内での知財リテラシーを高める必要があります。


大学との連携における権利関係の複雑さ

大学発ベンチャーにとって、大学との連携は貴重な技術シーズの獲得や研究開発の加速に不可欠な要素です。一方で、連携によって知財に関する権利関係の整理が複雑化することで、次のような課題が生じるおそれがあります。


  • 権利帰属の不明確さ: 大学の研究者が開発した技術を基に創業した場合、その技術に関する権利が大学と個人(起業家)のどちらに帰属するのか、あるいは共同で保有するかなどが明らかでない。

  • 共同研究契約・ライセンス契約の複雑さ: 大学との共同研究や、大学が保有する特許の利用許諾を受ける際、特許の使用許諾範囲、実施料(ロイヤリティ)の算定方法、将来的な権利の移転など、複雑な調整と交渉が求められる。

  • 大学側の制度・手続き: 大学によっては、知的財産に関する独自のポリシーや手続きが定められているため、これらを理解し遵守する必要がある。


大学や関係当事者との権利関係の整理が曖昧なまま事業を進めると、将来的な資金調達や事業展開において大きな障害となります。このため、創業の初期段階から大学との間で知財に関する権利関係を明確化し、円滑な連携体制を構築しておくことが重要です。


「特許に頼りすぎる」リスク

大学発ベンチャーの知財戦略において、特許取得が先行しすぎると、かえって事業成長の足かせとなることもあります。特許は強力な権利ですが、その取得・維持にはコストがかかります。また、特許権が侵害された場合の差止請求や損害賠償請求は、リソースの限られるベンチャー企業にとって大きな負担となり得ます。


さらに、特許は公開される情報であるため、競合他社に技術の概要を知られるリスクも伴います。この公開情報が、競合他社の模倣や回避策の開発を促す可能性も否定できません。


したがって、特許だけでなく、ノウハウや営業秘密といった他の知的財産権とのバランスを考慮し、事業戦略全体の中で最適な知財ポートフォリオを構築することが重要です。



効果的な知財戦略を構築するためのステップ

大学発ベンチャーが課題を克服し、事業を成長させるには、効果的な知財戦略の構築が欠かせません。ここでは、目的の明確化・目標設定から推進体制づくりまで、知財戦略構築の具体的なステップを紹介します。


知財戦略の目的の明確化と目標設定

まずは、知財戦略の目的と目標を明確に設定することが重要です。これは、単に特許を取得するのではなく、事業戦略との整合性を図り、競合優位性を確立し、さらには資金調達にも貢献するような、より包括的な視点で行う必要があります。


以下の3つの観点から目的を明確化し、目標を設定しましょう。


  • 事業戦略との整合性: 自社のコア技術や製品開発までのロードマップと知財戦略を密接に連携させる。将来の事業展開を見据え、どのような技術領域を権利化すべきか、優先順位を明確にする。

  • 競合優位性の確立: 競合他社との差別化を図り、市場における優位性を確保するための戦略を立案するとともに、模倣困難な技術を保護し参入障壁を高める。

  • 資金調達への貢献: VCをはじめとする投資家に対して、事業の将来性や成長性をアピールする材料を確保する。強力な知財ポートフォリオは、投資判断における重要な評価項目となる。


知財ポートフォリオの構築

効果的な知財戦略を実践するためには、自社の知的財産権の集まりを経営戦略や事業戦略に合わせて計画的に管理・活用する「知財ポートフォリオ」が重要です。


まずは、保有する技術シーズの事業への貢献度や市場における優位性を客観的に評価し、権利化すべき技術とそうでない技術の優先順位を明確化しましょう。


その上で、特許権だけでなく、ノウハウや営業秘密といったさまざまな知財の特性を理解し、それぞれの強みを活かせるよう戦略的に使い分けることが求められます。例えば、模倣可能性のある技術は特許で権利化する一方で、ノウハウとして秘匿すべき技術は別途管理するといった工夫が考えられます。


さらに、競合他社の技術動向を常に分析し、自社の技術が市場においてどのようなポジションにあるのかを把握することも重要です。これにより、自社の強みを最大限に活かし、弱みを補うための知財戦略を練ることができます。


大学との知財権利関係の円滑な整理

大学発ベンチャーにとって、大学との知財権利関係を早い段階で整理しておくことは、良好な関係を維持し、事業化を円滑に進めるうえできわめて重要なプロセスです。


具体的には、共同研究契約やライセンス契約の締結が挙げられます。契約締結の際には、事前に契約内容を十分に確認し、技術移転や将来的な事業展開を見据えた条項(実施権の範囲、独占性、対価など)を盛り込みましょう。


