商標ライセンス契約とは?権利を守る契約書の作り方と3つの使用権を解説
- Eisuke Kurashima
- 2024年6月12日
- 読了時間: 6分
更新日:8月4日

「グループ会社に自社サービスのネーミングを使わせたい」
「営業を委託している代理店の販促物に自社のロゴを掲載したい」
「自社商品につけたネーミングが他社の登録商標と似ているが安心して使えるだろうか」
こうした場面で、商標権者と第三者との間に結ばれる契約が、商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)です。
本記事では、主にどのような目的でどのような使用権が許諾されるかを中心に、商標使用許諾契約について解説します。
商標ライセンス契約の基本|当事者と契約の仕組み
商標使用許諾契約とは、登録商標の使用につき、商標権者と第三者との間に結ばれる契約のことで、「商標ライセンス契約」とも呼ばれます。
商標使用許諾契約が結ばれる目的は、大きく分けて2つあります。1つは、商標のもつブランド力を利用するため。2つ目は、禁止権の不行使を約束するためです。
なお、商標の使用を許諾する商標権者を「ライセンサー」、許諾を受ける第三者を「ライセンシー」と呼びます。
商標使用許諾契約の意義・メリット
企業が時間とコストをかけて育て上げたロゴやサービス名は、顧客からの信頼の証であり、それ自体が価値ある「ブランド」となります。そのため、他社から「そのブランド力のある商標を自社のビジネスで利用させてほしい」という要望が生まれることがあります。
商標権者は、第三者に商標(例えばロゴ)の使用を許諾する対価として商標使用料(ライセンス料)の支払いを受けて利益を得られるため、商標使用を許諾するメリットがあります。一方で、ロゴの掲載された劣悪な商品が出回るとブランド力が損なわれてしまいます。
そこで、商標の使用態様や対象商品・サービスの品質などを契約で定めてブランド力を維持しながら、ライセンス料を得てブランド力を利用する方法として、商標使用許諾契約が結ばれます。
冒頭の例では、「グループ会社に自社サービスのネーミングを使わせたい」、「営業を委託している代理店の販促物に自社のロゴを掲載したい」といったケースでブランド力の利用目的での商標使用許諾契約が結ばれます。
禁止権不行使を目的として締結することも
商標が特許庁に登録されると、商標権者は、指定された区分の商品・サービスにおいて登録商標を自己の商品・サービスに独占的に使用できるようになります。
登録商標の独占使用が認められている商標権者は、自己の商標と類似の商標を使用する第三者に対して、その使用行為を排除できます。具体的には、商標権者の許諾なく商標が使用された場合、商標権者は損害賠償請求や差止請求ができます。このような権利は「禁止権」と呼ばれます。
すでに登録済みの商標と類似の商標を使用したいと考える第三者は、商標権者から禁止権を行使されるリスクにさらされるわけです。そこで、あらかじめ商標権者から「禁止権を行使しない」という合意をとっておき、後のトラブルを防ぐ目的で、商標使用許諾契約が結ばれることがあります。
冒頭の例では、「自社商品につけたネーミングが他社の登録商標と似ているようだが、安心して使えるだろうか」と不安を抱く第三者が、商標権者との間の紛争予防の手段として、禁止権不行使目的の商標使用許諾契約を結びます。
契約前に知るべき3つの「使用権」
商標使用許諾契約で認められる「使用権」の種類は、大きく次の3つに分けられます。
専用使用権
独占的通常使用権
非独占的通常使用権
1.専用使用権
専用使用権とは、「設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」(商標法第30条)使用権です。
「専有する」という言葉のとおり、専用使用権が認められたライセンシーは独占的に商標を使用できます。専用使用権に基づき、他者の商標使用行為に対して直接差止請求することも可能です。
このとき、商標権者であるライセンサー自身も商標使用できなくなることが、後述の独占的通常使用権と異なる大きなポイントです。また、専用実施権を特許庁に登録しなければ効力が発生しない点も通常使用権とは異なります。
2.独占的通常使用権
通常使用権は、ライセンシーに「ライセンサーから差止請求などの権利行使をされない」という契約上の地位を認めるものです。その結果、ライセンシーは商標権侵害の責めを受けることなく商標を使用できます。
このような使用許諾を特定のライセンシーのみに認め、その他の第三者には許諾しない旨の特約があれば、通常使用権のうち「独占的」通常使用権ということになります。
独占的通常使用権では、ライセンサーがその他の第三者に商標を使用させないことを約束しますが、ライセンサー自身は引き続き商標使用できます。また、契約内容によっては、権利者(ライセンサー)自身も商標を使用しないと定めることも可能です。
なお、独占的通常使用権はあくまで「ライセンサーがライセンシーに権利行使しない」ことを約束したものですから、独占的通常使用権に基づきライセンシーが他者に直接差止請求することはできません。
3.非独占的通常使用権
非独占的通常使用権が合意された場合は、ライセンサーは、商標の使用を特定のライセンシー以外の第三者にも許諾できます。
このように、合意する使用権の種類によって、ライセンサーとライセンシーの権利の強弱が異なります。
トラブルを防ぐ契約書の作り方と主な条項
商標使用許諾契約では、「対象となる商標」はもちろんのこと、使用権の種類、ライセンス料が有償か無償か、有償なら「ランニング・ロイヤリティ方式」か「ランプサム方式」か、あるいはそれらを組み合わせた方式かなど、定めるべき条項は多岐にわたります。
一般的な契約と同様に、契約期間、契約の終了ないし解除、紛争になった場合に準拠する法律や管轄に関する条項も必要です。
定めるべき条項および内容は、ライセンサーとライセンシーの間でなされる合意によって様々です。双方が想定している商標使用の範囲が一致しているか、トラブルになった場合の責任の所在と範囲は明確か、あいまいな規定はないかなど、取引の実情に照らして詳細に定めておきましょう。
まとめ
商標ライセンス契約は、自社のブランド価値を活用して収益を得たり、他社との無用な権利トラブルを避けたりと、企業の成長戦略において重要な役割を果たします。しかし、その効果を最大限に引き出すには、契約の目的に合った「使用権」の種類を選び、双方の権利と義務を契約書で明確に定めることが不可欠です。
特に、使用する商標の範囲、品質管理の義務、そしてライセンス料の算定根拠といった項目は、当事者間の認識が少しでもずれると、将来の大きなトラブルに発展しかねません。こうしたリスクを避け、自社の利益を長期にわたって確実に守るためには、交渉の初期段階から商標法と契約実務に精通した専門家のアドバイスを受けることが賢明な判断といえるでしょう。
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