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選択発明とは?先行技術の範囲内から特定の条件を選び出す特許戦略

  • 9 時間前
  • 読了時間: 7分

すでに世の中にある先行技術と同じ発明は、通常、特許として認められません。しかし、選択発明として検討できる場合には、公開されている広い範囲の特許技術から特定の条件や組み合わせを選び出すことで、新たな特許取得の可能性があります。


競合他社の特許を踏まえながら、自社の新技術を保護するための「選択発明」の概要と特許戦略を解説します。



選択発明とは?


選択発明とは、上位概念で表現された発明または広い数値範囲で表現された発明が先行技術として存在する場合に、その中から新規な下位概念又は狭い数値範囲を選択した発明を意味します。平たく言うと、すでに公開されている技術(先行技術)から、これまで具体的に開示されていなかった特定の要素や条件をピンポイントで選択した発明のことです。


選択発明は、化学・素材・医薬品などの分野でよく使われる手法です。ここでは、イメージしやすいよう、身近な例を示します(※あくまでイメージのための例であり、実際の特許とは異なります)。


仮に、A社が「コーヒー豆を100℃〜300℃で焙煎すると香ばしい飲料ができる」という特許をすでに有していたとします。そのうえで、B社が研究を重ねた結果、「232℃〜235℃の極めて狭い範囲で3分15秒間焙煎すると、通常の3倍の抗酸化成分が抽出される」という特殊な現象を発見したとします。


この場合、「232℃〜235℃」という温度帯は、先行技術の「100℃〜300℃」に含まれます。しかし、先行技術には「232℃〜235℃で3分15秒間焙煎すると特殊な効果が出る」といった内容は記載されていません。


このように、既存の技術の広い範囲から特定の条件を選び、それによって予測できない特別な効果を生み出した場合、これが「選択発明」という新たな特許として認められることがあります。



選択発明として特許を受けるための2つの要件


特許庁に選択発明として特許を認めてもらうには、特許法第29条に規定される次の2つの要件をクリアする必要があります。


新規性(特許法第29条第1項)

1つ目の要件は、新規性です。すなわち、選択したピンポイントの条件が、既存の特許(刊行物など)に具体的に記載されていないことが必要です。例えば、先述したA社の先行技術に「特に233℃で焙煎することが理想的である」とピンポイントで書かれていた場合、B社の「232℃〜235℃」という範囲の選択に新規性はないもの(同項第3号に該当)と判断されます。


進歩性(特許法第29条第2項)

2つ目の要件は、進歩性です。進歩性とは、その条件を選択したことによって、それまで当業者が予測できなかった「顕著な効果」を生じさせたことを意味します。


進歩性は、選択発明に特許が認められるための重要な要件です。特許庁は、出願人から提出された証拠データをもとに、効果のレベルに応じて「異質な効果」ないし「同質だが顕著な効果」の有無を慎重に審査します(特許・実用新案審査基準による)。


  • 「異質な効果」:先行技術が主張していたものとは全く違う種類の新しい効果が生じることです。先述の例では、「香ばしくなる」という効果とは異なる「通常の3倍の抗酸化成分が抽出される」という効果が挙げられます。

  • 「同質だが顕著な効果」:先行技術と同じ種類の効果だが、ピンポイントな条件のもとでは劇的な効果が生じることを意味します。例えば、「232℃〜235℃の瞬間だけ香ばしさの原因成分が10倍に跳ね上がる」という効果が挙げられます。



選択発明が成立した場合の法的効果


他社の特許の範囲内から選び出した選択発明について、自社の特許(選択特許)が成立した場合、どのような法的効果が発生するのでしょうか。知財戦略上、重要な「利用関係」について説明します。


他人の基本特許との「利用関係」(特許法第72条)

他人の特許(基本特許)の数値範囲に含まれる選択発明は、法律上、他人の特許を「利用」する関係(特許法第72条)になります。


  • 特許法第72条(他人の特許発明等との関係):特許権者(中略)は、その特許発明が、その特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明(中略)を利用するものであるときは、業としてその特許発明の実施をすることができない。


