「訂正審判」とは?特許の無効を防ぐために権利範囲を減縮する防御策

特許登録後に、第三者から特許の効力を争われたり、侵害警告のカウンターとして無効を主張されたりすることがあります。そんなとき、特許権者が特許無効に対する防御策として役立つ手続きが、「訂正審判」です。
ここでは、訂正審判の意義から手続きの流れ、実務上の注意点までを紹介します。
「訂正審判」の意義
訂正審判とは
訂正審判とは、すでに登録された特許の明細書、特許請求の範囲、図面について訂正を求める審判です。特許法126条1項本文に「特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる」と規定されています。
目的
この条文では、同項ただし書きにおいて訂正の「目的」が次の4つに限定されています。
特許請求の範囲の減縮(権利範囲の減縮)
誤記又は誤訳の訂正
明瞭でない記載の釈明
他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(請求項間の引用関係の解消)
これらの目的のうち、特に①の「特許請求の範囲の減縮」は、特許権者にとって「特許無効の回避策」としての機能を有しています。
特許無効のリスクと特許権者が取り得る防御策
特許無効のリスク
第三者による特許無効審判の請求や特許異議の申立て、または特許権侵害訴訟における特許無効の抗弁(特許法104条の3)を受けると、せっかく取得した特許権が遡って消滅するリスクが生じます。
例えば、第三者が先行技術文献を見つけて特許の効力を争った場合、新規性や進歩性の欠如を理由に特許が無効とされるおそれがあります。
特許権者が取り得る防御策
このような場合、特許権者は次のような防御策を取ることが考えられます。
無効審判の手続き内で「訂正の請求」を行う(無効審判が係属している場合)
特許庁に「訂正審判」を請求する(無効審判が係属していない場合)
どちらの手続きも、明細書や特許請求の範囲を修正して先行技術との差別化を図り、無効理由を解消する狙いがあります(本記事では後者の「訂正審判」に焦点を絞っています)。
権利範囲の減縮が無効回避につながる理由
では、なぜ訂正審判で権利範囲を減縮することが無効回避につながるのでしょうか。
一般的に、特許無効を主張しようとする第三者は、「請求項に記載された発明が先行技術に含まれている」(=新規性や進歩性の欠如)と主張することが考えられます。
これに対して特許権者は、請求項に新たな限定要素を加えて権利範囲を減縮することで、先行技術との差異を明確にすることができます。具体的には、請求項の下位概念化や構成要件の付加などが考えられます。これにより、無効理由を解消できる余地がうまれ、特許全体の無効化を回避できる可能性が開かれます。
訂正審判の請求条件と手続きの流れ
訂正審判を請求できる人
請求人は特許権者のみです(特許法126条1項)。共有特許の場合は、共有者全員が共同して請求する必要があります(特許法132条3項)。また、専用実施権者または質権者がある場合は、これらの者の承諾を得た場合に限り訂正審判を請求できます(特許法127条)。
訂正審判を請求できる時期
訂正審判を請求できるのは、特許権の設定登録後です。特許権が消滅した後であっても、一定の場合には請求できます。ただし、特許が取消決定によって取り消された後や、特許無効審判によって無効にされた後は、請求できません(特許法126条8項)。
特許無効審判が特許庁に係属した時から、その審決が確定するまでの間は、訂正審判を請求できません。無効審判の係属中に特許を訂正したい場合は、無効審判の手続内で「訂正の請求」を行います。特許異議の申立てが係属している場合も同様です。
審判合議体による審理
訂正審判が請求されると、特許庁の審判合議体が、請求された訂正が特許法126条の要件を満たしているかを審理します。審判合議体は、審判請求書やこれに添付された訂正後の明細書、特許請求の範囲、図面をもとに審理します。
具体的には、訂正の目的が特許法126条1項但し書きの法定事項に該当するか、訂正によって新規事項を導入していないか、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないかなど、訂正の適否が判断されます。
このとき、権利範囲の減縮または誤記・誤訳の訂正を目的とする場合は、訂正後の請求項に係る発明について新規性・進歩性などの特許要件を満たしているかどうか(独立特許要件)が厳しく審理されます。
訂正拒絶理由がある場合
①訂正拒絶理由通知
訂正が要件を満たしていないと判断された場合には、審判長から請求人に対して訂正拒絶理由通知が行われます(特許法165条)。
この通知では、例えば「請求された訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない」「訂正が実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものである」といった理由が示されます。請求人には、これに対して意見を述べる機会が与えられます。
②意見書・手続補正書の提出
訂正拒絶理由通知を受けた場合、請求人は、指定された期間内に意見書を提出して、訂正が適法であることを主張できます。
また、一定の範囲で訂正内容を補正することも可能です。ただし、訂正審判では請求書の要旨を変更するような補正は認められません。
例えば、当初の請求にはなかった新たな訂正事項を追加したり、当初と異なる訂正事項に置き換えたりする補正は、原則として認められません。一方、訂正事項の一部を削除するなど、請求の範囲を減縮する方向での補正は、要旨を変更しない補正として認められる場合があります。
③再審理
意見書や手続補正書が提出されると、合議体はその内容を踏まえて、訂正が要件を満たしているかを改めて審理します。
審決(訂正認容/訂正不認容)
審理の結果、訂正が適法であると認められれば、訂正を認める旨の審決(訂正認容審決)がされます。一方、訂正要件を満たさないと判断された場合には、訂正を認めない旨の審決(訂正不認容審決)がされます。
審決の確定・訂正の効力発生
訂正を認める審決が確定すると、訂正後の明細書、特許請求の範囲または図面によって特許出願、出願公開、特許査定・審決および特許権の設定登録がされたものとみなされます(特許法128条)。すなわち、訂正審判によって認められた訂正は、単に将来に向かって内容を変更するものではなく、原則として特許の成立時にさかのぼって効力を持つ点が重要です。
実務上の注意点
訂正審判によって権利範囲を減縮する際には、以下の3点に注意が必要です。
新規事項の追加禁止:願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなければなりません。
実質的な拡張・変更の禁止: 訂正によって元の権利範囲を実質的に拡張したり、別の発明に変えたりすることは認められません。
侵害立証とのバランス: 権利を絞り込みすぎると、係争相手の対象製品・サービスが減縮後の権利範囲から外れてしまい、権利侵害を問えなくなるリスクがあります。
訂正審判を活用する際は、これらの制限とのバランスを考慮したうえで、戦略的に特許の効力維持を図りましょう。
まとめ
自社の特許が無効化されるリスクを最小限に抑えるには、第三者から特許無効を指摘される前に予めその有効性を検証しておくことが重要です。
強固な先行技術が存在するような場合は、無効審判が係属する前の段階で、訂正審判を活用して特許請求の範囲を適切に減縮・訂正し、盤石な権利状態を整えておきましょう。
井上国際特許商標事務所では、経験豊富な弁理士が、訂正審判をはじめとする特許無効への対抗策をアドバイスいたします。ぜひ一度ご相談ください。



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