
企業にとって情報は、競争優位性を確保し、事業を成功に導くための重要な資産です。
今回は、企業が扱う情報の中でも重要性の高い「営業秘密」の意義と、営業秘密として法的保護を受けるための3つの要件について詳しく解説します。
秘密情報や機密情報との違いにも触れているので、適切な情報管理体制を構築するための参考にしてみてください。
企業活動における情報の重要性と不正競争防止法
営業秘密とは、企業が事業活動を行う上で有用な情報のうち、不正競争防止法によって法的保護を与えられたもののことです。
まずは、営業秘密を理解する上で不可欠な「企業活動における情報の重要性」と「不正競争防止法」について解説します。
企業活動における情報の重要性
製品の設計図や顧客リスト、独自のノウハウなど、企業活動において扱われる情報は、まさに企業の生命線とも言える重要な資産です。
これらの情報は、競争優位を築き、事業を成功に導くための重要な要素となります。また、適切な情報管理は、投資家や取引先からの評価を高め、企業価値を向上させることにもつながります。
一方で、貴重な情報が不正に取得・利用された場合、企業は大きな損失を被るおそれがあります。例えば、長年の研究開発によって得られた独自の技術情報や、営業活動を通じて蓄積された顧客リストなどは、競合他社に知られると競争力喪失や市場シェアの低下を招き、収益減少につながる可能性があるでしょう。
また、経営戦略や財務情報といった社内情報が漏洩した場合、開発費用の損失、顧客の流出、ブランドイメージの低下などを招き、経営判断の誤りや資金繰り悪化を引き起こすことがあります。
このように、企業活動において情報は重要な役割を担っています。したがって、企業が保有する重要な情報を「営業秘密」として適切に保護し、不正アクセスや情報漏洩といったリスクから情報を守るための対策が不可欠です。
不正競争防止法の概要
不正競争防止法は、このような営業秘密の不正取得や不正利用といった行為を規制し、公正な競争環境を維持するための法律です。この法律によって、企業は自社の営業秘密を保護するための法的根拠を得られます。
さらに、不正競争行為を禁止し、営業秘密を含む企業の知的財産を守るための法律でもあります。不正競争防止法は、営業秘密以外にも、模倣品対策や著名表示の不正使用の禁止など、広く知的財産権を保護する役割を担っており、健全な市場競争の維持に貢献しているのです。
営業秘密の保護に関するものとしては、次のような行為を規制しています。
営業秘密の不正取得:盗用、脅迫、詐欺など不正な手段で営業秘密を取得する行為。
営業秘密の不正利用:営業秘密を知りながら、正当な権利なく使用・開示する行為。
その他の不正競争行為:模倣品、著名表示の不正使用など。
不正競争防止法違反には、民事責任と刑事責任の両方が規定されています。民事責任としては、損害賠償請求、差止請求などが可能です。刑事責任としては、罰金刑や懲役刑が科される可能性があります。
営業秘密の3要件
不正競争防止法では、営業秘密の3要件として「秘密管理性」「有用性」「非公知性」を規定しています。
すなわち、営業秘密として不正競争防止法の保護を受けるには、それらの3要件をすべて満たす必要があります。それぞれ詳しく解説します。
秘密管理性
営業秘密として保護を受けるには、その情報が秘密として管理されていなくてはなりません。 これは、「秘密管理性」と呼ばれます。1つ目の要件である秘密管理性が認められるには、次のような対策を組み合わせ、多角的に秘密管理が行われている必要があります。
従業員への周知徹底:秘密情報の定義と範囲、管理規定などを就業規則などで明示し、定期的な研修を実施する。
アクセス制限の設定:情報へのアクセス権限を職務に応じて設定し、不要なアクセスを制限する。
秘密保持契約の締結:従業員や取引先と秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)を締結し、情報の守秘義務を明確化する。
文書管理の徹底:紙媒体の文書は施錠保管し、電子データにはアクセス制限を設ける。
情報システムのセキュリティ対策:ファイアウォールやウイルス対策ソフトの導入、システムへのアクセスログの記録などを行う。
有用性
2つ目の要件は「有用性」です。有用性とは、その情報が事業活動に役立つ情報であることを意味します。企業が扱う情報は、単に秘密であるだけでは営業秘密として保護されません。保護されるには、その情報によって企業が競争上の優位性を保つことができる、あるいは利益を得ることができるといった有用性を有している必要があります。
具体的に、どのような情報が「有用」と判断されるかは、業種や事業内容、市場環境などによって異なりますが、一般的には次のような情報が挙げられます。
