
地域団体商標制度とは、地域の名産品や観光名所を「地域ブランド」として保護する商標法上の制度です。今回は、地域団体商標制度の概要やメリット、地理的表示(GI)との違いを解説します。
地域団体商標制度の意味
地域団体商標制度とは、地域の産品やサービスを「地域ブランド」として保護し、地域経済の活性化を図るために設けられた団体商標制度です。
団体商標制度とは、一般社団法人や事業協同組合などの団体が、その構成員に使用させる商標について商標登録を受ける制度(商標法第7条1項参照)で、個別の使用許諾を受けなくても商標を使用できます。これは、通常の商標が商標権者のみに独占使用権が認められていることとの違いです。
地域団体商標制度は、愛媛県松山市の「道後温泉」、福岡市博多区の「はかた地どり」、大分県日田市の「小鹿田(おんた)焼」、横浜市の「横浜中華街」など、全国各地の名産品や観光名所を活性化する手段として活用されています。
地域団体商標を登録するには
出願先と出願・登録料
地域団体商標を登録するには、特許庁長官を名宛人として特許庁に出願します。
出願・登録料は、1区分につき44,900円。10年ごとに更新があり、1区分ごとに43,600円の更新料がかかります。
登録要件
地域団体商標の登録が認められるための主な要件は、次の3つです。
出願団体が農協や漁協等の組合、商工会、商工会議所、NPO法人等であること
地域ブランドが「地域名」と「商品・役務の普通名称ないし慣用名称」などの文字から構成されていること
周知性があること
「1」については、商標法7条1項に「一般社団法人その他の社団(法人格を有しないもの及び会社を除く。)若しくは事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除く。)又はこれらに相当する外国の法人」と規定されています。ここには、株式会社や合資会社、財団法人、学校法人、宗教法人などは含まれません。
「2」の「商品・役務の普通名称ないし慣用名称」でいう「普通名称」とは、業界取引において一般的に使われる名称です。「はかた地どり」を例にとると、「地どり」が普通名称です。「慣用名称」とは、業界内で使用され続けた結果、識別力が失われた慣用名称のことです。例えば「小鹿田焼」の「焼」が慣用名称です。なお、登録可能な商標の種類は「文字」のみで、図形や立体、音や色彩などから成る商標は登録できません。
文字商標について詳しくはこちらの記事をご覧くださいhttps://www.inoue-patent.com/post/logomark-or-wordmark |
「3」の「周知性」とは、「その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」(商標法第7条の2第1項柱書)こと。つまり、出願された商標が、出願者である団体とその構成員が使用する地域ブランドとして需要者の間に広く認識されていることが要件となります。
地域団体商標を登録するメリット
地域団体商標を登録するメリットは、「法的効果」と「ブランド力の強化」に大別されます。
法的効果
地域団体商標を登録した地域団体に所属する構成員以外の第三者が、無断で商標を使用すると、不正使用となります。もっとも、当該団体が第三者とライセンス契約を締結し、使用を許諾すれば、第三者もライセンス料を支払う代わりに商標の使用が可能です。
もし、許諾なく第三者による不正使用が行われた場合、商標権者である地域団体は、第三者に対して損害賠償請求ないし差止請求できます。
また、模倣品が輸入された場合は税関に申し立てて輸入を阻止できたり、国際登録制度(マドリッド協定協議書)を利用して簡易な手続きで海外商標出願ができたりと、国際的に効力を発揮する効果もあります。
ブランド力の強化
地域団体商標の登録を行うことで、地域ブランドが商標法により保護されます。その結果、地域ブランドに法的なお墨付きが与えられ、取引における信用を獲得しやすくなります。法律で保護されることで、ブランドへの信用が高まり、ブランド力が強化されるのです。
また、地域団体商標は出願者である地域団体に所属する構成員のみが使用できるため、団体加入への動機づけになると同時に、構成員の結束を高め、ブランドへの自負を醸成する効果もあります。
地理的表示(GI)との違い
地域団体商標制度と同様に、地域の名産品のブランドを保護する制度として、地理的表示(GI:Geographical Indication)制度が挙げられます。GIとは、農林水産物などの産品の名称からその生産地を特定し、産品と生産地を紐づける名称の表示のことです。
どちらも地域ブランドを保護するための制度ですが、保護対象、管理体制や規制手段などが異なります。
保護対象の違い
まず、地域団体商標の保護対象は「全ての商品・役務」であるのに対して、GIの保護対象は農林水産物・飲食料品等に限られます。よって、地域団体商標で保護される「横浜中華街」のようなサービスは、GIでは保護されません。
保護対象の名称にも違いがあります。地域団体商標では必ず「地域名」を含むことが要件となっているのに対して、GIでは名称から産品の生産地を特定できればよく、必ずしも地域名を含む必要はありません。
例えば、秋田県の名産品でGI登録されている「いぶりがっこ」には、「秋田」の地名は含まれません。
管理体制の違い
品質管理の管理主体と厳格さにも違いがあります。地域団体商標で保護される商品の品質管理は、商標出願した地域団体の自主管理に委ねられています。一方、GIの品質管理体制はいわゆる地理的表示法に細かく定められています。
具体的には、まず登録に際して出願者が「生産工程管理業務規程」を提出する必要があります。登録が完了すると、登録生産者団体が同規程に従って生産工程を管理します。登録生産者団体は、適切な管理と記録の保管義務を遂行するとともに、毎年1回、業務実施報告書を作成し、国に提出しなければなりません。国は、提出された報告書をもとに、品質管理体制をチェックします。
ちなみに、GIの出願主体は生産・加工業者の団体で、必ずしも法人格は必要ありません。出願先は特許庁ではなく、農林水産省です。
不正使用があった場合の措置
地域団体商標の不正使用があった場合は、先述のとおり、商標権者である地域団体が自ら権利行使できます。
一方、GIの不正使用があった場合は、団体自ら差止請求や損害賠償請求することはできません。代わりに国が取り締まり、不正使用を排除します。また、GI制度は国際的な相互保護の枠組みに入っているため、欧州・英国における不正使用があれば各国当局が取り締まりを行います。
まとめ
地域ブランドに商標法上の保護を与え、ブランド力を高める効果をもつ地域団体商標。地域産品のブランド力を向上させるという点ではGIと共通するものの、運用や効果において異なる面もあります。
どちらの制度を選ぶか、ないしは併用するかは、地域ブランディングで目指す方向性や地域の実情に照らしながら検討するとよいでしょう。
井上国際特許商標事務所では、地域団体商標制度だけでなく、類似制度の活用も含め最適な手続きをご提案いたします。地域資源のブランディングをお考えの方は、ぜひご相談ください。
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