また、大学の研究者が開発に関与する場合の知的財産権の帰属についても明確化する必要があります。例えば、特許を受ける権利が大学に帰属するのか、それともベンチャー企業が譲り受けるのか、あるいは共有するのかといった権利帰属を明確に定めておくことで、後々の権利侵害リスクやライセンス交渉の複雑化を防げます。


知財戦略を推進する体制づくり

知財戦略を着実に実行・推進していくための体制づくりも不可欠です。とくに、リソースが限られる大学発ベンチャーにおいては、戦略の実行力が事業の成否を左右すると言っても過言ではありません。


知財戦略の推進体制づくりには、大きく分けて以下の二つのアプローチが考えられます。


ひとつは、専任担当者を配置する体制です。社内に知財に関する専門知識を持つ人材を配置することで、知財戦略の企画立案から権利申請、管理、活用まで一気通貫で行うことができます。


または、外部専門家を活用する体制も考えられます。弁理士などの外部専門家と連携することで、専門的な知見やノウハウを効率的に取り入れられます。とくに初期段階では、外部リソースを効果的に活用する方がコストパフォーマンスに優れる場合もあります。


いずれのアプローチを選択するにしても、チーム全体で知財に対するリテラシーを高めることが重要です。経営層はもちろん、研究開発担当者や営業担当者も、自社の知財の価値や活用方法を理解することで、戦略が浸透しやすくなります。



知財戦略とベンチャーキャピタル(VC)との関係性

最後に、知財戦略とVCとの関係性にも触れておきましょう。


VCが知財戦略を重視する理由

VCが大学発ベンチャーの知財戦略を重視するのは、投資対象としてのリスク評価と事業の持続可能性・成長性を判断するうえで、極めて重要な要素であるためです。


VCは、投資した資金が将来的に大きなリターンを生み出す可能性のある企業を見極める必要があります。その際、強固な知財戦略は魅力的な判断材料となります。


まず、知的財産権は競合他社による技術の模倣を法的に排除する強力な障壁となるため、大学発ベンチャーが市場において独自のポジションを確立し、競争優位性を維持できる可能性が高まります。


また、明確な知財戦略は、技術シーズが単なる研究段階で終わらず、事業として収益化され、持続的に成長していくための基盤となります。VCは、この基盤の強さを見て、将来的な事業のスケールアップや成長可能性を評価します。


さらには、将来的なIPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)といった出口戦略においても、保有する知的財産は企業の価値を大きく左右します。VCは、知財ポートフォリオの質と量から、将来的な企業価値を算定する材料とします。


このように、知財戦略は、大学発ベンチャーの「技術」そのものだけでなく、「事業」としての価値をVCに伝える重要な要素と言えます。


VCへのピッチにおける知財戦略の効果的な伝え方

大学発ベンチャーの技術の独自性・優位性を明確に示すことは、投資判断を左右する極めて重要な要素となります。VCへのピッチにおいては、技術の内容や革新性を説明するだけでなく、競合との比較、優位性の源泉、市場におけるインパクト、収益化への道筋などを、客観的なデータや具体的根拠に基づき、分かりやすく伝えましょう。


競合との比較においては、既存技術や競合他社の技術と比較し、自社技術がどのように優れているのかを具体的に説明します。優位性の説明では、その優位性が、特許権、独自のノウハウ、あるいは開発チームの専門性など、どこに由来するのかを明確に伝えましょう。


市場におけるインパクトに関しては、その独自性・優位性が将来的にどのような市場での優位性につながり、顧客にとってどのような価値を提供するのかを具体的に示します。そして、知財戦略がどのような事業収益に貢献するか、具体的なビジネスモデルと紐づけながら、収益化への道筋を示しましょう。ライセンス収入、付加価値製品の提供、M&Aにおける技術評価額の向上など、具体的な収益化への手段も挙げられるとよいでしょう。



まとめ

大学発ベンチャーにとって、知財戦略は単なる権利保護にとどまらず、事業成長の基盤を築くための重要な経営資源です。技術シーズを市場につなげ、資金調達や競争優位性の確立につなげるには、早期から戦略的に取り組む必要があります。


また、大学をはじめとする関係者との知財関係の整理や交渉も不可避です。このため、優れた技術をスムーズに事業へとつなげるためには、知財戦略を含めた知的財産の知見が欠かせません。


井上国際特許商標事務所には、知的財産権に関する知見が豊富な弁理士が所属しています。大学発ベンチャーの知的財産戦略にお悩みの方は、ぜひご相談ください。


 
 
 
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