部分意匠制度とは、物品の一部の意匠を保護する制度です。通常、意匠権は物品全体のデザインに認められる権利ですが、例外的に物品の一部のデザインも意匠権として保護されます。
ここでは、部分意匠の意味や具体例、全体意匠との違いを例や図面をあげながら説明するとともに、部分意匠が認められた場合のメリット、そして注意点について解説します。
部分意匠(部分意匠制度)とは?
部分意匠とは、全体ではなく、物品の一部のデザインのことを指します。
意匠権は、原則として物品全体のデザインにつき認められる権利となっています。
(意匠権についてはこちらの記事をご参照ください)
これは「全体意匠」と呼ばれますが、それとは別に、物品の一部のデザインを保護するための精度が平成10年の意匠法改正で導入されました。これを「部分意匠制度」と呼びます。
部分意匠の示し方
意匠登録の図面において、通常、全体意匠は実線で示されます。
一方、部分意匠は権利保護の対象となる意匠部分のみが実線となり、それ以外は破線で示します。次の冷蔵庫の例でいうと、実線で示された引き出し式のドアの上部が部分意匠です。
冷蔵庫の部分意匠:【意匠登録第1736431号】
出典:J-PlatPat
部分意匠制度が設けられた趣旨
部分意匠が認められるようになった理由は、物品の一部に施された特徴的なデザインを保護するためです。
例えば、アップルウォッチの画面枠は、一目でアップルウォッチと分かる特徴的な形状をしています。
しかし、仮に部分意匠制度がなかったとすると、他社がアップルウォッチの特徴的な画面枠を模倣しながら、画面やバンドのデザインを少し変えたような時計を製造・販売しても、「物品全体に類似性が認められない」となり、意匠権侵害にはあたらない可能性が高くなります。
結果的に、独創的で特徴あるアップルウォッチを真似た模倣品を製造・販売しておきながら、意匠権侵害を回避できる事態が発生してしまうのです。
こうした事態を防ぐために、部分意匠制度が設けられました。
また、デザイン開発では、全体のデザインを踏襲しながら一部のデザインを変更してブラッシュアップしたり、新製品のデザインを考案したりといったことが頻繁に行われます。このため、登録済みの全体意匠に変化はなくとも、部分的に特徴的なデザインを新たに登録したいという要請がありました。部分意匠制度は、このようなデザイン開発の実情にも適したものです。
画面デザインも部分意匠による保護の対象に
平成10年改正で部分意匠制度が導入されたことで、例えばデジタル時計の時刻表示画面など、物品の表示画面のデザインも意匠権で保護できるようになりました。
さらに、平成18年に行われた改正では、画面デザインのうち「物品がその本来的な機能を発揮できる状態にする際に必要とされる操作に使用されるもの」についても、部分意匠として登録できるようになりました。
保護対象はその後さらに拡大され、現在は、「機器の操作画面や機器の機能を発揮した結果として表示される表示画面」であれば、「物品に表示されない画像」や「物品に記録されていない画像」も保護対象に含まれます。
画面デザインの例:スマホなどの端末に表示される画面デザイン(勤怠管理機能付き電子計算機)【意匠登録第1592924号】
出典:J-PlatPat
画面デザインの意匠登録についてはこちらのページも合わせてご覧ください
部分意匠と全体意匠の違いとは?
要件の違い
部分意匠として意匠権が認められるには、「新規性」や「創作非容易性」といった全体意匠の要件に加えて、次のような要件をみたす必要があります。
部分意匠の意匠に係る物品が、意匠法の対象となる物品であること
物品全体のなかで一定の範囲を占める部分の形態であること
当該物品において、他の意匠と対比する際に対比の対象となり得る部分であること
図面の表示方法の違い
意匠出願の際に提出する出願書類には、意匠権の範囲を特定するための図面が含まれます。先述のとおり、全体意匠の図面は全体が実線で描かれますが、部分意匠の図面は、権利保護を求めるデザイン部分のみ実線で描かれ、他は破線で描かれます。
部分意匠を出願するときには、この点をふまえて図面を作成しなければなりません。登録完了後の意匠公報に掲載される図面においても同様に、実線と破線で示されます。
保護される権利の範囲
全体意匠と部分意匠は、保護対象となる権利の範囲が異なります。
全体意匠は製品全体のデザインが模倣されている場合に権利侵害が認められますが、部分意匠は、図面上実線で示されている部分のデザインが模倣されている場合にのみ権利侵害が認められます。
例えば、下のゲームコントローラーの意匠登録は、十字や円形のボタンが破線で示されており、外枠は実線で示されています。これは、外枠のデザインのみを保護対象とする部分意匠です。
ゲームコントローラーの部分意匠【意匠登録第1559201号】
出典:J-PlatPat
このケースでは、もし、他社が四角形や三角形のボタンの付いた類似のコントローラーを販売した場合、全体意匠ならボタン部分が異なることから類似性が認められず、権利侵害はないと判断されるかもしれません。しかし、このような部分意匠の意匠登録をしておくことで、外側部分のデザインの模倣がありさえすれば、意匠権に基づく損害賠償請求や差止請求をすることができるのです。
全体のデザインが模倣されている場合にのみ権利侵害が認められる全体意匠と比べて、部分意匠は、権利侵害が認められる範囲が広く、より強力に権利保護できる傾向にあります。
部分意匠のメリットと注意点
部分意匠のメリットは権利行使できる範囲が広がること
これまで解説したとおり、全体意匠では類似性が認められなくとも部分意匠なら類似性が認められるケースも多く、意匠権侵害として権利行使できる範囲が広がるというメリットがあります。
また、「部分意匠制度の趣旨」で解説したように、一部のデザインを模倣しながら巧妙に意匠権侵害を回避する手口を防ぎ、独創的な部分のデザインを保護できることも、大きなメリットです。
登録や権利行使に全体意匠と異なる難しさもある
一方で、部分意匠はすでに類似のデザインが意匠登録されているケースが多く、全体意匠の場合と比べて意匠登録が認められにくい傾向にあります。
また、部分意匠とはいえ、あくまで製品を構成する一部分のデザインを保護するものなので、侵害があるか否かの判断においては、全体意匠の中での部分意匠の位置関係や大きさなどが考慮されます。そのため、他社製品の一部が自社の部分意匠に酷似していても、その部分意匠の全体における位置関係やサイズ感が大きく異なっているような場合は、権利侵害が認定されない可能性があります。
このように、部分意匠には、登録から権利行使にいたるまで、全体意匠とは異なるハードルがあるため注意が必要です。
まとめ
部分意匠を適切に活用することで、全体意匠のみの場合よりも手厚くデザインを保護できます。ただし、部分意匠の登録ないし権利行使のいずれの場面でも、効果的に活用するには専門的な知見とノウハウが必要です。どの部分を部分意匠として出願すべきか、どのような侵害を想定してデザインを保護したいかなど、専門家のアドバイスも踏まえて判断しましょう。
井上国際特許商標事務所では、部分意匠に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
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