技術情報:製品開発や製造に関する技術的な情報。製品の設計図、製造方法、アルゴリズムなど。
ノウハウ:長年の経験や試行錯誤によって得られた業務上の知識や技術。形式化されていない暗黙知も含まれる。
顧客リスト:新規顧客の獲得や既存顧客との関係維持に不可欠な情報。顧客名、連絡先、取引履歴、購買傾向など。
販売戦略:競合他社に先んじて売上を伸ばすために重要な情報。価格戦略、販売ルート、プロモーション計画など。
その他、事業活動に有用な情報。
非公知性
3つ目の要件である「非公知性」とは、その情報が公然と知られていないことを意味します。すなわち、ある情報が秘密として管理されていても、それが既に広く知られているものであれば、営業秘密としての保護は受けられません。
では、公知かどうかの判断基準はどこにあるのでしょうか。
非公知の情報は、例えば、社内ネットワークのみに保存され、一部の関係者のみが知っている情報です。口頭で特定の担当者のみに伝えられているノウハウなども含みます。
非公知性が認められるには、インターネット上はもちろん、図書館や業界紙など、一般的にアクセス可能な場所に情報が存在しないことが条件となります。
一方、公知の情報は、インターネット上に公開されていたり、図書館や業界紙などで広く報道されていたりする、誰でも閲覧可能な情報です。
もっとも、公開情報と非公知情報の線引きは必ずしも明確ではありません。このため、非公知性を証明するために、秘密管理性に関する取り組みを適切に行い、記録を残しておくことが重要になります。
具体的には下記のような取り組みが有効です。
アクセス制限の設定
秘密保持契約の締結
情報へのアクセスログの記録
これらの記録は、万が一、営業秘密の侵害が生じた場合に、重要な証拠となります。
営業秘密と「秘密情報」「機密情報」の違い
企業の情報資産を守る上で、「営業秘密」のほかに「秘密情報」「機密情報」といった言葉もよく使われます。
秘密情報と機密情報は、法律で定義された用語ではなく、企業が独自に定義して使用している言葉です。一般的には、社外秘として扱うべき情報全般を指し、重要度に応じて「秘密情報」または「機密情報」と呼び分けられます。
秘密情報とは
まず「秘密情報」は、一般的に広く使われる用語で、公開すると何らかの不利益が生じる可能性のある情報を指します。
定義が曖昧で、契約書などに明記して契約当事者間で保護の内容や違反した場合のペナルティを定めない限り、法的拘束力はありません。また、契約で定められた内容の効力は契約当事者間にのみ及ぶため、原則として、第三者に対して損害賠償請求や差止め請求などをすることはできません。
秘密情報の例としては、社内の連絡事項や顧客の基本情報などが挙げられます。秘密情報には、企業独自のノウハウや顧客情報なども含まれますが、不正競争防止法の保護を受けるには、営業秘密の3要件を満たす必要があります。
機密情報とは
次に「機密情報」は、秘密情報の中でも特に重要度の高い情報を指します。漏洩した場合の影響が大きく、より厳格な管理が求められます。多くの場合、企業が独自に定義し、就業規則などで取り扱いを定めています。
契約書などに明記して当事者間で合意した場合には、その範囲内で当事者間にのみ法的拘束力が生じる点は、秘密情報と同様です。また、営業秘密の3要件を満たせば、不正競争防止法の保護が及びます。
機密情報の例としては、人事評価や契約内容の一部などが挙げられます。
営業秘密、秘密情報、機密情報の関係性
このように、秘密情報は最も広い概念で、その中に機密情報と営業秘密が含まれます。そして、営業秘密は、秘密情報の中でも不正競争防止法の3要件を満たすことで法的な保護を受けられる情報です。
機密情報は、企業が独自に重要と判断した情報であり、法的保護の有無は関係ありません。これらの違いを理解したうえで、適切な情報管理体制を構築しましょう。
まとめ
今回は、営業秘密の3要件「秘密管理性」「有用性」「非公知性」について詳しく紹介し、類似の用語である秘密情報・機密情報との違いも解説しました。
営業秘密は、適切に管理することで、企業の競争優位性を維持し、ひいては企業価値を守る重要な要素となります。一方で、漏洩や不正利用が起きると、企業に大きな損失をもたらす可能性があります。
情報の性質と重要度に応じて整理・分類し、適切な情報管理体制を構築しましょう。自社で情報管理体制を構築できるか不安な場合は、専門家への相談も検討してみてください。
井上国際特許商標事務所には、知的財産全般の知見が豊富な弁理士が所属しています。ぜひご相談ください。
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