例えば、B社が選択特許を取得できたとしても、その技術はA社の特許範囲(100℃〜300℃)の中に収まっています。そのため、B社は自社の特許であっても、A社の許諾(ライセンス)を得なければ、原則としてその製品を製造・販売することができません。つまり、実施の制限を受けることになります。


基本特許権者も選択特許の範囲は自由に実施できない

一方で、A社(基本特許権者)側にも制限がかかります。A社は「100℃〜300℃」の特許を持っていますが、B社が選択特許を押さえた「232℃〜235℃かつ3分15秒」のピンポイントな範囲については、B社の許諾なく実施することができません。


つまり、選択特許が成立すると、「お互いに相手の許諾なしには、そのピンポイントのベストな条件を使えない」という牽制関係が生まれます。



選択発明を用いた特許戦略


このような法的効果を生じさせる選択特許は、企業がビジネスを有利に進めるうえで、重要な武器になります。主な戦略的メリットは、次のとおりです。


競合他社の特許の隙間を突く突破口

競合他社が広い範囲で基本となる特許を押さえている場合、その市場への参入は、一見すると困難に見えます。しかし、その広い網の目の「隙間」を徹底的に研究し、特定の条件のもとで成立する選択特許を見いだせれば、その特定範囲について独自の権利を確保できます。


クロスライセンスの交渉材料

もし競合他社の特許の範囲内で優れた選択発明を特許化できれば、相手企業もその特定のベストな条件を使いたくなります。結果として、「お互いの特許を使い合いましょう」というクロスライセンス契約を結ぶ際の交渉材料になります。


自社技術のライフサイクルの延長

競合他社ではなく自社が既存の特許を持っている場合には、自社技術のライフサイクルの延長、いわゆる「パテント・ライフ・エクステンション」に選択特許を役立てることができます。


具体的には、その特許の有効期限(原則20年)が切れる前に、その特許の範囲内からピンポイントに選び出された条件下で成り立つ発明を選択発明として出願します。これにより、基本特許が切れた後も、コアな技術部分をさらに長期間、保護できる余地があります。このような手法は、実際に医薬品業界などで活用されている特許戦略です。



選択発明を出願する際の注意点


特許戦略上、多くのメリットがある選択発明ですが、特許取得の難易度は比較的高いです。出願の際には、次のような注意点を念頭におきましょう。


明細書の記載要件

選択発明では顕著な効果を立証する必要があるため、実施例や比較例を含む実験データを十分に記載しておくことが重要です。「この条件ではこのような効果が生じる」という論理を机上で記載しただけでは、特許出願が拒絶される可能性が高いです(特許法第36条の記載要件違反など)。


出願する時点で、その条件がなぜ他と比べて優れているのかを客観的に証明する具体的な実施例や比較例の実験データを、特許明細書に細かく書き込んでおきましょう。


競合からの異議申立てや無効審判に備える

選択発明を出願する以上は、既存の特許を有している側からの反発も想定しておく必要があります。選択発明の権利化後に、競合他社から異議申立て(特許法第113条)や無効審判(特許法第123条)を起こされるなど、有効性が争われる可能性があります。



まとめ

選択発明は、先行技術として広く示された範囲の中から、特定の条件や組み合わせを選び出すことで成立し得る発明です。特許として認められるには、新規性や進歩性に加え、選択した範囲によって予測しにくい有利な効果が生じることを示す必要があります。


ただし、選択発明は基本特許との関係や、明細書に記載すべき実験データの内容など、出願前に検討すべき点が多い発明でもあります。選択発明の出願や活用を検討している場合は、早い段階で弁理士などの専門家に相談することが大切です。


井上国際特許商標事務所では、経験豊富な弁理士が、選択発明の出願や対抗策に関するアドバイスをいたします。ぜひ一度ご相談ください。


 
 
 

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