用途発明とは?既存物質の新しい使い道を権利化する要件
- 4 日前
- 読了時間: 5分

公知の物質から新たな価値を生み出す「用途発明」は、企業の知財戦略において有力な選択肢となります。本記事では、用途発明とは何か、既存物質の新しい使い道を権利化して「用途特許」にするための要件と実務上のポイントを紹介します。
用途発明とは?
「用途発明」とは、すでに知られている公知の物質や組成物について、未知の属性を発見し、その属性に基づいて新たな用途への使用を見いだした発明のことです。物質そのものを新しく発明したわけではなく、その名のとおり「用途」の発見に本質があります。
用途発明と用途特許の違い
用途発明が特許庁の審査を通過して特許権として登録されると、一般に「用途特許」と呼ばれます。「用途特許」は特許法上の独立した種類を示す名称ではなく、用途発明に基づく特許を指す実務上の呼び方です。
その特許権者は、特許請求の範囲に記載された用途発明を実施する行為に対して、排他的権利を主張できるようになります。
用途発明の具体例
例えば、ある化学物質Xが、単なる着色のための染料として広く知られていたとします。ある日、研究者Aが、「Xには特定のがん細胞の増殖を抑える性質がある」という、これまで知られていなかった性質を発見したとします。このとき、Aが発見した「物質Xを有効成分とする抗がん剤」という新しい使い道が用途発明であり、これが権利化されると用途特許となります。
このとき、Aが「化学物質Xを有効成分とする抗がん剤」を特許請求の範囲(クレーム)とする特許を取得していた場合、他者がXを抗がん剤として製造・販売すれば、特許権侵害となる可能性があります。
一方で、「Xを染料として販売する」「工業材料として販売する」といった行為が直ちに特許権侵害となるとは限りません。侵害の成否は、特許請求の範囲の記載や製品の表示、販売態様などを踏まえて個別に判断されます。
用途発明が活用される主な技術分野
用途発明は、次のような分野で活用されています。
医薬品・バイオ分野:既存の化合物から新しい疾患への治療効果を見いだす「医薬用途発明」をはじめとして、用途発明が活発に利用されている分野です。
化粧品・食品分野:「シワ改善効果」や「特定の整腸作用」など、新たな機能性の発見につき用途特許が取得される例があります。
化学・材料分野:既存の樹脂や添加剤に「特定の紫外線カット効果」や「特殊な密着性」など、新たな工業用材料としての用途を見いだす例があります。
一方で、機械やITなどの分野では、構造やプログラムの組み合わせそのものが重視されるため、化学・医薬分野と比べると用途発明として扱われるケースは限定的です。
用途発明を用途特許として権利化するための要件
用途発明を用途特許として特許庁に認めてもらうためには、通常の発明と同様に、新規性や進歩性などの特許要件を満たす必要があります。なかでも、次の3つの要件が重要です。
新規性
用途発明における新規性は、物質そのものだけでなく、用途限定も含めて判断されます。すなわち、物質自体がすでに広く知られているものであっても、その用途が既存の用途と異なり、新たに見いだされたものであれば、新規性が認められる可能性があります。
実際にどのような場合に用途の新規性が認められるかは、技術分野や個別具体的な事案によって異なります。特許庁の実務や裁判例を踏まえた判断を要するため、実務経験が豊富な専門家の助言を求めることをおすすめします。
進歩性
用途発明の進歩性では、その分野の専門家が、既知の属性や先行技術などからその用途を容易に思いつけたかどうかが判断されます。予測困難で顕著な効果がある場合は、進歩性を肯定する事情となり得ます。
先述の化学物質Xの例でいえば、「染料として使われていた物質が、抗がん剤として優れた効果を発揮した」という事情は、進歩性を肯定する材料となり得ます。ただし、実際の判断では、先行技術の内容やその分野の技術常識なども踏まえて総合的に検討されます。
明細書の記載要件
用途特許の審査では、特許出願書類(明細書)の記載も重要です。とくに、出願時点で「実施可能要件」および「サポート要件」を満たす十分な記載を行う必要があります。
実施可能要件とは、その分野の専門家が明細書の記載を見て、実際にその用途を実施できる程度に具体的な説明があることを意味します。そして、サポート要件とは、特許請求の範囲に記載された内容が、発明の詳細な説明によって裏付けられていることを意味します。
用途発明では、「実際にその用途に利用できること」を裏付ける具体的な実験データが重要です。とくに医薬品・バイオ分野では、薬理試験結果などの具体的な裏付けが求められます。
出願後のデータが考慮される場合もありますが、出願時の明細書に記載されていなかった効果や技術事項を後から追加し、記載不足を補うことは困難です。出願の時点で、十分な薬理試験結果や性能評価データなどをそろえておきましょう。
用途発明を権利化するためのポイント
用途発明を用途特許として権利化するうえで、「出願前の徹底的な先行技術調査」と「実験データの充実」の2点が重要です。
同じ物質について、出願しようとする用途そのもの、あるいは実質的に同等と評価される用途がすでに公表されている場合には、新規性が否定される可能性があります。出願前に、徹底的な先行技術調査を行いましょう。
また、先述のとおり、用途発明の権利化においては、明細書の「実施可能要件」と「サポート要件」が重要です。出願時に数値データに基づく事実を充実させ、用途の成立や効果を合理的に裏付けられるよう、前もって十分なエビデンスを集め、明細書に盛り込みましょう。
まとめ
用途発明は、既存の物質から新たな価値を生み出せる有力な知財戦略です。一方で、権利化のためには、新規性や進歩性の要件充足に加え、未知の属性の発見と十分な実験データに基づく明細書作成が欠かせません。要件を正しく理解し、出願前の準備を整えたうえで、強固な特許網の構築を目指しましょう。
井上国際特許商標事務所には、用途特許の出願経験が豊富な弁理士が所属しています。用途発明の権利化でお悩みの際は、ぜひご相談ください。



コメント