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AIと著作権 Part2. AI生成物に他者の著作物を使用できるのか

「AIと著作権 Part1. 生成AIの開発と著作権の関係」では、AIの開発段階に生じる著作権法上の問題について解説しました。


今回は、AIの学習済モデルに既存著作物をデータとして入力する行為や、既存著作物から生成したAI生成物をさらに複製して販売する行為など、AI生成物の「生成・利用」段階に焦点を絞って解説します。



AI生成物の生成・利用段階で生じる著作権問題

AI生成物は、AIの学習済みモデルを搭載した推論用プログラムに追加データを入力することで生成されます。このAI生成物の生成過程で、まずは既存著作物をサーバーに保存することが、著作権法上の「複製」にあたるのではないか、ということが問題となります。


次に、AI生成物の利用段階において、既存著作物のデータを入力して作られたAI生成物をウェブ上にアップロードする行為、そして複製物を販売する行為が、それぞれ既存著作物の「公衆送信」と「譲渡」にあたるのではないか、ということが問題となります。



AI生成物の生成・利用が著作権侵害となるか

私的観賞用の複製行為については、著作権法30条1項の「権利制限規定」が適用されます。したがって、私的利用目的で既存著作物をサーバーに保存する行為は著作権侵害にはなりません。


既存著作物を使って作られたAI生成物のアップロードや、生成物の複製物の販売行為が著作権侵害となるかどうかは、AI生成物か否かに関わらず、一般的な著作権侵害の要件を満たすかどうかで判断されます。


そこで、まずは著作権侵害の要件について見ていきましょう。



著作権侵害の要件

前提として、既存著作物が著作権法上で保護される「著作物」に該当する必要があります。


また、著作権法が適用されるのは、著作物の利用が「支分権」で保護される利用形態、すなわち「複製」「公衆送信」「譲渡」といった形態でなされている場合に限られます。さらに、著作権法30条1項の権利制限規定が適用されないことも条件となっています。※著作権法で保護される「著作物」及び利用形態については、「AI生成物と著作権 その1」に詳述。

その上で著作権を「侵害」しているというには、「類似性」と「依拠性」が要件となります。



類似性

類似性とは、平たく言うと「既存の著作物と同一ないし似ていること」です。裁判例によると、類似性の判断基準は「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」とされています。


なお、「類似性」が認められるには、創作的表現の部分が共通していなくてはなりません。単なるアイデアなどの「表現ではない」部分や「創作性がない」部分が似ているだけでは、類似性は否定されます。


依拠性

依拠性とは、「既存の著作物を参考に作品が創られたこと」です。したがって、既存の著作物の存在を知らない者が創作した作品がたまたま既存の著作物と同一ないし類似していたような場合は、「依拠性」要件を欠き、著作権侵害にはなりません。


文化庁の資料によれば、AIと依拠性要件に関して次のような事項が検討されています。


  • AI利用者が既存の著作物を認識しており、AIを利用してこれに類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められると考えてよいのではないか。

  •  AI利用者が、Image to Image (i2i)で既存著作物を入力した場合は、依拠性が認められると考えてよいのではないか。

  • 特定のクリエイターの作品を集中的に学習させたAIを用いた場合と、そのような集中的な学習を行っていないAIを用いた場合とで、依拠性の考え方に違いは生じるか。



実際にどのようなAI生成物に「依拠性」が認められるかは、未だ判例・裁判例の集積を待っている状況です。依拠性も類似性も、一般的に著作権侵害をめぐる訴訟で主要な争点になりやすい要件ですので、AIを使わずに作られた著作物に関しては判例や裁判例が豊富に蓄積されています。参考にしてみてください。



著作権侵害が認められた場合のリスク

類似性も依拠性も認められる場合は、著作権侵害にあたるとして著作権者から損害賠償請求や差止請求されるおそれがあります。


また、故意で(著作権侵害にあたることを知りながら)生成物を生成・利用した場合は、刑事告訴されるリスクもあります。



まとめ

AI生成物に他者の著作物を利用する際には、まず著作権法上の支分権で保護される利用形態にあたるかどうか、かつ権利制限規定が適用される利用行為かどうかを確認しましょう。支分権に該当する利用形態で権利制限規定の適用もない場合は、「類似性」及び「依拠性」が認められるかどうかを検討します。


万が一、生成物が著作権侵害にあたる場合は、コンテンツの削除要請や配信停止、複製物の販売停止や在庫破棄、場合によっては刑事罰を受けるおそれもあります。トラブルを回避するためにも、AI生成物を生成・利用する際には著作権に関する一定程度の知識を押さえておきましょう。


井上国際特許商標事務所には、著作権に関する知見が豊富な弁理士が所属しています。AI生成物に関する著作権問題にお悩みの方は、ぜひご相談ください。


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